ヤングキングアワーズ 2014年5月号より
以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)
今回、論功行賞の悲喜こもごも。
・・・でしたけど、いや~めちゃくちゃ面白かったですね!
ますは、ボナパルト家の人々が、ヨーロッパを切り分けていますが、
それを眺めてベルティエさん、「信じられん光景」だと考えています。
家族会議でヨーロッパの王を決めている。
これ、私もナポレオンについて知り始めたころ、ものすごく不思議に思ったものです。
それだけアウステルリッツでの勝利は、大きな意味を持っていたということなのでしょう。
オーストリアから奪った領土のうちフランス周辺国に、
自分の兄弟や姉妹の夫を、王として置くという統治のあり方。
確かに有用に思えますが、これがナポレオン没落の一因という考え方もあるようですね。
しかし、カロリーヌの夫だからと、ミュラが大公になったことを良く思わない部下たちが、
ベルティエさんにだけは理解を示していたのは笑った゜(*゜´∀`゜)゜
皇帝にこき使われる彼を、同情しているような状況が可笑しかった!
一方で、“敵対者”への優遇。
ナポレオンにとっては相容れない存在であるベルナドット。
彼が公爵になったことに、不満を持つ者もいるようで・・・・・・
ベルナドット自身は、自分を懐柔することで共和派の軍人を丸め込むためと述べてますが、
彼の妻デジレさんは、かつて自分との婚約を反故にしたことへの
ナポレオンの罪滅ぼしかも、と思っているようです。
このあたり、彼女のナポレオンに対する感情の複雑さがうかがえて、興味深い所。
自分を裏切ったナポレオンへのデジレさんの怒りは描かれてきましたが、
「まだ、あたしのことを・・・」と考えるデジレさんからは、
むしろ彼女の方がナポレオンを、想い続けているようにも感じられましたね。
実際、そういったフシはあったらしいので、このあたりがナポレオンとベルナドットとの関係に
大きく影響してくるのかも?
権力をもった者の変質。
まさかの好青年スルトが、こんなにも変わってしまうなんて!
以前、パン屋で働いていた頃の彼を知るビクトルさんが、
その変わりっぷりを、「人相が悪くなった」と表現しているのが的確すぎます。
逆に、ビクトルさんは変わっていない。
いや、むしろ以前よりもたくましく、落ち着きを持ったように感じられるのが、
良い対比になっていましたね~。
スルトに関しては、本来こういったキャラクターの方がイメージ通りなので、
なるほど、あの好青年ぶりは、権力を持った者の変質を描くための演出だったのだな~と、
ここにきてようやく理解できました。 こんな描き方、素敵すぎますよ。
私は、あの好青年スルトが好きだったので、堕ちてしまった彼への不安感が
より強く印象付けられることになりました。 う~ん、やられた!
というか、スルトさんをこうなるよう仕向けたフーシェさんが怖いですわ。
そしてナポレオンの旧友、マルモン!
たぎりましたよ・・・ 彼の言葉と行動に。
遠方の総督に就任することになり、島流しだと不満をもった彼が、
ナポレオンに突っかかっていったわけですけども、
本作らしく拳で語り合っている所が、たまらなくよかった!
彼の不満は、昔馴染みである自分を差し置いて、
よくわからない人間を重用することに向けられていたのですが、
それが単なる政治的欲求に基づくものではなく、ナポレオンが好きだからこそ、
という点に、感じ入るものがありました。
そして、それに本気で応えるナポレオンも、男でしたね~。
マルモンの“告白”に、「気色わるいんだよ!」と拳で返していたのには笑ってしまった!
さらに、「お前が触ったもんは、権力でみんな腐っちまうんだ」というマルモンの言葉には、
読者である私もハッとさせられる重さがありました。
ナポレオン自身も、思う所があるようでしたし・・・・・・
「あいつならどうするかな」
その後、自分の拳にナポレオンが対等に応えてくれたことで、
さわやかな心持ちになって任地へ赴くことができたマルモン。
ナポレオンに対して「ありがてぇ」と述べている彼の瞳が、澄んでいたのが印象的でした。
さらに後、アドリア海沿岸の統治を任された彼が、
ナポレオンならどう統治するかを思い描きながら、様々な施策をおこなっていることは、
単に良い“政治家”というだけでなく、本当にナポレオンへの愛が深いのだな~
と感じさせられてしまいましたよ。
マルモンは、言うなれば「良い人」として描かれていますが、
それゆに出世できないといったことなのかもしれませんね。
ナポレオンの周囲にいるアクの強い個性の持ち主たちとは、少し違った人物像ですし。
スルトが、好青年から人相の悪い人間になったのも、そうした意味で象徴的なのかも。
ただ、マルモンは後々、ナポレオンへの「背信」(仕方ないことだと思いますけども)を
おこなうことになるのですが、このあたりどのように描かれるのか、気になります。
などなど、論功行賞に関する人間たちの悲喜こもごも。
そこにある暗さも明るさも、全てひっくるめて面白かったですね。
そして、もちろん今後も、楽しみです!