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日米対空戦の謎

2011-06-25 23:21:57 | 軍事技術

日米対空戦の謎

 多くの大東亜戦記を読んだが、ひとつ大きな疑問があった。それは対艦船への航空機による攻撃の記述である。それは、日本のパイロットが米海軍の軍艦を攻撃する際は、対空砲火が激しくて生還は奇蹟にひとしいと書かれているのに対して、軍艦の乗組員は米軍の航空攻撃が激しくて、容易に雷爆撃されていると言う事である。対空火器を大量に装備しているはずの戦艦ですら、戦闘機の機銃掃射にさらされてもほとんどなすすべもない。これに対して日本の軍用機が米艦船をゆうゆうと銃撃したなどという記録にはお目にかかれないのである。これは輪形陣など多数の艦艇が対空砲火網をひいて待ちかまえているためではない。単独航行している場合も同様だからである。

第一、艦船攻撃の場合に、接近した航空機を40mm以下の口径の火器で攻撃する場合は、射程の面でも同志討ちを避ける面でも他の艦艇の火器の支援を受けるわけにはいかないのである。また、爆弾を水面に落下させて水切り遊びの石のように、水面を跳ねさせて艦艇に命中させる、反跳爆撃を米軍が多用して戦果を上げたので、日本軍も研究したが爆弾の性能の問題の他にも、攻撃時に艦船のかなり近くまで直線飛行するので、確実に撃墜されてしまうというので止めたという経緯がある。

反跳爆撃のコースに乗った日本の爆撃機の対空砲火の最後の相手は、高角砲ではなく、20mmないし40mm機銃だけであり、攻撃される艦船は付近の艦船の支援は受けられない。つまり日米艦船と攻撃機の条件は同一なはずである。それにもかかわらず米機は爆撃機正面に装備した機銃で対空砲火を制圧して爆撃した。これも日米の対空火器の効果の差を如実に表している。それでは多くの図書は日米の差を何と説明しているか。大抵は近接信管(VTヒューズ)とレーダー射撃の存在に帰している。

例えば、失敗の本質-日本軍の組織論的研究(ダイヤモンド社)では2章の失敗の本質で、日米の技術力の差を総括して

対空兵器もレーダーの研究開発に立ち遅れたため射撃精度は必ずしも高くなかった。また対空砲弾も米軍が開発したVT信管ではなく、在来型の信管のため効果が十分にあがらないことが多かった。

数人の共著による大作が日米の対空兵器の差をレーダーとVT信管の有無だけに帰しているのだ。しかし、これは秘密兵器好みの説明で実態を充分に説明はしていない。以下にその差異を検証したい。

当時の米国の艦船の対空火器のほとんどは、5インチ両用砲、40mm機銃、20mm機銃の組み合わせであった。当然このうちでVT信管を使えたのは5インチ砲だけである。レーダーを備えていたのは5インチ砲用の射撃式装置のMk37だけで機銃用の近接対空用のMk51にはレーダーはない。つまりこれらの秘密兵器が使われたのは、5インチ砲だけであったから、日本機に接近されたらこれらの秘密兵器は使えず、条件は日本艦艇と同様になるのである。つまり世間に流布されている説は極めて局部的なものに過ぎないのである。

 日米の差には3つの原因がある。対空火器の種類の選択の相違、対空火器の性能の相違、射撃指揮装置の相違である。日本の戦艦や空母などの場合には、12.5cm高角砲と25mm機銃の組み合わせであり、米国の艦船の対空火器のほとんどは、5インチ両用砲、40mm機銃、20mm機銃の組み合わせである。対空射撃は有効射程より遠ければ効果はないが、近過ぎても効果はない。日本海軍の場合には、12.5cm高角砲の砲火を突破した敵機が25mm機銃の有効射程に入るまで艦船は無防備になる。米軍の場合にはそこに40mm機銃が待ち構えている。つまり日本機はほぼ隙間なく対空砲火に晒されているわけである。これが第一である。

 米国のほとんどの駆逐艦の場合には、1930年代の艦隊型になった時代から主砲を日本の高角砲より、初速、毎分の発射速度、最大射高のいずれも優れた性能を持つ両用砲を装備している。これより優れた性能を持つのは防空駆逐艦を自称した、秋月型の10cm高角砲だけである。また日本の駆逐艦で12.5cm高角砲を持つのは大戦末期の松型だけであった。大多数の駆逐艦は高角砲ではなく対水上艦艇用の12.5cm主砲であった。一部の駆逐艦の主砲は仰角を増やして対空射撃機能を持たせているが、実質的にはほとんど役には立たない、高角砲もどきであった。だから戦艦や空母を守るはずの日本の駆逐艦は、25mm機銃以外ほとんど防空援護能力がなきにひとしかったが、25mm機銃の有効射程の外にあるから、空母や戦艦の防空支援はできない。

 戦艦や空母の持つ高角砲ですら上述のように、米駆逐艦の主砲にすら劣るのである。25mm機銃と20mm機銃の相違であるが、有効射程は当然25mm機銃の方が大きいが実戦ではカタログ値の半分以下でなければ命中しても撃墜できないとされているが、これは米機の防弾装備の良さによるものもあろう。口径が小さいだけ発射速度も弾倉1セット当たりの装備弾数20mm機銃の方がずっと多い。25mm機銃は映画のように連続射撃できるものではないとされているのに対して、40mm機銃ですら、4発入りのクリップを補給してやれば間断なく射撃できるとされている。以上のように25mm機銃は近接防空には大型過ぎるのであろうが高角砲との中間口径の機銃を持たない日本海軍としてはやむをえなかったのであろう。米軍が20mm砲の威力に格段の不満を持たなかったのに対して、25mm機銃に対する不満は大きかったとされるが、これは射撃式装置など他の要因も総合したものであろう。

 ここで言う射撃指揮装置とはFCS(Fire Control System)のことを言い、火器管制装置などとも言われる。FCSとは「目標の情報を入手し、それを捕捉追尾し所要のデータを得て、砲・発射機に必要な諸元を算出し伝達する装置である(世界の艦船No.493による)。第二次大戦当時の米海軍の射撃指揮の主力は5インチ砲ではMk37、40mm機銃ではMK51であった。これに対応する日本海軍のFCSは九四式高射装置と九五式機銃射撃装置であった。日本海軍のFCSの評価はどちらも芳しいものではない。日本海軍にいて戦後海上自衛隊員として、米国のFCSを用いて射撃練習をしたところ、飛行するドローンに最初から命中弾を与え、操作も簡単であったと述懐したものを読んだことがある。

軍艦マニアでは、世界一の戦艦大和と、アメリカのNo.1の戦艦アイオワと戦えばどちらが勝つかと言う話が出る。答えはまちまちで大和やや有利とアイオワやや有利が数の上では拮抗しているように思われる。これらのほとんどは射撃速度や装甲貫徹威力や装甲厚などのカタログデータを用いて論じたものである。しかし雑誌『世界の艦船」に元自衛隊の射撃の専門家が、FCSも含めた射撃指揮装置の能力の差からアイオワの勝ちであるとごく明快に論じている。これほど日米の射撃指揮装置とマン・マシンシステムの能力には差があるのである。しかも日本海軍の駆逐艦で、主砲の仰角を上げたものですら、九四式高射装置すら装備していない。僅かに秋月型が装備しているだけである。これらを総合すると、防空駆逐艦の秋月は戦時に大量生産された艦隊型のフレッチャー級駆逐艦にすら防空能力は劣ると断じざるを得ない。

日米海軍の防空能力の差は断じてVT信管やレーダーなどの「秘密兵器」の有無の差ではない。最大の要因は射撃指揮装置と言う地味な兵器の能力の差と装備した火器の差によるものである。VT信管といえども、航空機の近くを砲弾が通過しなければ爆発しないと喝破した識者がいたがその通りである。五インチ砲は15m以内を通過しなければVT信管は作動しない。ミサイルのように敵機を追尾してくれるわけではないのである。当時のレーダーは米軍のものさえ、現在のように完全に照準してくれるものとは格段の差がある。

ただ日本海軍の名誉のために言うと、マレー沖海戦で、鈍重で大型、しかも防弾装置もほとんどない陸攻を2隻の戦艦と護衛艦で3機しか撃墜できなかった英海軍の防空能力は、大戦初期とはいえ冴えない。何機か撃墜したとはいえ、何と鈍足の複葉機を撃退できず被雷したビスマルクの防空能力も知れたものであろう。戦艦ティルピッツも数十機の英航空機に襲われて、撃墜したのはわずか2機だった。日英独海軍ともに駆逐艦用の両用砲を実用化できなかったからこの点では一人米海軍が優れていた。つまり日本は悪い相手と戦ったのかも知れない、という思いもする。


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