雑感・・・・三木の「E-ディフェンス」

2009-10-30 02:52:59 | 地震への対し方:対震
[註記追加 10.25][解説文言改訂 31日 10.35][神戸新聞の記事転載 31日 17.07]

「長期優良住宅」の実物大実験の「速報」のおかげで、予定の記事作成のペースが乱れています。

「動画」を見ていささか驚いた後、いったいどんなものだ、と思って「防災科学技術研」のHPで「実験実施のお知らせ」という9月28日付「プレス発表資料」を見てみました。

     動画中の、倒壊・転倒直後の
     「どういうこと?」とのような発言と、
     笑い声が印象的です。
     笑い声は、苦笑か失笑かそれとも哄笑か・・・・。

「プレス発表資料」によると実験に使われた「実物」は、構造用集成材の105㎜角の柱(!?)を使い、梁桁も構造用集成材で
試験体1:N値計算に準拠した許容応力度計算で接合金物を決定した建物
試験体2:耐力壁が耐震等級2を満たすが接合部設計を存在応力に基づき行った建物
とあるだけで、[試験体1の解説文言改訂 31日 10.35]
図面は平面図だけ、断面図も伏図も接合部の詳細も分りません。
先回のいわゆる「伝統的工法による住宅」の実験では、詳細な図が開示されていました。
今回はどうして図が示されないのだろう?
そこで、「防災科学技術研」に、試験体の設計図面を教示いただくべく、研究所HPの所定の「問合せメール」宛、問い合わせ中です。

「プレス発表資料」の写真と「動画」に写っている建物から判断すると、潰れたのは「試験体1」のようですが、よく分りません。

なお、先回の記事のコメントに、この実験についての地元紙「神戸新聞」の記事と、別の角度で撮影された「動画」のアクセス先を紹介していただいております。

以下が「神戸新聞」の記事です。[記事転載 31日 17.07]

  ***********************************

認定が進む「長期優良住宅」の耐震性能を図る建物倒壊実験が27日、三木市の実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)であった。
2棟を揺らし、まず、柱の接合部の弱い建物が損壊。接合部の強い優良住宅の建物も最終的に倒壊した。研究者は「与えた地震動が大きすぎたためで、耐震性に問題はない」としている。

長期優良住宅は、耐震性や耐久性に優れた建物が認定され、住宅ローンの優遇措置などが受けられる。
実験は、3階建て木造住宅2棟を使用。一方は優良住宅の基準を満たし、もう一方は同じ構造、重さながら柱の接合部を弱くした。

震度6強の揺れを20秒間与えた。接合部の弱い住宅は10秒で1階部分の柱が傾くなど「全壊」並みの損壊。
優良住宅は柱は持ちこたえたが、壁に圧力がかかり、20秒を過ぎて倒壊した。

優良住宅は、通常基準の1・25倍以上の耐震性が必要とされるが、今回は1・8倍の地震動を与えた。
実験グループの大橋好光・東京都市大学教授は「1・8倍まで耐えられると思ったが、壁が弱かった。基準はクリアしたが、今後データを詳しく分析したい」と説明した。(岸本達也)

    記事を読んでの筆者の感想
     壊れても基準はクリア、とはこれいかに?
     もう一方は、よわいはずなのに、なぜ倒壊しなかったの?

  ***********************************
 
ところで、「動画」を見て、実験そのものとは別の感想を私は持ちました。
実験にはかなりのギャラリーがおられたようです。
このギャラリーの皆様は、いろいろな所から来られた方々だと思います。遠路はるばる、という方もおられるでしょう。

E-ディフェンスのある三木は、地図を見れば一目瞭然、「浄土寺・浄土堂」のある小野市へは10km程度、千年家「箱木家」は、神戸への帰り道沿い、同じく千年家「古井家」は少し遠いけれども40kmほど、中国自動車道を使えば直ぐ。

これらの建物は、どれも、それこそ「長期優良」建物、「浄土寺・浄土堂」は築800年以上、「箱木家」「箱木家」は築400年ほどです。

ギャラリーの方々で、これらの建物の内の一つでも「ついでに」訪ねた方はおられたのでしょうか。

そして、「防災科学技術研究所」の方々で、これらを訪ねた方は、どのくらいおられるのでしょうか。

もちろん、実験の共催者「木を活かす建築推進協議会」の方々は、「木を活かす」ことを考えている以上は、当然のこととして、訪ねているのでしょうね?

先回の「いわゆる伝統工法の住宅」の実物大実験を訪れた「伝統工法」に関心をお持ちの方々の中でも、訪れた方はいなかったようです。
私などは、実験だけ見て帰るなんて、交通費がもったいない、と思ってしまいます。

   註 「古井家」「箱木家」については、下記をご覧ください。[註記追加 10.25]
      この記事では、室町期に建てられた「千年家」は、
      壁に依存することなく、架構自体で自立していたことについて書いています。
      「日本の建物づくりを支えてきた技術-23の補足・・・・古井家の貫から貫工法を考える」
      「日本の建物づくりを支えてきた技術-41の補足・・・・復元・箱木家の空間と架構」 
      「浄土寺・浄土堂」については、各所で触れていますので、
      「このブログ内」で検索してくだされば幸いです。
      なお、その検索でも、上記の記事ならびに関連記事に寄れます。
        
暗い話はやめましょう。
上掲は、先日の台風20号が去った後の「神社の杜」の夕映え。
実は、ほんの一瞬前まで、二本の杉の古木の頂とその下の枝には、数羽の烏がとまっていたのですが、カメラを取りに行っている間に、飛び立ってしまっていました。

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5 コメント

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足元 + 訪ねた方はいらっしゃるようです (ARAI)
2009-10-30 06:40:58
 先回の「いわゆる伝統工法の住宅」の実物大実験において、実務者から寄せられた「なぜ、足元の左右移動を制限した形で行ったのか」との質問に対し、大橋氏は「建物の上部構造すらまだ解明されていないのに、足元をフリーにするところまではとてもいかない」と返答したとのことです。
http://kino-ie.net/report_081.html
また、「この3カ年計画事業の3年度目に、もういちど実大実験が予定されていますが、そこで足元フリーの建物を揺らすというつもりは、いまのところありません。 」とも発言されているようです。
http://kino-ie.net/report_062.html
 氏の説では伝統工法のメカニズムは「初期剛性は土壁が守ってくれる。ある程度以上までいくと土壁が剥落し、耐力がなくなる。そうなってはじめて貫や軸組そのもののめり込みに期待できる。そして最終局面では、柱脚が動くことで地震の入力を減らす」とのことですが、なぜ初期の段階で入力を減らすべきと考えないのか不思議です。
 氏は「こんな要素実験をしたい、という声をどんどんあげてきてください」という提案もされていて、「一体化」をとなえる下山先生とは考える方向性が全く逆と感じます。
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先回の「いわゆる伝統工法の住宅」の実物大実験を訪れた「伝統工法」に関心をお持ちの方々の中には、「浄土寺・浄土堂」、「箱木家」などをついでに訪れた方はいらっしゃるようです。数名の方の記事を目にしましたが、すぐに思い出せる方2名のブログを紹介します。
http://kinoie-kanno.seesaa.net/article/116159689.html
以前、壁の無い建築についてコメント欄で質問させていただきましたが、その写真はこの方のブログにあったものです。

http://kinoie-wada.seesaa.net/article/118270687.html
この方のブログには下山先生を講師とする勉強会を予定しているとの記事があります。
http://kinoie-wada.seesaa.net/article/118270670.html



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コメントありがとうございます (筆者)
2009-10-30 08:19:56
早速のコメントありがとうございます。

大橋氏の、「土壁が先ず壊れる・・・」の説?、軸組が丈夫なだけで、壁には頼っていないことは、古井家、箱木家、そして浄土寺・浄土堂で見たとおりです。

紹介されたブログには、寄ったことがあります。
返信する
追伸 (筆者)
2009-10-30 18:08:07
上部構造まで解明されていない、という説明があったというのが本当なら、
なぜ、こと細かに柱と横材の接合部について規定をつくったのか、まったくわけがわからない論理ですね!
返信する
「まったくわけがわからない論理」同感です + 足元 (ARAI)
2009-11-01 14:52:49
 11月1日の方にコメントしようか迷いましたが、こちらにいたします。
 関西テレビの映像をみてみました。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00165658.html
「担当者は、実験の条件に左右されたところもあると考えられ、基準の見直しにつながるものではないとしている」という部分に疑問を感じます。自分の予想とことなる実験結果が得られてもそれを受けとめてさらに大きな研究成果を得る方もいますが、その逆を行くような発言ですね。今後の方向性如何では、わかっていないのは伝統工法だけでなく、現行法令仕様の危険性、それの何倍の基準を満たしていると平気で言えるあつかましさ、非論理性、ということになるでしょう。
 この実験が、丁度、”耐震診断・耐震補強の怪-3・・・・数値で誤魔化す”の直後であることに不思議なものを感じます。これで仕様が公開されないとするならば、公開実験でもなんでもなく、単なる大掛かりな遊びと見做されても仕方ないように思います。

 映像をみると私の目には「足元」の差が大きいように思います。下山先生が淡路島で見られた土台ごとずれるようなつくりにしておけばあそこまでの倒壊はせずにすんだのではないかという気もします。
 以前、コメントしたかどうか忘れてしまったのですが、「工匠たちの技と知恵」
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-2415-9.htm
という本に、イランの古い木造住宅の独特の高床が紹介されています。半割りの丸太を数本並べ、その上に90度回転させてさらに、丸太を数本並べ、さらにその上に90度回転させて台形状の断面の木を寝かせたものを1つの基礎とし、これを何箇所(本の例では7×2箇所)か配置してその上に土台を流して建物を建てる。
 ただ据え置くだけの建築は日本だけでなく他の地震国にもあるというのに何故基礎と土台を「緊結」せねばならぬのでしょう。そして他の接合部も。不謹慎な発言ですが、どうせ大掛かりな遊びをするのならば、軸組みだけで壁の無い建物とか上記のイランの建物を揺らしてみて欲しいと思います。
 
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不可思議千万 (筆者)
2009-11-01 16:55:41
「工匠たちの技と知恵」を書かれた太田邦夫氏は私の一年先輩にあたり、世界の木造建築を観てまわった方。著作もあります。

実は、この方は、現在「木造建築」をいじくりまわしている坂本功氏一門と同じ研究室の出身なのです。しかし、方向性はまったく逆。

坂本一門がどうして今のような方向に向ったのかは、精神病理的な分析が必要なのかもしれません。
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