持続可能な国づくりを考える会

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スウェーデン大使館の夜

2009年07月30日 | スウェーデン
東京、六本木。緑が茂る外壁の中、スウェーデン大使館があります。
北欧スタイルのインテリア・ファブリックに象徴されるような、まさに洗練された美意識のある空間です。



7月27日(月)に、大使館内オーディトリアムで行われた(社)スウェーデン社会研究所主催の第88回スウェーデン研究講座に参加しました。
88回という末広がりな、しかも大安吉日ということで、講演者もこの日を選んだということでした。



タイトルは「スウェーデンの極地からみた気候変動の実態」、石川県の白山国立公園で管理のお仕事をされている、㈲オフィス・イヌイ代表の、乾靖(いぬいやすし)さんが講師に立たれました。
この方からは、とても自然を愛しておられるという気持ちがじんわりと伝わってきます。部屋に入ったときに、「こんにちは」と優しい声で挨拶してくださったことも印象的でした。
事前に告知されていた講演タイトルは「スウェーデンをトレッキングして感じた地球環境の素晴らしさ」でしたが、こちらのタイトルにもお人柄が伺われます。



乾さんは、2007年2月に、ラップランドでのトナカイの大量死の新聞記事を目にされたそうです。
その大量死の原因は餓死。
暖冬で雨が降り、それが冷えて地面が凍り、トナカイが餌である苔を食べることができなかったからだ、と。
乾さんは「温暖化」を考えるようになった過程で、「地球の環境危機が叫ばれてはいるが、今の若い人たちに危機感を煽るだけではいけない」と思われたそうで、人々が地球上の豊かな自然へ期待し、それが生きる希望につながれば、と願っておられました。



そして、ラップランドから北極圏へのトレッキングツアーに出かけられ、そこでの体験を語ってくださいました。

※ ラップランド:Lapland
=スカンジナビア半島からコラ半島に渡る地域で、伝統的にサーメの人が住んでいる地域を指しています。
スウェーデン・フィンランド・ノルウェー・ロシアの4ヵ国にまたがっています。
※ サーメ
=かつてはトナカイの遊牧などで狩猟生活を行っていた北方少数民族です。
現在もトナカイの遊牧の52%はスウェーデンで行われているとのことでした。

ストックホルムからキルナへ、そこでバスに乗り込みます。
このバスは人間だけでなく荷物や郵便も乗せて、途中途中に運転手さんがポストに配達もしていくのだとか。
人口の少ないところだからこそですが、なんとも効率的なシステムですね。運転手さんは、一苦労かもしれませんが…。

ラップランドは水が豊かで、日本のように川・湖・沼の多い湿地の土地です。
そのおかげで、トレッキングの時にちょっとしたボトルさえ持っていれば、その辺りでいくらでも水を汲み、そのまま飲んだりお料理したりすることができるそうです。

ちょっと余談ですが、おもしろかったお話をご紹介します。
川岸でボートを待っている間、そこでサーメの方が「トナカイの焼肉のハンバーガー」という物を売っていたそうです。
その小さな小屋(お店)の看板には、「LAP DANALD」の文字が。
ラップダナルド → ラプドナルド …某有名チェーン店の名前にとっても似ていませんか?(笑)



次の年にそこに行かれた時、小屋は無くなっておりきれいなショップにリニューアルされていたそうで、商売上手だと乾さんは感心されていました(笑)。
どこにでも、商魂たくましい方はいらっしゃるのですね。

それでは戻ります。
スウェーデン政府から出されているトレッキング時のルールというものはあまり厳しくなく、自然の浄化の範囲内で自由に、また、自己責任で、ということが「自然に」行われているそうです。
山小屋の管理人の方も、「飲み水は上流で汲んで、排水は下流へ流して、洗濯はその中間でやったらいい。」という風なことしか言わないそうです。

山小屋でも多く見られたそうですが、スウェーデンでは木材資源もとても大切にされていて、廃材も家具として仕立て直したり、古い物を捨てずに使っていくことが当たり前になっているようです。
「ごみを出さずに、ごみになるものは買わない」ということが共通意識になっているんですね。

乾さんは仰っていました。
「皆が一気にエコ製品に買い替えることで、大量の不用品が発生し、工場のラインはフル稼働し、結局は増産体制になっているだけ。エコ、エコと言うけれど、この“一気にみんなで”という流れは間違っていると思います。」

また、kebnekaise(ケブネカイセ)という山についてもお話くださいました。
これはスウェーデン最高峰の氷山だそうですが、現在の標高は2110mくらい。
1906年に出版されたスウェーデンの児童文学、「ニルスのふしぎな旅(ニルス・ホルゲションの素晴らしきスウェーデン旅行)」の注釈には、ケブ<ネカイセの標高は2130mと記されているようで…。
つまり、この100年余りの間に最高峰の氷山が溶け、標高が20mも低くなっているということなんですね。



スウェーデンの方たちは、「氷山が溶けている」ということにとても危機感を持っているそうです。
もし、日本の最高峰・富士山がどんどん低くなっているとしたら、私たちもすごい危機感を持つのではないでしょうか。

乾さんはケブネカイセへの道中、何かが「わかった」と仰っていました。
「この雄大な自然を、人間がどうにかしようとするなんて無理なことだ。人間は、谷を渡っていく風のように、何の痕跡も残さずにただ通過し、立ち去っていくべきなのだ。あるがままに。」



このケブネカイセには多くのトレッキング客が登り、学生さんや女性だけのグループも多かったそうです。
スウェーデンでは小さい頃から積極的に自然に関わり、付き合い方を学んでいるようですが、これが日本だったら、子どもは標高の高い山は危ない、何かあったら誰が責任を取るのだ、と敬遠されてしまうのでしょう。
リスクがあるからあれもダメ、これもダメ、というのは淋しい教育方針ですよね。

ラップランドでは、ベリー系の植物を多く見かけ、ひとつの植物群がどこまでも果てしなく広がっています。
一方、乾さんが管理しておられる日本の白山では、さまざまな種類の植物がひしめき合って群生しているそうですが、それはむしろ、「ここでしか生息する場所がないから」という、非常に限界状態でもろい状態なのかもしれない、と仰っていました。

最後は、ロッド・スチュワートの「パープル・ヘザー」という曲をバックに、美しい写真のスライドショーで講演は幕となりました。
ロッド・スチュワートはイギリスのミュージシャンですが、彼のその曲は、ラップランドを意識して作られたのではないか…と、乾さん。
ちなみに、「パープル・ヘザー」とはヒノキ科の背の低い樹木で、ラップランドでよく見る植物だそうです。



最初のお話の通りに、私たちは遠く離れている2国のことを考え、その自然のつながりに気付き、素晴らしい地球の美しさについて思いを馳せました。
世界の植物分布図の資料によると、日本もラップランドと同じように緑に覆われた国です。
遠いスウェーデンの写真を見ながら、日本の自然と生態系のことを思う、そんな素敵な時間でした。

筆者は昨年の夏に白山を訪れましたが、再度、訪ねたいと思いました。
そして、スウェーデン・ラップランドにも、いつの日か訪れてみたいと強く思いました。

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2 コメント

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Unknown (真介)
2009-07-31 01:35:13
こんばんは。
記事楽しみに拝読しております。
スウェーデンはずっと非常な優等生とお聞きしてきて、若干お高く近寄りがたい感じを勝手に持っておりましたが、お読みしてとても身近に感じることができました。森の管理人のひとのアバウトなアドバイスがとってもO型な感じでいいですね。やっつけ仕事のような屋台の名前も笑えますが、しっかり商売を繁盛させているとはさすがバックキャストの国の人です。
今後も貴会のご活動・ご活躍に注目しております。それでは。
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真介さん、コメント有り難うございます。 (マツバラ)
2009-07-31 23:47:44
おっしゃる通り、「優等生」的なイメージのあるスウェーデンが身近に感じられる素敵な講演でした。
とにかく、スウェーデンに足を運んでみたくなりました。
まずは、北海道にあるスウェーデン村からチャレンジでしょうか。。。
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