建築をめぐる話・・・・つくることの原点を考える       下山眞司        

                     ☆ 2019年1月より、故人が残したものを順次、掲載して行きます。☆

日本の建築技術の展開-19・・・・心象風景の造成・その4:孤篷庵-1

2007-05-09 20:33:49 | 日本の建築技術の展開

[説明不足部追加、また、上図の「弧」は「孤」が正です 5月10日2.00AM]

 大徳寺寺域を東西に貫く石畳道を西へ歩むと、寺域は一旦途切れ、紫野高校の前の坂をあがり左手に見えてくるのが「孤篷庵」。
 道の左に、幅2間もない浅い堀があり、石の橋がかかっている。そこが「孤篷庵」の入口。そこから中を望んだのが上のカラー写真。
 全体は上掲の配置・平面図の通り。この図は、西澤文隆氏の実測図。重森三玲氏の実測図もあるのだが、残念ながら建物の平面図が一部しか描かれていない。
  
 私が最初に訪れたのは、学生のとき。そのとき魅せられて以来、京都へ行けば、中に入れないときでも、必ず訪れる。あえて言えば、桂離宮よりすぐれている、と思う(その理由は、いずれ・・)。

 「孤篷庵」は、元来、1612年(慶長17年)、大徳寺塔頭龍光院の中に、幕府の作事奉行職であった小堀遠州が自ら創立した自分の菩提所。遠州34歳の時という。遠州は、すでに同じ大徳寺の三玄院の住持、春屋宗園に参禅し、1606年(慶長11年)年に「孤篷庵」の号をうけていた。

  註 作事奉行(さくじぶぎょう)
    室町、江戸幕府で、官営の造営、修繕などを統括差配した職名。
    古代の「大工」に相当する技術者。

 当初の「孤篷庵」は小さなものだったらしい。
 その後、1643年(寛永20年)現在地に新たな「孤篷庵」が建てられたと考えられている。そのとき、遠州は66歳。その3年後に没。
 「大仙院」の創立が1513年だから、「孤篷庵」の建設はその130年後である。

 ところが、このときの建物は、1793年(寛政5年)にすべて焼失、1797年(寛政9年)に、ほぼ創建時の姿に再現された。遠州の創建時に描いた「指図」などが残っていたようだ(創建時、遠州は江戸にいて、種々の「指図」が送られたという)。再建にあたり尽力したのは、遠州に私淑し影響を受けていた茶人・松平不昧(まつだいら・ふまい)とされる。建物には、各所の古材が使われているという。

  註 松平不昧:松江藩第七代藩主(1751~1818)、
    片桐石州(大和郡山の慈光院:11月10日に紹介:の創立者)に
    茶を学ぶ。

 さて、以上は沿革。

 注目したいのは、「大仙院」の分棟型式とはまったく異なる建物の配置。
 つまり、全体の空間構成を考えつつ、建物と庭が一度に(建物は増築ではなく)計画され建てられていること。(この段落、説明追加)
 全体は本堂・客殿(図面表示は「方丈」)、書院、庫裏からなっていると考えてよいが、それらをそれぞれ別の建物ではなく、いわば一つの建物にまとめ、庫裏と本堂との間の坪庭なども計画のうち。そして、門から奥へと誘う長い石畳道と、本堂を区画する築地塀の配置、石畳道左側の刈込みなど、すべてが最初からの計画なのである。

 おそらく、遠州にとって、建物とか庭とかの区別はなかったのではないだろうか。それは妙喜庵・待庵において、屋根が非対称になることを厭わず、もっぱら露地の空間の造成にこだわることの延長上にある。
 とにかく、遠州には、「敷地全体の空間が最初から見えていた」のである。

 一般に、建物をつくること=建築物をつくること、と考えられる。
 しかし、考えてみると、遠州のとった考え方、つまり「ひとが在る空間をつくる」ことに徹する考え方こそ、「建物をつくる」ことの本質であると私は思う。
 そして、この時代になって、長年の蓄積の上に、ようやく自由に「ものをあやつる」:「架構を自由にあやつる」ことができるようになり、分棟型式を離れ、「本質」を素直に具現化できるようになった、と言えるのではないだろうか。
 ほぼ同じ頃、増築に増築を重ねて一体の建物につくりあげた桂離宮も同様に、分棟型の建て方から抜け出すことができているのも、技術上の裏づけがあってこそ、と思われる(最初から今見る全体の構想があったのかどうかは詳らかではないが、多分、それはなかったのではないか)。

  註 桂離宮については、小屋伏図なども資料があるので、いずれ紹介。

 なお、桂離宮は、一時、小堀遠州がかかわった、と言われたことがあるが、明らかに影響を受けているのは確かである。

 次回から、「孤篷庵」の空間について、もう少し詳しく紹介。

この記事についてブログを書く
« 日本の建築技術の展開-18 ... | トップ | 日本の建築技術の展開-20... »
最近の画像もっと見る

日本の建築技術の展開」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事