串田孫一の詩はかっこいいんです
「思索の遊歩道」より
人は、自分のこれまでの生命の道程は
長かったとも短かったとも思えるものだが、
今それをゆっくり辿り直してみようと思うと、
一切が片々としていて、
何故かずっとこうした寒月の凍った夜道だったような気がする。
自分が経験したことは夢ではなく、
事実だったのだろうが、
過去はすべて例外なく、
もう溶けることのない凍った世界に閉ざされ、
これを揺り動かすことも、
叫んで呼び戻すことも出来ない。
専ら森閑とした幻影として凝結したままのものである。

私はこのことが何となく悲しくなり、
冷たい過去の巨大な器から、
これと思うものを掬い上げ、
現在の体温でゆっくり温めて、
蘇生させることが出来ないものかと願う。
だがそれは不可能だと判っているから願うのであって、
若し蘇生が可能となれば、
それを拒み続けたい迷いが必ず起こるのではないか。
過去は閉ざされた扉の彼方で、
恐らく永遠に凍ったままだと判っているから掬われ、
ただ自分の羞恥の想いがそんなことを想わせたのかもしれない。
寒月の鋭い光の中で、
私の想いは躓きそうになる。
LANPA”記憶の森”
「思索の遊歩道」より
人は、自分のこれまでの生命の道程は
長かったとも短かったとも思えるものだが、
今それをゆっくり辿り直してみようと思うと、
一切が片々としていて、
何故かずっとこうした寒月の凍った夜道だったような気がする。
自分が経験したことは夢ではなく、
事実だったのだろうが、
過去はすべて例外なく、
もう溶けることのない凍った世界に閉ざされ、
これを揺り動かすことも、
叫んで呼び戻すことも出来ない。
専ら森閑とした幻影として凝結したままのものである。

私はこのことが何となく悲しくなり、
冷たい過去の巨大な器から、
これと思うものを掬い上げ、
現在の体温でゆっくり温めて、
蘇生させることが出来ないものかと願う。
だがそれは不可能だと判っているから願うのであって、
若し蘇生が可能となれば、
それを拒み続けたい迷いが必ず起こるのではないか。
過去は閉ざされた扉の彼方で、
恐らく永遠に凍ったままだと判っているから掬われ、
ただ自分の羞恥の想いがそんなことを想わせたのかもしれない。
寒月の鋭い光の中で、
私の想いは躓きそうになる。
LANPA”記憶の森”