募集要項は学校を通じて配布
地元の中学生の中から、選抜で東京大学へ3泊4日の体験学習。この事業が昨年から実施されている。主催者は処分場の問題で本紙でも何度も登場したNPO法人「日本の将来を考える会」(以下IOJ。代表は奈良尾出身の東大名誉教授・宮健三氏)、町は共催で、派遣中学生14名の交通費・宿泊費実費の90%、約58万円を補助。募集要項が学校を通じて配布されている。
偏向・ずさんな講義内容
事業内容だけを取り出せば、子供の教育の一環として貴重な機会を提供する場、といえるが問題は中身。本紙創刊号でも触れたように、昨年の講義内容を調べてみたらどう考えても原発のPRとしかみなせない、ここまでやるか、という代物であった。今回の募集要項によると以下の講義が予定されている。※は編集部注
3/26
10:00~10:50宇宙に輝く星の秘密岡野邦彦 東大教授※電力中央研究所研究員
11:00~11:50宙に浮かぶ磁石・超伝導実験出町和之 東大助教授宮健三氏の弟子
13:00~13:50逆に考えよう-視えないものを診る山本昌宏 東大助教授※宮氏との関係不明(問合せに回答なし)
3/27
10:00~10:50エネルギー利用における原子力発電の役割小川順子win会長 ※日本原子力発電(株)広報室
11:00~11:50脳の秘密を解く上野照剛 東大教授 ※宮氏の友人
テーマをみれば露骨なPR色は出ていないので、批判を受け止めて改善されたかに思えたが、念のため講師の方々と設定テーマの確認を行ったところ、結果はやはり「?!」であった。
5名の講師のうち3人は昨年に引き続いての登壇。まず小川順子氏だが、肩書のwinとはWoman In Nuclearの略で、要は原子力関連の仕事に携わる女性の集まり。本職は日本原子力発電(株)の広報室所属である。日本原電といえばこの国の原発のパイオニアの国策会社。東海村や敦賀などに原発をもち、何度もトラブルを起こして世間を騒がせた会社だ。その広報担当なのだから内容は推して知るべしだろう。
次に岡野邦彦氏。この人の肩書の東大教授はほとんど詐称に近い。本職は電力会社が共同で作っている電力中央研究所(以下電中研)の研究員で、電中研がスポンサーになって東大で開講している講座(冠講座という)に講師として出ているだけ。つまり電中研がお金を出して買っている講座の講師だから、東大教授とは言えず、単なる出張講師である。テーマは前回同様核融合の話。かつての原子力と同じく夢のエネルギーとされ、巨額の研究予算がつくため研究者が群がるテーマだ。
もう一人の超伝導を講義する出町和之氏は原発のメッカ東海村にある東大大学院原子力工学専攻室に所属。宮氏の弟子。
残りの二人は今回初登場。昨年は「医療放射線」と「宇宙放射線」をテーマとした講義で、これではあまりに露骨と考えたのだろう、テーマが変更されている。
ところが、まず上野照剛教授に問い合わせたところ「宮先生から五島の子供に話をしてくれ、というメールはもらいましたが、具体的には何も聞いていません」という答。別掲の内容と時間・場所を教えてあげたら「そんな話をすればいいんですか?、でも3月27日は卒業式だなあ」。ついでに、宮氏が故郷の島に処分場の誘致活動を行っているという背景説明をしたら、「え! 六か所村が断った処分場を島に持っていこうというのですか。そりゃいかん」。まるで茶番である。
最後の山本昌宏氏については、確認のメールを送っているが現在(12・8)まで回答は来ていない。なお、募集要項の講義について「講義内容、時刻については調整中で、変更の可能性あり」と注が付いている。
さて、以上の事実を客観的にみて、本講座は紛れもなく原発PRを定款に掲げるIOJ(恐らく電力会社から資金が出ている)の活動の一環である。故郷の子供を東大で学ばせるというようなきれいごとではない。したがって本命は小川・岡野両氏の講義で、後は声が掛けやすい弟子、友人を取って付けたように講師に並べたにすぎない。東大という虚構の権威を利用して。
町共催の是非
でもそれは許そう。NPO法人が何をしようと勝手だからだ。しかしこれを町が共催し補助金を出す、あるいは広報を学校を通じてやるというのは、公平性、中立性の観点から許されることだろうか。道津教育長にその辺りを質すと「オーライ上五島事業の中に都市との交流というテーマがあり、これに則していると判断した」という。講師陣については主催のIOJを信用していて、具体的に調査はしていない、と。でも、前回はともあれ今回は処分場の問題が発覚しているし、その主体がIOJであることは周知ではないかと突っ込んだが返答はなかった。原子力の有効な利用について子供に語るのは良い。でも負の側面を同時に伝えないと片手落ちの知識しか身につかない。これは子供にとって不幸な事態である。そんな配慮がなされた講義とはとても思えない。
とはいえ、助成金は交付され、来春には予定通り実施されるだろう。最終的にどんな講義がなされたか、またチェックしていきたい。同時に、第3回も同じく町の共催を考えているとしたら(来年度予算を注視する)、もう一度行政に再考を促しておきたい。
蛇足ながら、派遣する中学生は応募多数の場合「コンピュータを用いた英単語テスト―単語の木」で選抜とあるが、この「単語の木」なるものは宮氏が代表を務める(株)普遍学国際研究所の開発になる教育ソフトで、この会社は電力会社の委託を受けてさまざまな調査・解析などを行う純然たる営利会社である
地元の中学生の中から、選抜で東京大学へ3泊4日の体験学習。この事業が昨年から実施されている。主催者は処分場の問題で本紙でも何度も登場したNPO法人「日本の将来を考える会」(以下IOJ。代表は奈良尾出身の東大名誉教授・宮健三氏)、町は共催で、派遣中学生14名の交通費・宿泊費実費の90%、約58万円を補助。募集要項が学校を通じて配布されている。
偏向・ずさんな講義内容
事業内容だけを取り出せば、子供の教育の一環として貴重な機会を提供する場、といえるが問題は中身。本紙創刊号でも触れたように、昨年の講義内容を調べてみたらどう考えても原発のPRとしかみなせない、ここまでやるか、という代物であった。今回の募集要項によると以下の講義が予定されている。※は編集部注
3/26
10:00~10:50宇宙に輝く星の秘密岡野邦彦 東大教授※電力中央研究所研究員
11:00~11:50宙に浮かぶ磁石・超伝導実験出町和之 東大助教授宮健三氏の弟子
13:00~13:50逆に考えよう-視えないものを診る山本昌宏 東大助教授※宮氏との関係不明(問合せに回答なし)
3/27
10:00~10:50エネルギー利用における原子力発電の役割小川順子win会長 ※日本原子力発電(株)広報室
11:00~11:50脳の秘密を解く上野照剛 東大教授 ※宮氏の友人
テーマをみれば露骨なPR色は出ていないので、批判を受け止めて改善されたかに思えたが、念のため講師の方々と設定テーマの確認を行ったところ、結果はやはり「?!」であった。
5名の講師のうち3人は昨年に引き続いての登壇。まず小川順子氏だが、肩書のwinとはWoman In Nuclearの略で、要は原子力関連の仕事に携わる女性の集まり。本職は日本原子力発電(株)の広報室所属である。日本原電といえばこの国の原発のパイオニアの国策会社。東海村や敦賀などに原発をもち、何度もトラブルを起こして世間を騒がせた会社だ。その広報担当なのだから内容は推して知るべしだろう。
次に岡野邦彦氏。この人の肩書の東大教授はほとんど詐称に近い。本職は電力会社が共同で作っている電力中央研究所(以下電中研)の研究員で、電中研がスポンサーになって東大で開講している講座(冠講座という)に講師として出ているだけ。つまり電中研がお金を出して買っている講座の講師だから、東大教授とは言えず、単なる出張講師である。テーマは前回同様核融合の話。かつての原子力と同じく夢のエネルギーとされ、巨額の研究予算がつくため研究者が群がるテーマだ。
もう一人の超伝導を講義する出町和之氏は原発のメッカ東海村にある東大大学院原子力工学専攻室に所属。宮氏の弟子。
残りの二人は今回初登場。昨年は「医療放射線」と「宇宙放射線」をテーマとした講義で、これではあまりに露骨と考えたのだろう、テーマが変更されている。
ところが、まず上野照剛教授に問い合わせたところ「宮先生から五島の子供に話をしてくれ、というメールはもらいましたが、具体的には何も聞いていません」という答。別掲の内容と時間・場所を教えてあげたら「そんな話をすればいいんですか?、でも3月27日は卒業式だなあ」。ついでに、宮氏が故郷の島に処分場の誘致活動を行っているという背景説明をしたら、「え! 六か所村が断った処分場を島に持っていこうというのですか。そりゃいかん」。まるで茶番である。
最後の山本昌宏氏については、確認のメールを送っているが現在(12・8)まで回答は来ていない。なお、募集要項の講義について「講義内容、時刻については調整中で、変更の可能性あり」と注が付いている。
さて、以上の事実を客観的にみて、本講座は紛れもなく原発PRを定款に掲げるIOJ(恐らく電力会社から資金が出ている)の活動の一環である。故郷の子供を東大で学ばせるというようなきれいごとではない。したがって本命は小川・岡野両氏の講義で、後は声が掛けやすい弟子、友人を取って付けたように講師に並べたにすぎない。東大という虚構の権威を利用して。
町共催の是非
でもそれは許そう。NPO法人が何をしようと勝手だからだ。しかしこれを町が共催し補助金を出す、あるいは広報を学校を通じてやるというのは、公平性、中立性の観点から許されることだろうか。道津教育長にその辺りを質すと「オーライ上五島事業の中に都市との交流というテーマがあり、これに則していると判断した」という。講師陣については主催のIOJを信用していて、具体的に調査はしていない、と。でも、前回はともあれ今回は処分場の問題が発覚しているし、その主体がIOJであることは周知ではないかと突っ込んだが返答はなかった。原子力の有効な利用について子供に語るのは良い。でも負の側面を同時に伝えないと片手落ちの知識しか身につかない。これは子供にとって不幸な事態である。そんな配慮がなされた講義とはとても思えない。
とはいえ、助成金は交付され、来春には予定通り実施されるだろう。最終的にどんな講義がなされたか、またチェックしていきたい。同時に、第3回も同じく町の共催を考えているとしたら(来年度予算を注視する)、もう一度行政に再考を促しておきたい。
蛇足ながら、派遣する中学生は応募多数の場合「コンピュータを用いた英単語テスト―単語の木」で選抜とあるが、この「単語の木」なるものは宮氏が代表を務める(株)普遍学国際研究所の開発になる教育ソフトで、この会社は電力会社の委託を受けてさまざまな調査・解析などを行う純然たる営利会社である