臺灣と瀬田で數理生態學と妄想

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eDNAは生態学に革命をもたらしうるのか(環境微生物DNAでは失敗したのに)?

2017-06-06 21:11:36 | 研究

日本初の新技術が発展していくのを見るのはうれしいですね。しかも自分が直接関係していないのはうらやましい反面、野次馬的な無責任な立場も楽でいいです。

さて、(大きな生物、多細胞生物由来を対象とした)eDNA技術が手法として革命的で、応用生態学に革命をもたらすであろうことは誰の目にも明らかでしょう。そして生態学全般にも「革新」をもたらすのも間違いないでしょう。しかし革命はどうでしょうか? 過去の(成功した)革命は、「生態系」の提唱、LV個体群動態モデル、「栄養段階」の発明、メタ個体群の提唱、カオスの(再)発見、食物連鎖がエネルギー制限とは限らないことの発見(安定性による制限、分散による制限、生態化学量論による制限等)、微生物環の提唱、中立理論、生態系間相互作用の発見、Chessonの一般競争理論、等々でしょうか。

(この投稿、eDNAの話をしていると思いきや、このはやりのキーワードでひきつけておいて、最終的に環境微生物DNAの話に切り替わるので要注意)

eDNAによって個体群空間分布・群集の空間分布の高解像度化:これについてはあまり先が見えてこない。大小の空間スケールで種多様性の分布パターンとか見えてくるんだろうが、それ、ただの生物地理学じゃん。メタゲノミクスの一分野として環境ゲノミクスや群集ゲノミクスが環境微生物学・微生物生態学で花開いた時、未知の機能遺伝子発見や膨大な原核生物多様性の定量化、極限環境における原核生物群集組成の解明など、当該分野における「革命」につながったわけだが、これが生態学の「本流」に革命をもたらしたかといえば疑問だ。培養によらない方法で細菌細胞数や生理活性の定量化が可能になったことによって生まれた「微生物環」理論のような生態学本流での革命は、Venter・2004年の論文から10年以上経っているのに、もたらされていないと思う。機能に関していえば、やはり分離培養するなり現場測定するなりの方法論を組み合わせて初めて「生態系」レベルの定量的特性の理解が深まっている。個体数推定についていえば、環境微生物(原核生物)DNAは、由来が単細胞生物の「細胞(=個体)内DNA」(土壌では大いにあやしい)であり、16SrDNAのコピー数での補正によってDNA量と個体数の間の定量的な関係の推定が比較的容易である。にもかかわらず、環境微生物DNAの空間情報が、空間に関する生態学の理論を刷新したなどという話は聞かない。というよりもそもそも空間情報をうまく利用する生態理論が不足しているように感じる。環境微生物DNAの膨大なデータは、生物地理学やメタ群集界隈に「革新」をもたらしたかもしれないが、メタ群集が有望な方向性なのかどうかもよくわからない。Variation Partitioningは過渡的な手法だったんじゃないですか? 分散を定量的に推定する方法はありますか? 局所群集の境界ってどうやって理論的にも操作的にも定義するわけ? よくわからん。空間生態学は、データ律速というより理論律速なのかもしれない。空間分布データはしょせん時間変動データの代替にはなりえないんじゃないか。気候変動生態学も空間データに頼りすぎ。環境微生物DNAでうまくいかなかったんだから、eDNAでもうまくいかないんじゃないか。空間パターンから機構や因果関係を抽出するには革命的理論が必要ですよ、きっと。

eDNAによる個体群・群集の時間動態:これについてはいままで誰も見たことがないものなので、従来の理論を破壊するほどの革命が近いのかも。早くその成果を見てみたい。環境微生物DNAによる、微生物群集の時間動態の研究なんて山のようにあるわけだが、いくらNGSが低価格化したからといって自然生態系において微生物の個体群動態の時間スケールの解像度で(1日1回とか)、群集組成の記載とか気軽にできる段階ではない。腸内細菌系とかではブレイクスルーが頻発しているわけだが、陸水・海洋・土壌などでは環境中で見つかる「種」(OTU)の大半が系統的関係以外が不明な未知の生物であり、何をやっているか、その属性が全然わからない。eDNAが対象とする大型生物なら個体群動態の時間スケールも比較的長くて観測頻度とのギャップが小さいだろうし、検出される種の形質データベースもそろっているだろうし、それらの点で微生物DNAよりもかなり有利で、生態学の革命にずっと近いところにあるのかもしれない。各種モデリングや機械学習と組み合わせればそもそもの「生物間相互作用」の定義の刷新すら可能な未来が妄想できる。群集集合に対してはどうですか? 低自由度の操作実験系で十分ではないですか。eDNA活躍できそうですか。

じゃあ、空間分布の時間動態が高精度・高頻度で得られたらどうなるの?? 革命ですか。

生態系生態学:これについても見えてこないけどそもそも対象外かも。全宇宙に広がっているかもしれない「ミニマムな」生態系は光エネルギーを基盤にするものも、化学エネルギーを基盤にするものも、「電気エネルギー」(!!)を基盤にするものも、ほとんど微生物過程と非生物過程が駆動しているので、eDNAの対象生物はどうでもいいんじゃないかしら。 環境微生物DNAでさえ、種レベルで生物多様性を記載することは、”機能的冗長性の呪い”のもとでは二の次なものに感じる(生物地球化学、地質学に対する敗北?)。しかし環境微生物DNAでも、全ゲノム解析、培養実験などをうまく組み合わせるような研究が増えているので、革命前夜と言えるかもしれない。

環境微生物DNAに戻って考えてみると、eDNAの成功を横目に、生態学の革命には参加できずに終わってしまうのか? 細胞内共生・腸内細菌群集などの(半)閉鎖系に焦点を絞れば革命は近いのかもしれない。しかし個人的にはあんまりドキドキしない。閉じてるし。「(宿主)個体」の振る舞いという研究対象に興味が持てない。やっぱり湖・海洋・土壌などの開放系生態系での微生物の生き様の理解から生態系の理解への革命につなげたい。そうするとやっぱり各OTUの属性が全然わからないのが問題。腸内細菌に有効な機能推定の方法もあんまりうまくいかない。全ゲノム解析に依存せずにOTU組成から機能(機能遺伝子)組成が推定できる方法を改良する方向で研究を進めていこうと思う。機械学習でいけるんじゃない? それがうまくいったら、個体群・群集などの中間階層をすっとばして、機能遺伝子から生態系の特性(生態系過程の規模や安定性)までジャンプする方法がみつかるかもしれない。そしたら群集-生態系リンクなんて必要なくなるかもね。

 

最後にEDM論文の宣伝(微生物環境DNAもeDNAも直接は関係ないが)

台湾-德國(台独)共同研究の成果

Arndt Telschow*, Florian Grziwotz, Philip Crain, Takeshi Miki, James W. Mains, George Sugihara, Stephen L Dobson*, Chih-hao Hsieh* Infections of Wolbachia may destabilize mosquito population dynamics. Journal of Theoretical Biology (in press)  

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022519317302242

 

日台生態学ワークショップからの成果物の一つ(私は著者ではありません)

Chun-Wei Chang, Masayuki Ushio, Chih-hao Hsieh. Empirical dynamic modeling for beginners. Ecological Research

https://link.springer.com/article/10.1007/s11284-017-1469-9

 

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