「伝統的木造構法住宅の実物大実験」について-4・・・・試供体B棟の「実態」

2008-12-21 12:30:06 | 「学」「科学」「研究」のありかた

[図面更改 16.12][文言追加 18.42][註記追加 22日 15.34]

この「実物大実験」の実施を「歓迎」する声が、まわりから風にのって聞こえてくる。
私はこれを恐れているのだ。

詳細が分らないまま、あるいはあやふやな情報のまま、「『伝統工法でつくった建物』の実物実験があったんだって」という話になってしまうからだ。
「うわさ」が、いつのまにか「真実」であるかのように「変身」してしまう。つまり「風評」が生じる。
こうなることを狙っているのではないか、とさえ「疑う」のは私だけなのか。

   註 それは少し猜疑心が強すぎる、と思われる方もいるだろう。
      「李下冠を正さず」、疑われないように
      「明確な情報を開示すること」が肝腎。
      まして、法令に係わるかも知れない実験なのだ。
               [註記追加 15.34]

私は、日本の各地に住まわれている方が、その地域で、これまでの大きな地震でも倒壊することなく(多少の修理は必要であっても)健在である実例を数多くご存知のはずだ、と思っている。鳥取でも能登でもそして阪神でも宮城でも多数存在するはずだ。
そういった実例を集積し、比べ、見てみることで、かつて日本各地の方々が行なってきた「建物づくりの知恵」(それが「伝統工法」なのだが)について、かなりのことが分かるのではないか、とも思っている。いわゆる「疫学的」な調査。あるいは、「民俗学的」な調査と言ってもよい。
そしてそれは、架台に載せた実験などよりも、はるかに優れた「実験」のはずなのだ。しかも、一つや二つではない。数多いはずだ。
残念ながら、こういう「調査」を、なぜか建築の専門家・研究者はやりたがらない。[文言追加18.42]

かつては、「知恵」は一部の偉い人たちの独占物ではなかったのだ、ということを知らしめるためにも、各地域の方々が、そういった実例が存在すること、しかも数多く存在することを、声高く世の中に公開していただくことを、私は期待している。そして近ごろ、大地震のたびに、少しずつ、そういう「声」が聞こえてくるようになった!「権力」による文化の差配を避けるには、有効な方法ではないだろうか。

もしかすると、今回の実験を準備不足のまま強引に押し進めるのは、この「近ごろの動き・気配」が、偉い人たちは怖いからなのかもしれない。


それはさておき、今回は「試供体B棟」を見てみたい。

「試供体B棟」は、関東間のモデュールでつくられている。
しかし、先回も触れたけれども、モデュールだけが関東であって、建物が関東式であるわけではない。何を考えて、モデュールを変えているのかは不明である。

だから、今回の実験を、関西式と関東式それぞれの建物で行なった、あるいは、農山村の方式と都会の方式という方式の違う建物で行なった、などのように理解したり、あるいは報じられてはならない。
まして、かつての工法で建てた建物:「伝統工法」のつくりを実験した、などと報じられたり、理解されたり、あるいはそのような「理解」を強要したりするのはもってのほか。


「仕様案」の内容から見てゆこう。黄色の色を掛けたところに注目。

先ず「土台」の項。
「試供体B棟」では、「試供体A棟」とは異なり「土台」を設ける方法をとっている。
土台の材寸は高さ135mm×幅120mm。
これを、礎石にあたる場所では、礎石に合わせ欠き込みをつくり、礎石に噛ませ、さらにアンカーボルトで固定している。

このような矩形断面の材を土台に使うとき、私の知っているのは、平に使うやりかた、つまり、幅を135、高さを120として使うやりかた。たとえば、4寸角主体のとき、4寸×5寸(五平:ごひら:と呼んでいるようだ)を平に使う、など。
しかし、この「試供体」の場合は、「土台」は120mm角でよいのだが、礎石に15mm噛ませるので、その欠けた分の15mmを足したのだろう。

幅120mmのところへ150mm角の柱を立てるため、「通し柱」の項に説明があるように、土台の上に柱を立てるが、150mm角柱は、柱が土台下端まで延びているように見せているようだ(柱の側面を一部残して土台に食い込ませる。「わなぐ:輪薙ぐ」と言う)。
隅部では土台はT字型に組まれている。具体的な「仕口」の説明はないが、多分「蟻掛け」ではないだろうか。
かつては隅部でも「土台」はT字型に組むのは当たり前で、直交する「土台」2本と柱の三者を固めるため、「蟻掛け」ではなく「平枘差し・柱重枘」も普通に行なわれていた。

   註 T字型にぶつかる側の土台に水平の枘:「平枘」をつくり、
      相手の土台に差す。
      柱の「枘」は、「重枘」:二段構の枘(ex一段目柱全幅、
      二段目は中央部のみ角型にする)。
      土台の「平枘」の中央部に、この角型の穴を開けておく。
      柱を落し込むと、三者が一体になる。
   
   註 現在は一般に、大壁で土台を隠すため、
      隅部で角(つの)を出すのが嫌われる。

もっとも、T字型の隅部に150mm角の柱を「土台」下端まで落すと、妙な納まりになるが・・・。


分らないのは、「土台」を礎石に噛ませ、さらにアンカーボルトで固定していること。
架台を揺らせたとき、架台から跳びだすことを心配しているらしい。

しかし、「土台」を礎石に噛ませ、アンカーボルトで固定すると、架台の動きつまり震動が、モロに試供体にかかるはずだ。そうさせたいのだろうか。
たしかに、「在来工法」では、建物が地面の揺れに追随するようになっている。
つまり、「在来工法」は、地震そのものの動きと、慣性により生じる動きの両方が生じることを、いわば「推奨する」つくりかた(瓦の野地板への固定を「推奨する」のも同じ)。

もしも礎石に噛ませず、アンカーボルトで固定しなかったらどうなるか。
「試供体」は礎石の上を横滑りする(礎石が自然石で「ひかりつけ」がしてあれば、多少は抵抗を受ける)。その分「試供体」自体に「生じる力」は小さくなるはず。
実際、淡路島で、土台付き・アンカーなしの建物が、「延石」上を滑っているのを見た(建屋に被害なし)。
   
   註 「試供体」が「受ける力」と書かないのは、
      この場合、「試供体」にかかる力は、
      「架台が揺れることにより生じる慣性力」だからである。
     
      以前紹介した日本建築学会のHP内の一般向けの情報
      「わが家の耐震診断」では、木造軸組工法についての
      「驚くべき」説明とともに、「地震の力がどこか外から
      飛んできて」建物を襲うかのような説明をしている(下記参照)。
      一般の人たちを、バカにした説明で、呆れる。

      「『在来工法』はなぜ生まれたか-2の補足」参照。

      なお、この記事の前後の「『在来工法』はなぜ生まれたか」で
      次項の「足固め」関連について触れています(上記記事から
      アクセスしてください)。

もしかして、この実験では、わざと大きな力が「試供体」に「生じる」ことを狙っているのだろうか?

同じ疑問は、次の「足固め」の項でも同じ。
判然としないが、「足固め」架台にボルトで留めつけられているようだ(図面には記載がない)。
これも、同じ「心配」なのだろう?

しかし、この「試供体」の「足固め」は、ボルトで留めつけていることを除けば、仕様説明と伏図に見るように、「仕口」も確実で、本格的。
この点だけは「伝統工法」と言ってよいだろう(「伝統《的》工法」ではない、ということ)。

「柱」については、なぜ通しを5寸としたのか、曳き割り寸法なのか仕上りか、「試供体A」同様、説明はなし。

今回の「実験」では「試供体B」は、「柱」の「根枘」を「長枘差し」とし「込み栓」を打たない仕様のようだ(「A」ではホールダウン金物で架台に固定)。
このことにわざわざ触れているのは、おそらく、地震のときに柱が土台からはずれるかどうか、気にしている、あるいは「たしかめたい」からだろう。

いったい、「柱」が「土台」からはずれる、というのはどんな場面だろうか。
それは「柱」に上方へ向う力がかかった場合だ。いわゆる「引き抜きの力」。
どんなときにそのような力がかかるか。簡単に言えば、「柱に引き抜きの力が生じるような架構」の場合に起きる。その代表が「筋かい入りの架構」。

では、たとえば「今井町・高木家」(「構造用教材」で「伝統和風」として掲載)の場合はどうだろう。
この建物を、壁や屋根や床など全部とり払った骨組だけにして、あたかもサイコロを転がすように放り投げても、多分、立体の外形は、多少の傷はできても壊れずに転がるだろう。それは、竹ヒゴでつくった虫かご、鳥かごを転がすのと同じ。

ということは、柱を土台からはずすような力は、柱にかからない、ということ。
もちろん、無事に転がるには、柱と横材の仕口がしっかりしてなければならない。少しの傾きが生じたときはずれる可能性のある「短枘」を避けてきたのは、そのためだ(サイコロのように転がしたとき、瞬間的には、架構が歪むことがあるだろう。そのときに「短枘」だと、あっさり抜けてしまい、そこから損壊が始まる)。

「足固め」があるとどうなるか。
「足固め」は、「土台」が使われるようになる前からある技法。
架構の上部は「貫」や「小屋組」、時代が経つと「差鴨居」も加わり固めることができるが、礎石建てだと、足元だけが弱い、つまり、丈夫な虫かごにならない。
多分、そのあたりから生まれたのが「足固め」の技法だろう。「足固め」があれば、「土台」なしで、礎石の上に据えるだけでも問題がない。
「今井町・高木家」では、「足固め」もあり、「土台」もある。
おそらくそのとき、「土台」は施工上の利点(水平の台をつくる)から用いられたのだ。「土台」から上の「立派な虫かご」を置く台、それが「土台」の役だったに違いない。
つまり、しっかりした「足固め」の入った「試供体B」の場合、「柱」の「根枘」を気にする必要はないように私には思える。


注目してよいのは「貫」。
この「試供体B」では、27mm×115mm、つまり9分厚の材が使われていること。今井町・高木家に比べれば薄いが、しかし妥当な範囲。
この点も、「伝統《的》工法」ではなく、「伝統工法」に近くなっている。

次に「差鴨居」。
これは、「試供体A」同様、私には「差鴨居」には見えない。
たとえば「四通り」軸組図。1階の「差鴨居」は、せめて「い」~「り」間に設けるのが普通ではないか。
「差鴨居」の発生過程を追ってみるならば、「試供体A、B」のような「差鴨居」はあり得ない(なお、「四通り軸組図」には、1階の根太を書き忘れている)。

   註 今井町・高木家の例では、構造の主体は「差鴨居」にあり、
      2階床は、「差鴨居」の支える「大引」程度の材に根太を掛けて
      支えている。
      「試供体B」の場合、は
      床梁を支える「胴差」を主体に考ているのではないか。

「ほ通り軸組」を見ると、梁行の「差鴨居」がない(「伏図」ではあるように見える)。「仕様案」の説明でも分らない。
いずれにしろ、「差鴨居」は、コマギレに入れてあるようだ。私は、このような「差鴨居」の例を知らない。

「2階床梁」「小屋組」の項では、材寸や「継手」の仕様が明記されていないが、「母屋」の「継手」を「追っ掛け大栓継ぎ」にしている以上、「胴差」も「軒桁」も四通りの桁行の材も同様と考えられる。

なお、「2階差鴨居伏図」にある「差鴨居」が、「軸組図」には書き込まれていないのでは?
あるいは、2階には「差鴨居」は入れてないのか?
「差鴨居」の入れ方の詳細が分からないが、「試供体B」は、「試供体A」に比べると、格段にしっかりした架構となっている。
この「試供体B」の場合、あえて「差鴨居」を設ける必要はないのではなかろうか。

例えば1階の「四通り」。
このような中途半端な位置だけに「差鴨居」を設けると、「ほ通り」の「通し柱」に、他の「通し柱」とは違う「異常な」力がかかる恐れがあるように、私には思える。
全体を見たとき、そこだけ架構の均衡が崩れてしまうからだ。しかも、この案では、「わざわざ」悪くしている、と言ってもよい。
もしも「い」~「り」間、つまり「通し柱」~「通し柱」が「差鴨居」であるならば、その恐れは低減すると思われる。

「今井町・高木家」をはじめ、初めから「差鴨居」を念頭に建てられた建物では、「差鴨居」を設けるならば、徹底して設けている。
これは、おそらく、「架構全体の均衡」(一部だけを異常に強くしたり、あるいは弱くするようなことはしない)を考えていたからではないだろうか。

「試供体A、B」のように、架構の一部にだけ「差鴨居」を設ける例は、寡聞にして私は知らない。実例があれば、どなたかご教示を。

   註 なお、「大梁は通し柱に胴差」とあるが、
      具体的な「仕口」は示されていない。
      質問をしたが、お答えはいただいていない。 

こんな納め方をするの?と思ったのは、2階の「床梁」。
「通し柱」通り位置(「い」「ほ」「り」「わ」通り)以外の@3尺の「梁」を、「胴差」に「渡り腮」で掛けていること。
確かに確実ではあるが、外壁面に飛び出ている部分は、どう処置するのか?
普通なら「胴差」と「床梁」の材寸は、納め方とともに検討して決めるのでは?
まあ、これは末葉のこと。


架台へのアンカーボルトでの固定など、不可思議な点はあるが、「試供体A」に比べれば、「伝統《的》工法」ではなく、より「伝統工法」に近い。
しかし、「架台へのアンカーボルトでの固定」はいわば致命的な問題点であるように、私には思える。その一点だけで、この実験は、言うまでもなく「伝統工法」の実験ではなく、もちろん「伝統《的》工法」の実験でもなくなるのである。
折角「伝統工法に近い」試供体建物にしたのだから、この点も「伝統工法に近い」方法で「実験」を行なうべきだったのではないだろうか。

あらためて、この「伝統的構法住宅実物大実験」の「真意」が問われよう。


長い長い話を、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

なお、この二つの「試供体」による「実物大実験」に対しての私の「総括」は、次回に書くことにします。

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