在宅勤務なのだ

自分でも暇なのか忙しいのかよく分からない。タイトルは多忙としたけれど、多忙ではないなぁー、いくらなんでも・・・

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流は座ると

2017-07-28 15:29:40 | 日記

彩が織田朔良を選んだ時、傷つくのを恐れて、あっさりと傍から離れた。
彩が自分以外の誰かの手を取るのを見たくなくて、物わかりの良い振りをして諦めてしまった。それは夢をSmarTone 上網封じ込めたつもりの、彩の思いに似ていたかもしれない。
どれ程、煙たがれても、なじられても、そばに居るべきだった。

「彩さん……ごめんなさい。おれは……彩さんの事を思って離れたつもりだったけど……」

間違えていた……自分の事しか考えていなかったと、改めて思う。
恋人じゃなくてもただの友人としてなら、きっと彩も話をしてくれたかもしれないのに、物わかりの良い振りをして、彩の取った行動の裏を考えてもみなかった。
彩の抱えた澱が、自分にはどうにもできないのだとしても、きっと何かできることが有ったはずだ。
里流は湿った紙を掴んでごみ箱に放り込み、ホテルを後にした。

眩い朝陽に目を細め、昨夜とは変わった自分の意識を感じていた。

*****

「じゃ、彩。お母さん、お父さんの所に行って来るから。」

「……ん……よろしく言っておいて。」

「あんた、酷い顔しているけど大丈夫なの?二日酔い?」

返事をせずに、冷蔵庫の中に顔を突っ込みオレンジジュースを捜した。時間が経ち覚醒するに伴って、恐ろしい自己嫌悪に襲われていた。

「はぁ……~~~」
幾度目かのため息をついた。
あのまっすぐな瞳の里流に自分が何をしたか、全てではないにしても理解している。

「もしもし……ああ、織田だけど。うん……あのさ、お前、片桐里流の連絡先ってわかる?」

里流の友人、沢口に電話を入れた。
里流の電話番号はそのままだと沢口は告げた。

「そう言えば、あいつも織田先輩に電話したいって言っていましたよ。里流が帰省す數碼通るたびに先輩の事聞いて来るんで、気になるんだったら一度電話してみろって言ったんですけど、あいつまだ連絡してなかったんですか?」

「ああ。昨日会ったんだ。それで……話をしようと思って。」

「そうですか。電話してやってください。きっとあいつ喜びます。」

沢口は高校生のころからの里流の思いを知っていた。

思わず明るくなった後輩の声に、彩は何とか平静を装って話を切った。
得意先から集めた十数個のビールケースを、自宅裏の空き瓶置き場に運び入れるのは、休日の彩の仕事だった。

父が倒れてからも、変わらず注文をくれる数件の飲み屋は、仕事を持つ彩の為に出来る限りの便宜を図ってくれている。
近くに量販店が出来てから、父の店の客はずいぶん少なくなったが、父の人柄を愛し変わらぬ付き合いをしてくれる人も少なくなかった
早く良くなって、注文を取りに来てくれと、わざわざ病院まで見舞いに来てくれた人までいて、闘病中の父親が嬉し涙を浮かべたと、母から聞いた。
本復するのを待っていてくれる人がいると知り、それは闘病する父の活力となった。

「よっ!と。」

ケースを高く積み上げ薄く汗をかいた彩が、一息入れようと台車に腰を下ろした。

首に巻いたタオルに顔を埋めた時、耳の横でプシュッとプルタブを跳ね上げる音がした。

「どうぞ、彩さん。」

「あ……。」

スポーツドリンクを片手に、少し照れたような片桐里流の笑顔がそこに有った。
片頬に深いえくぼができ、子供っぽい表情になる。

「おれもお手伝いしましょうか?」

「いや……もうすぐ終わるから……」

「そうですか。じゃ、ここで待ってます。」

何も無かったかのようにふるまう里流の態度に、一瞬、昨夜の事が自分の夢想の數碼通中の出来事だったらどれほどいいだろうと思う。
だが、ぎこちなく微笑む里流の顔色は、とても血色が良いとは言えなかった。

「里流。そこのビールキャリーをひっくり返して、座ると良い。二つ重ねれば……」

「やだなぁ……おれ、そんな年寄りじゃありませんよ。それに今よりも立ってる方が楽なんです。」

「そうか……そうだろうな。」

ふと彩は気付いた。
もしかすると里流は自分に何ともない姿を見せるために、わざわざ出向いて来たのではないか。

「あの、里流……身体は何ともないか?」

「彩さん……昨夜の事覚えてるんですか?」

「曖昧な所もあるけど、大体のことは……。」

「ずいぶん酔ってましたね。驚きました。」

「俺は……夕べ、里流に八つ当たりをしたんだ。思ったようにいかないのは里は関係ないのにな。正直に言うと俺の描いた将来を、里流が行くのが妬ましかった。だから酷いことをして、憂さ晴らしをした。……すまなかった。」
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