園城寺・光浄院客殿・・・・ふたたび

2007-03-06 13:32:45 | 建物づくり一般

 園城寺(三井寺)光浄院客殿が書院造の原型と言われていることは先に触れた(2月26日)。
 写真でも分かるように、この空間を整えているのは、柱、付長押(内法長押、蟻壁長押の二段)からなる真壁の壁面、そこに設けられる開口部、そして竿縁天井である。

 竿縁天井は、上層階級の建物では、中世以降一般的に用いられるようになる方法である(11月7日に天井の変遷について大まかに触れた)。
 天井は空間の様態を左右するから、同じ竿縁天井でも、竿縁に面を付けるなど、様々な工夫がなされている。
 その中でも、竿縁の割付けには、特に気が配られる。
 光浄院客殿では、正面に向って竿縁が流されているが、押板と違い棚の境の柱:床柱に相当:の芯に竿縁がこないと見苦しい。しかし、左右の壁間を単純に等分すると、かならずしも柱芯に竿縁がくるとはかぎらない。むしろ、狂うのが普通である。
 この問題を解消するために考案されたのが「蟻壁」だと言われている。一旦、「付長押:蟻壁長押または天井長押」をまわして真壁と縁を切った後、その上部を大壁にして、その壁厚で竿縁の割付を調整するのである。
 この「蟻壁」が空間の上部、天井際を一周するため、ややもすると重くなる天井面が、軽快になる。
 こうなることを見込んでいたのか、結果としてこういう効果が生まれたのかは不明だが、この手法が好まれたことは確かである。

  註 昨今は、回縁で調節するようだ。
    なお、この建物では、床に向って竿縁が流れている。
    通常「床刺し」と称して嫌われるが、それは後世の「習慣」である。 

 また、「付長押」の裏側には、3寸×1.3~1.5寸程度の「貫」:重要な構造部材が通っている。

 開口部の上部は、内法貫下位置で、柱間に鴨居を渡し、両面に内法長押をまわす。下部は、床板上に柱間に敷居を渡す。敷居の厚さは畳厚と同寸。外側には「地長押」をまわす。
 この建物の場合、上掲の図のように、通常鴨居に彫られる「樋端(ひばた)」ではなく、別材を隠し釘で取付けてつくっている(「付樋端」)。樋端の幅は、遣り戸1本分の厚さ、通称ドブ。戸と戸の間に3分の隙間があくので、建具の端部に隙間を塞ぐ材が付けられている(召し合せの一種)。
 現在のような「樋端」になるのは、溝彫り工具が普及してからのこと。

 いずれにしても、少ない要素だけで、空間をまとめ、整えるのは、日本の建物づくりの特筆すべき点と言ってよいだろう。

 上掲の図、写真(モノクロ)は「日本建築史基礎資料集成 十六 書院Ⅰ」より転載、加筆したものである。
 カラー写真は「原色日本の美術」より。

 この建物は、寺務所に申込むことで、拝観できる。
コメント (3)
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