うれしい話・・・・喜多方・登り窯の再稼動

2008-03-23 18:31:09 | 煉瓦造建築

会津・喜多方の登り窯に火が入るかもしれない。
ここ四半世紀、ほとんど火が入れられず、窯の傷みも激しくなる一方だったのだ。

数日前、喜多方市役所の方からの連絡。
昨年秋、経済産業省の「産業遺産」選定事業で、「建造物の近代化に貢献した赤煉瓦生産などの歩みを物語る近代化産業遺跡群」の一つに喜多方の煉瓦造やそれを生産した登り窯が選ばれ、喜多方市としても、何とかして登り窯を再稼動させようと動き出した、とのこと。

2006年の12月16日、19日、22日に、会津・喜多方の煉瓦造について触れた。
喜多方の「登り窯」、それは、もとは瓦を焼くためにつくられた窯だった。
鉄道敷設工事(現在の磐越西線の敷設)にともない煉瓦も焼くようになり、そこでつくられる煉瓦が建物に使われだし、それが、今でも喜多方に残る多数の「煉瓦蔵」を生み出したのである。1960年代(昭和30年代)でも、喜多方周辺の地域ではまだ「煉瓦蔵」はつくられていた。
なお、このあたりの経緯や「煉瓦蔵」の特性については、前掲記事で簡単に触れている。詳しくは下記図書で。

しかし、この登り窯は、1960年代(昭和30年代)、各地に大規模生産の瓦焼成工場がつくられ、運輸革命:トラック輸送の普及によって、それらの製品がこの地域にも流入し、その結果、生産をやめざるを得なくなった。
しかし、登り窯は火入れをしないと傷んでしまう。そのため、採算度外視でときおり火を入れてきた。
上の写真は、いまから24年前、1984年(昭和59年)の保全用の火入れのときのもの、まるで海原を行く船の如き姿であった。

焼成のため、数日間火は燃え続ける。燃料は主に薪(重油バーナーも併用)。温度は1000度を超える。
一度の火入れで、煉瓦にして約1万本が焼成される。

焼成時間は約40時間。つまり2日弱。その間、作業は夜を徹して続けられる。
火を止めて2日後、窯が冷えて、製品を取出す。
1万本の素地を窯のなかに積み込む作業にも数日を要するから、焼成のサイクルは、最低1週間ということになる。
その一方で、窯に入れる素地の成型も並行して行わなければならない。
なお、登り窯での製造過程・工程の詳細については、あらためて紹介する。

この窯では、明治43年には、年間煉瓦5万本、瓦5万枚が生産されていたという記録があり、大正期には、その数倍が生産されていたようだ(福島県統計資料)。ということは、最盛期には、月に1回以上稼動していたのである。


さて、今回再稼動させるとなると、問題がいくつもある。
一つは、素地つくりにも焼成にも人手がいるということ。人手さえあれば、まだ、かつて焼成にかかわったことのある方々が、幸い健在、その方々に指導をお願いできる。

そして、もう一つは、窯の稼動によって生まれる約1万本の煉瓦を使う場面を確保すること。
煉瓦1枚積み(壁厚210mm)で、壁面1坪をつくるには約430本の煉瓦を使う。約130本/㎡である。1万本は、約23坪=約77㎡分。
半枚積みなら、約46坪:154㎡分。
平に張るならば132枚/坪:約43枚/㎡だから、1万本は約75坪:約230㎡分。

つまり、1回の焼成で生産される1万本をさばくには、これだけの需要が必要。
逆に、必要数がこの数字をはるかに越える大口の場合、たとえば1枚積みで50坪となると21500本の煉瓦が必要になるから、最低2回以上の火入れが必要。ということは、一定程度の在庫を用意しておかないと、即時出庫というわけにはゆかない。
このあたりをどう調整したらよいかが問題。

次に、喜多方の煉瓦は、写真のような色合いをしている。これは、焼成前の素地:日乾し煉瓦に釉薬をかけるからである。これは、凍害防止のための処置。釉薬は当初は灰汁だったが、後には益子焼の釉薬を使っている。
釉薬は、写真のように、見えがかりになる部分に施される。もちろん、釉薬なしの煉瓦もつくれる。
いずれにしろ、大量生産工場の焼成品とは異なり、整形ではなく、独特の風合いがある(今風に言えば、「てづくりれんが」)。ただし、焼成温度が高いから、昨今の輸入煉瓦に比べ、質は数等良い。しかし、「てづくり」ゆえに、当然、価格は高くなるだろう(さらに、登り窯から遠い地域の場合は、運賃も余計かかる)。

喜多方市役所では、担当課の商工課を核に、建設課も動き、そのあたりを模索中のようである。
何ができるか分らないが、私も、よろこんで協力させていただこうと考えている。

こういう煉瓦を、上記のような生産量、条件の下で使いたい、使える、という方がおられるならば、登り窯の火入れ:再稼動は順調に再開されるはずである。
いろいろな面で、登り窯再稼動に協力できる方々が、大勢おられることを願わずにはいられない。

写真、図は下記書籍より
『会津喜多方の煉瓦蔵発掘』(普請帳研究会 刊)
『喜多方の煉瓦蔵』(喜多方煉瓦蔵保存会 刊)
『住宅建築 1989年11月号:特集 煉瓦造建築』(建築資料研究社 刊)
コメント (3)
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