墓があるのに、死後、その墓に入れない前代未聞の「墓トラブル」が相次いでいる。一体何が起きているのか。葬送問題などが専門の小谷みどり・第一生命経済研究所主席研究員が解説する。

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 近年、日本人のお墓事情が激変し、さまざまなトラブルが起きている。先日、大阪在住の60代の男性から、自分が守ってきた東京の寺にあるおじの墓について相談を受けた。年間の維持費を払い、年に一度は墓参りもしているのに、「墓を撤去されたくなければ九百数十万円を払え」と告げられたというのだ。

 おじには子供がおらず、甥であるその男性が墓守をしてきたのだが、墓の継承は配偶者と実子に限るという寺独自の規則があり、甥は継承する権利がないから、というのが寺の言い分である。高額な請求の根拠は、その墓地を更地にして売った場合の利用料だという。

 こうしたトラブルが起こる背景には、全国的に墓の継承者(墓守)がいなくなり、家ごとに墓を継承する従来のあり方が不可能になってきている現実がある。

 少子化で墓守の該当者が少ない上に、未婚率が上昇してもいる。男性の50歳時点の生涯未婚率は1965年に1.5%だったが、2015年には23.4%に上昇。子供のいない家の墓は途絶えるしかない。都会で暮らす子供が地方の実家の墓守をできないケースも続発しており、「墓じまい」を示す改葬は全国で9万7317件(2016年)もある。

 先に紹介した寺のように、独自の規則を盾に法外な請求を続ければ、継承者不在で無縁化する墓は増える一方だ。 「継承者不在」が引き起こすトラブルは他にもある。

 たとえば、先祖代々の墓や生前に購入した墓があるのに、その墓に入れないというケース。独身だったり、配偶者に先立たれたりして独居の場合、墓守を誰かに頼んでおかないと、本人の死後、入るべき墓の場所を誰も知らないという事態が起こるのだ。遺骨の引き取り手がいなければ、役所の無縁墓に移される。神奈川県横須賀市では、こうした無縁遺骨が2003年には11柱だったが、2014年には57柱、2015年も60柱と急増している。

 墓の生前購入をめぐっては、こんなトラブルも。ある霊園では終活ブームに乗じて「継承者がいなくても入れる墓」を販売していた。当初は業績好調だったが、競争が激化するにつれて収益が悪化して倒産してしまった。経営者である寺は「販売会社に名義を貸していただけ」として、購入者に永代使用料などは返金されない状況だ。

◆死後を託せる人は誰か

 そもそも墓には二つの機能がある。ひとつは遺骨を収蔵する場所としての機能。もうひとつは、残された人が死者と対峙して思いを馳せる場所としての機能だ。前者のあり方は墓石、納骨堂、散骨、手元供養など多様化している。後者の機能としては、住居に仏間がなくなって以降、墓が一定の機能を果たしてきた。

 終活するとき多くの人は自分の骨をどこに収蔵するかという観点でしか考えておらず、二つ目の機能のことが抜け落ちている。そのため生前に購入した墓の場所を遺族が誰も知らないとか、遠方に墓を買ったため、死後、墓参の負担が増えて誰も行かなくなり、やがて無縁墓になってしまうといったことが起こる。

 墓は、死んだ人とそこに遺骨を納めて霊を慰めようという人の双方がいてはじめて成り立つ。昨今の墓トラブルは、生きている間の“無縁化”が反映された結果、浮き彫りになったといえるものだ。

 こうした現象への対策として、横須賀市は墓の所在地などを生前に登録できる「わたしの終活登録」サービスを今年5月から開始した。いわば、お墓の住民票だという。緊急連絡先や遺言書の保管場所なども登録でき、自分の死後、知らせたい人に、市が情報公開できる仕組みだ。これは全国初の試みとして注目されている。

 また、老人ホームや生協の中には利用者や組合員が共同で入れる墓を所有していたり、東京都などの自治体でも合同墓を運営していたりする。

 これまでの子々孫々による縦の継承だけでなく、横の人間関係による墓の継承が試みられている。

 終活とは、お墓を買うことではなく、死後を託せる人は誰なのかを考え、生きているうちにその人とつながっていく作業なのだ。

【PROFILE】こたに・みどり/大阪府出身。奈良女子大学大学院修士課程修了後、ライフデザイン研究所(現、第一生命経済研究所)に入社。博士(人間科学)。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。『ひとり終活』(小学館新書)、『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』(岩波新書)など著書多数。

●取材・構成/岸川貴文