東京地検特捜部は19日夜、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が有価証券報告書に報酬を過少に記載した金融商品取引法違反の疑いがあるとして逮捕。同社を家宅捜索している。東京商工リサーチによると、ゴーン会長の2017年度の役員報酬は前年度10億9800万円に対して33%減の7億3500万円だった。



 日産は同日の発表文で、ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役の不正行為について、内部通報を受けて内部調査してきたとし、ゴーン会長の報酬額を少なくするため、長年にわたり実際よりも減額し、有価証券報告書に記載していたことが判明したという。

 このほかゴーン会長は会社の資金を私的に支出するなど複数の重大な不正行為もあり、ケリー代表取締役が深く関与していることも判明した。

 日産は検察当局に情報提供し、捜査に全面協力しており、今後も協力していくとしている。また内部調査により、両役員の重大な不正行為が取締役としての善管注意義務に違反していると判明し、両取締役の職務を速やかに解くよう取締役会に提案するという。早急に企業統治上の問題点を洗い出し、対策を進めていくともした。

 ゴーン会長側は役員報酬額が最近、大幅減少したのは社長職を退いたことなどが要因と公表していた。だが、東京商工リサーチ・情報部の坂田芳博氏によると、今回のような役員報酬額の過少記載は「過去に例がない」という。

「有価証券報告書の虚偽記載となり、上場にどのように影響するのか注視している」と話した。

 東京地検特捜部出身の弁護士も「こうした捜査は前例がない」と驚きを隠さなかった。

 今回の事件は世界的なニュースにもなっている。日産が仏自動車大手、ルノーの傘下に入っているためだ。

 ルノーは日産を支配下に置くことで、配当などで長年利益を吸い上げてきた。仏政府は仏ルノーと日産との経営統合を求めているとされる。統合に否定的だったゴーン会長がいなくなれば、日産の世界戦略に大きな影響がありそうだ。

 国際的な企業不祥事に詳しい専門家はこう話す。

「日産の経営トップに君臨してきたゴーン会長が不正をしていたとすれば、単なる個人の犯罪ではすまない。日産は役職の解任で幕引きしたいだろうが、組織的な関与も疑われる。日産とルノーの関係がどうなるのかも今後の焦点だ。ルノー側は日産を手放すつもりはなく、後任をどうするかなど日本側の対応次第では、日仏の外交問題になりかねない」

 仏ルノーは日産の株式43%、日産もルノーの株式15%を保有し合っており、ゴーン会長は三菱自動車も含めた3社連合の最高経営責任者(CEO)という立場にもある。自動車調査会社のカノラマジャパンの宮尾健代表はこう話している。

「日産という会社はグローバルアライアンスのなかにある。ルノーの幹部が今回のことを知っていたのか、知らなかったのかが大きなポイントになる。ルノーの大株主のフランス政府との関係もある。日産がルノーとの関係を切ることは、客観的に見て、非常に難しい」

 また宮尾氏は今回の問題を受けて、経営陣に日本国籍以外の人が入っているケースで、日本のカルチャーから大きくかけ離れた報酬を得ている役員のいる日本企業に対して「大きなインパクトがある」とみている。

 ゴーン会長は日産の経営再建のため1999年に最高執行責任者(COO)となり、2000年には社長に就任して、事業を抜本的に見直すなど再構築に大ナタを振るい、「コストカッター」と呼ばれた。17年には会長に就いた。16年には燃費不正問題に見舞われた三菱自動車と提携して傘下におさめ、同社の会長にも就任していた。17年度の三菱自動車会長としての役員報酬は2億2700万円。商工リサーチによると、役員報酬開示以降のゴーン会長の累計報酬総額は過去9年で90億円を超える。

 日産自動車が9回で87億8200万円、三菱自動車工業が1回で2億2700万円。過去最高は2017年3月期の10億9800万円で、これは1億円以上の役員報酬を受け取った役員の歴代30位に該当する。年度別で役員報酬がトップだったのは2009年度(2010年3月期)、2010年度(2011年3月期)、2012年度(2013年3月期)の3回だった。

 また日産を巡っては、東京国税局の税務調査を受け、2017年3月期の税務申告でタックスヘイブン(租税回避地)にある子会社をめぐり200億円強の申告漏れが指摘されていたなどと報じられていた。

 日産は「このような事態に至り、株主の皆様をはじめとする関係者に多大なご迷惑とご心配をおかけしますことを、深くおわび申し上げます。早急にガバナンス、企業統治上の問題点の洗い出し、対策を進めて参る所存であります」とのコメントを出している。(本誌・浅井秀樹 多田敏男)