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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

アカエゾマツ移植試験地の毎木調査

2006-11-08 | フィールドから
・久しぶりのフィールドである.2004年に植栽したアカエゾマツ1200本の根元径と高さを測定する.本日のスタッフは,3名×2チームである.1ブロック100本,12ブロックで構成されているのだが,各個体にプラスチックのラベルが付けられており,単木混交のデザインである.昨年,ラベルのチェックをしておいただけのことはあり,今回,ラベルが紛失していた個体は非常に少なかった.



・寒風吹きすさぶ中,天気も何とか持ちこたえる.わいわい,がやがやとやっているうち,2日はかかると思われた調査が2時ごろには完了してしまった.さすが,当方のスタッフはパワフルである.個体位置図とラベルがしっかりしていたこと,ブロックの形も4列×25行と分かりやすかったことも幸いしたのだろう.ほとんどのブロックでは8割以上が活着していたが,ほとんど湿地状態になっていた一部のブロックでは枯死率が高いようだ.

・この試験地では,2箇所の採種地由来の次代苗が植栽されているのだが,1つは湿地帯,1つは高山帯と,環境が顕著であるところに特徴がある.異なる環境由来の次代を同じ場所に植栽して生育比較をする“産地試験”は,針葉樹ではおなじみの手法だが,自然選択に対する適応反応を環境変異と遺伝変異に分割できるという点では相変わらずパワフルな手法だ.どちらの産地が“有利”なのかはデータを整理してみないと分からないが,そのような観点に立つと,地味な毎木調査が急に面白く思えるから不思議なものである.

ズワイガニの精子競争

2006-11-07 | 研究ノート
・雷,あられ,豪雨とひどい天気である.この時期は天気が悪いと,空全体が重苦しい雰囲気だ.審査結果が戻ってきた論文原稿を放置しておくのはますます気がめいるということで,焼松峠論文の修正にとりかかる.指摘に答えて修正するのは大変かと思ったが,うんうんと唸りつつ,1時間半程度でとりあえずの修正が完了.共著者にメールを送ったところ,早速,返事を頂く.最後の修正稿投稿までには,まだまだ細かいチェックが必要な訳だが,長い道のりもようやくゴールが見えてきたか・・・.

・講義準備もかねて,Trevor Beebee, Craham Rowe 著のAn introduction of Molecular Ecology(2004年)のページを開く.この本は分子生態の初めての教科書という触れ込みで購入したものだ.全体的に,動物生態学よりの本であるが,だからこそ植物生態学でも参考になるところが多い.今まで,集団遺伝の章(6章),保全生態学の章(8章)は斜め読みしているのだが,今回は4章のBehavior ecologyを少しじっくりと読んでみようという訳だ.

・まず,緒言,動物の繁殖様式,雄性繁殖成功,雌性繁殖成功の項目について読む.前半では,遺伝マーカーによる父性解析が可能になったことで,一夫一妻,一夫多妻,多夫一妻,多夫多妻など,行動様式の観察では分からなかった多様な繁殖様式が明らかにされ,理論研究が進んだことが示されている.また,性的二型の進化を説明するために雄性繁殖成功度の測定がどのように利用されたかなどについても紹介されている.しかし,最も興味深かったのは,雌性繁殖成功のところで書かれていた精子競争に関する研究である.

・複数の雄が交配に参加するというのは,決して珍しいことではない.生物の中には,交配してから受精に至るまで精子をしばらく保存できるものもあり,多くの場合,最後に交配した雄が多くの子供の父親になる現象が指摘されているそうだ.この“最後の雄・有利現象”には3つの説が示されている.1つ目の精子損失説(?)は,(おそらく交配後に精子は時間とともに損失していくために)最後の雄は受精までに失われる精子が最も少ないから有利,というものらしい.2つ目の置換説では,最初の雄の精子は二番目の雄の精子によって部分的に置き換えられてしまうために,結果的に最後の雄が有利というものだ,とのこと.3つ目は,最後の雄の精子が最も“よい場所”に貯蔵されているために,父親になる可能性が高くなる(sperm stratification)というものである.

・本書では,Urbani et al. (1998)によるズワイガニのsperm stratificationに関する研究例が紹介されている.実験室内の交配実験で1~4匹の雄と交配させ,交配から数週間後に胚(子)と複数の雄の精子が保存されている貯精嚢からDNAを抽出し,2座のマイクロサテライトで父性解析を行った.子の父性解析の結果,最後の雄がやはり多くの子の父親となっていることが判明した.一方,貯精嚢の解析では,それぞれの雄の精子が別々に貯蔵されており,最後の雄の精子が受精場所に最も近い“よい場所”に貯蔵されていることが分かったのである.

・これを植物に置き換えてみると,精子競争は花粉競争に相当するわけだ.柱頭に最初に到達した花粉が本当に有利なのか?,有利性が発生するような期間の長さは?,花粉競争のメカニズムは?といったテーマを野外の父性解析や交配実験で証明するのは面白そうだし,各種の開花期の変異を説明する上でも重要な知見を提供しそうである.菊沢先生の名著「植物の繁殖生態学」の緒言にも既に書かれているが,動物の繁殖生態学で盛んに研究されているアイデアは,植物分野では未開拓の研究分野だったりするのだろう.

・森林の分子生態学におけるブレイクスルーは,動物の繁殖生態学や1980年代の古典論文なんかに,そのアイデアが転がっているものかもしれないな,などと思いつつ,改めて考えるに,ズワイガニが研究対象というのはやっぱりすごい.これも研究費で買えるんだろうか,などと下世話なことを思ったりして.研究後のズワイガニの行く末が気になるところだが,まあ,考えるまでもないか・・・.

頭熱足熱

2006-11-06 | 研究ノート
・暖房が入らなかった10月は小さな電気ストーブで震えながら仕事をしていたのだが,11月から暖房が入るようになった.その途端,今度は部屋中がもわっと暑い.物事を考えるには頭寒足熱がよろしいということだが,建物全体を暖める関係で部屋内の微妙な調整はなかなか難しい.若干朦朧としつつ,滞っていた連絡調整作業(郵送準備,宅急便,FAX,電話,メールなどなど)を淡々とこなす.短時間の割には,だいぶ片付いたようだ.

・12月初めの大学院生向けの講義のサブタイトルを考える.今回は3人の教員によるオムニバス形式の集中講義である.自分の持ち時間が3時間もあるので,森林分子生態学の基礎的な講義を2時間程度行い,残り時間でデータ解析演習”R事始め”をやろうかと考えている.自分がR超初心者なのに講義しようというのは考えただけでも空恐ろしいが,こうして自分を追い込んで無理やりマスターしてしまおうという魂胆でもある.まあ2日間で10時間の講義を受け続けるのは,学生にとってもきっと大変だろう.おそらく,当方の持ち時間の終わりごろが学生にとっては最も辛い時間帯になるはずで,そういう意味では体(指?)も動かせるし,学生を救済(?)することにもつながるはずである.

・来週13日は,林学会の北海道支部大会である.今回は座長を依頼されているので,座長と当機関からの発表が終われば,そそくさと撤退しようという腹積もりだ.今回は当機関からは2件の発表を予定しているので,発表予定者のMくん,Tくんと,立て続けにプレゼン,原稿などについて打ち合わせる.今回は,中国,東京と大事な時期を不在にしていたので,8日から10日までの仕上がり度合いが勝負(?)の分かれ目になりそう.いつものことながら,何故か余裕の発表予定者に,こちらの方がビビリつつ,細かいスケジュールを決める.それぞれに興味深い結果は浮かび上がってきてはいるので,最後は時間との闘いか・・・.

焼松峠論文,第一審

2006-11-05 | 研究ノート
・日林誌編集部から焼松峠論文の第一審が届く.休みだというのに,ご苦労様です.おかげさまで,以前のブログを見ると10月12日に投稿しているので,今回はかなり迅速な審査をしていただけたようだ(感謝).さて,結果である.前回は原著論文として投稿したところ大幅修正必要との査定だったわけだが,短報として投稿した今回はわずかな修正で掲載可との判断であった.大幅ダイエットはそれなりに機能しているようで,ほっと一息というところである.しかし,査読報告書を見る限り,こちらの意図は完全には伝わっていないようである.

・埋土種子に関する議論がやはりオーバーディスカッションで,論文の中の大きな目的から外すべきだという判断である.これは投稿前に共著者とも議論したところで,妥当な査定だろう.やや曖昧な言い方にすれば,これはクリアーできるな,と.しかし,”支部大会論文集”や”日林論”を示して,これらを引用しなさいとされてしまうとは・・.今回の一連の査読で感じるのは,支部大会論文集を”学術論文”として考えるかどうか,という部分に関する考え方のギャップである.

・もちろん,これらの論文集や普及誌にも重要な役割があり,研究したことを活字にしておけば,後代の人が同じ過ちをする可能性が減るだろう.ある育種学者の説だと,500部以上印刷されるものに残しておくこと(失敗談も含む)が非常に重要で,そうしておけば世の中から消え去らずに済む,らしい.しかしやはり,これらは”学術論文”ではない,と思う.

・論文でないものは引用できないという考えもあるが,日林誌レベルでは支部大会論文集でも引用しても特に問題はない,と思っている.当方の場合,国際誌では基本的に引用しないが,どうしてもその文献がないと論旨が成り立たないときに,”やむを得ず”引用することもある.そんなわけで,査読段階でこれを引用しろと言われるとなんとも言いようがない・・・.ともかく,コメントの一部は参考にさせていただいて,さくっと修正稿を作るとしよう.

散布あれこれ

2006-11-04 | 研究ノート
・東北大のTくんから,スペインのIUFRO大会についての詳しい情報を送ってもらった.散布研究に関して最近の動向が分かり,とても参考になった.BurczykとChybickiは,やはりSeedling Neighborhood Model絡みの発表をしていたらしいが,その発表ではヤチダモ論文の2成分モデルも参考にしてくれたらしい.こうした”引用”はかなり嬉しいことだ(早いとこ論文にしてもらって,そこで引用してくれるともっと嬉しい・・・).うらやましいことに,Tくんは直接は彼らと直接議論したようで,近隣モデルに関するいくつかのコメントをもらう.そこで,かのモデルの問題点,考え方,使い途などを議論するべく,Tくんにメールを書く.

・おそらく,ジーンフロー研究では,もうしばらく近隣モデルやTWO GENERモデルのアイデアを利用した論文が出されるのだろうが,ベイズ統計を利用したものがそれに取って代わるようになるのではなかろうか.そういった意味でもベイズ統計を利用したモデリングの理解は必要だと感じる.しかし,手法にとらわれず,テーマ設定そのものの面白さで圧倒するような論文を書きたいとも思う.現在,進行形のヤチダモ第二弾は,まさしくそれを狙っているのだが,果たして・・・.


フェルマーの最終定理

2006-11-03 | その他あれこれ
・最近,数学者を題材とした小説が好きだ.もともと,小川洋子著の「博士の愛した数式」を読んでからなのだが,小川洋子と藤原正彦の対談集「世にも美しい数学入門」を読んでから,ますます憧れのようなものを抱いている.今回,サイモン・シン著の「フェルマーの最終定理」が文庫化されたのを知り,買ってみたというわけ(小川洋子さんも推薦しているし).

・この本は,有名な「フェルマーの最終定理」がいかに数学者達の心を捉えてきたか,そしてどんな挑戦がなされたかという歴史を絡めながら,天才数学者ワイルズがついに証明するまでのドラマを描いている.ノンフィクションとは思えないほどのテンポのよさとスリルがあり,どんどんページをめくりたくなる.時折,掲載されている数学にまつわる小話も面白く,一挙に読んでしまった.

・あまり数学に興味のない人にもオススメの本だが,この本を読む前に,先に紹介した対談集「世にも美しい数学入門」を読んでおくと,登場人物に馴染みがあってすっと入りやすいかもしれない.ともかく,このサイモン・シンという著者.イギリスのテレビ局BBCで働いていたそうだが,物理学の博士号も取得しており,科学書の分野で他にも評判の高い本を書き下ろしているらしく,要注目だ.

新春座談会

2006-11-02 | 研究ノート
・午前中,3100からのデータを収集.アカエゾマツの新たな3集団96サンプルについて,7遺伝子座のタイピングを行う.珍しくほとんど抜けがなく,増幅もうまく行っている.7プライマーは2セットに分けて3100にセットしたのだが,一晩で解析が終わってしまうのだからすごいものである.今回の実験でアカエゾマツの集団遺伝解析については,遺伝子型データがほぼ揃ったようだ.結局,15集団,458個体,マイクロサテライト7座の遺伝解析をやったことになる.新たな3集団を加えて,結果がどのように変化するか,楽しみである.

・午後から四谷で林木育種関連の会合(新春座談会!?)に出席する.編集委員会で決まった試みとのことだが,林木の育種・新春号に若手研究者による座談会の様子を載せようという試みだそうだ.かくして,各地から遺伝や育種に携わる若手研究者7名が召集させられたというわけだが,そもそも人選はどうしたのか,果たして我々が“若手”と呼べるのか,などと会議前から議論が白熱(?)する.

・名古屋大のTさんの司会で,座談会の始まり.総論,各論,オフレコも飛び出しつつ,あっちこっちに脱線しながら,なかなかに活発な討議が繰り広げられる.気がついてみれば,あっという間に2時間以上経過していた.参加者は自由気ままに発言するだけだが,それをまとめるように指示された若手のFさん(彼は正真正銘の若手だ)は大変である.もくもくとノートパソコンにひたすら打ち込む姿は神々しいほどであった.会議終了後も,0次会,1次会,2次会まで開催され,さらにしゃべる.人数的にもちょうどよかったのであろうが,話題は尽きないものだ.

・さて,いくつか印象的だったこと.T県では,森林のゾーニングがきっちりと決められ,造林は地位指数が一定以上の“循環型経済林”でしか行わないように決定したそうである(不勉強でこうした動きをちゃんと知らなかった).これはT県に限ったことでなく,日本全体で進みつつある傾向のようだ.こうした場面では,育種効果の高い種苗を用いることの必要性が説明しやすい可能性がある.また,最近では,ある一定のボリュームさえあれば,少々質が悪くとも材が売れるという状況も生じているようである.これには中国の木材事情が影響しているのかもしれないが,そうなると一つの目的設定は初期成長と通直性(歩留まりのよさ),下刈りの省力化など,と明確にできるかもしれない.

・このように集まり,ひたすら議論するというのは意外と少ない.普通の会議というものは,大体の道筋が決まっており,本当の意味で議論できる時間は限られたりするからだ(変な問題発言をすると,先生のご意見はまた持ち帰りまして・・・とか言われるし).しかし,このような議論はやっぱり大事で,限られた人数と時間でもそれなりに方向性が見出せそうな気がしてくるから不思議である.また,機関による温度差を埋めるためには,もっともっと話し合わないといけないこともよく分かる.こんな仕掛けは,今後も考えていくべきだろう.

ヤチダモのマイクロサテライト

2006-11-01 | 研究ノート
・本日,またもや東京である.新しく開発したヤチダモ4プライマーを試すために,3100にかける.今回試した4つのうち,1つ(赤)は,ピークの形もきれいで多型性も申し分ない.もう1つ(緑)も多型的だが,微妙にサイズが振れていて,サイジングで苦労しそう.その他の2つのうち,1つは,マルチバンド,もう一つはピークの形が悪く,これまた使いにくいようだ.結局,このまま使えそうなのは1つだけということで,ちょっと残念な結果である.

・ただし,プライマーを開発するときに,同じ座でもう1つの組合せが試せるように設計しているので,今度は新しい組合せを試すことにする.東京でもヤチダモの研究をする予定の留学生がいるということで,学生,Sさんと研究打ち合わせ.学生の実験練習も兼ねて,プライマー濃度などの調整などは任せることに.当方にとっても,こうした実験を頼めることは非常に有難い.

・今回,高価なLA-Taqという酵素を使い,SATL2という超多型遺伝子座を増幅した(はず)だったのだが,ほぼ完全に全滅であった.どうやら,プライマーが劣化してしまっていたらしい.久しぶりに実験をやると,こういう無駄が多くてどうにもいかん.幸い,アカエゾマツの大量SSR解析は上手くいったようで,そちらは一安心.最初,増幅していないものからスタートしたので,もしかして全てのサンプルが完全に駄目かと思って,頭がくらくらした.



・さて,今回のホテルは品川プリンス新館である.福岡ソフトバンクのドームが併設されているシーホーク・ホテルと雰囲気がそっくりである.品川プリンスホテルには,水族館(面白そう!),ボーリング場,ブランドのショップなどの複合アミューズメント施設となっている.どうでもいいけど,高校生の修学旅行らしき団体が3組ぐらい宿泊しているようで,ごったがえしている.とにかく,ホテルはでかすぎるし,宿泊者の数が多すぎて,あまり好きにはなれない.ただし,部屋から東京タワーを望むことができ,夜景だけは素晴らしかった.