読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

あなたはヒーローか傍観者か

2012-08-23 08:38:39 | 暮らしの中で
誰でも危機的な状況で自分がどう行動するだろうかと考えたことがあるだろう。人の命を助けるために自分の命を危険にさらそうとするかどうかと。

 ローリー・アン・エルドリッジさんは、去年、その問いの答えを確認する体験をした。

 ある日の夕方、ニューヨーク州の自宅で庭仕事をしていたエルドリッジさんが目を上げると、踏切でおばあさんの運転する車が動けなくなっていた。電車が近付いているのに気付いていない。

 エルドリッジさんは、はだしで走ってその車のところに行き、やっとのことで車からおばあさんを線路脇に引きずりだし、自分の体でおおいかぶさった。直後に電車がおばあさんの車に衝突した。エルドリッジさんの足は血まみれだった。だが81歳のおばあさん、アンジェリーヌ・パスクッチさんは無事だった。

 危機に瀕して勇気を示せる人、すくんでしまう人を知ることは難しい。だが、人間の強さや善行に関するいくつかの研究が、ヒーローとそうでない人の違いとは何かについて考察している。


 こうした研究によると、仕切りたがり屋、同情心の強い人、倫理観が強い人、社会的責任感のある人々はそうでない人々よりヒーロー的行動を取る人が多い。ヒーローは性格的に前向きで、目標の達成を妨げる恐怖を意図的に排除しようとする。

 もちろん肉体的に可能だということも重要だ。暴行や強盗などの犯罪に立ち向かった32人について1981年にまとめられた研究では、ヒーロー的な行為を行った人々は、そうした行為を10年間行ったことのないグループの人々と比べ相対的に背が高く体重もあり、緊急事態に対応する訓練を受けている人も多かった。

 だがヒロイズムは、もっと複雑だ。オハイオ州立大学のサラ・スターツ教授が2009年にまとめた調査によると、ヒーローは障害を乗り越えられる能力を持っていることが明らかになった。また、他人への共感や愛情、思いやりの心も強かった。

 だが、エルドリッジさんはヒーローらしくないヒーローだった。身長5フィート8インチ(約177センチ)、体重115ポンド(約52キロ)。助けたおばあさんの方が彼女より重かった。さらに驚きなのは、このときまで10年間、腰が痛くて一度も走ったことがなかったのだ。

 「わたしの頭には、途方に暮れたおばあさんの顔しか思い浮かばなかった。助けを必要としていた。それもあの瞬間に」と、エルドリッジさんはそのときの心境を語った。

 ブリティッシュ・コロンビア大学のローレンス・ウォーカー教授と共同研究を行ったウィニペグ大学のジェレミー・フライマー准教授は、「ヒーローは悪い物をいい物に変えてしまう」前向きな性格を持っていると語る。フライマー准教授によると、これとは別の調査で、乳がんと診断されたことで「クリエイ ティブな側面が再び活性化した」として創作活動を再開、「悲劇が恩恵を与えてくれた」と語った女性がいたという。

 バス運転手のスティーブン・セントバーナードさんがニューヨーク・ブルックリンの自宅アパートに帰ってきたとき、近所の人々が外に集まっていた。 7歳の女の子が3階の部屋の窓から出てエアコンの室外機の上で踊っていたのだ。セントバーナードさんは、「たぶん、抱きとめられる」と思ったという。子ど もの体重、受け止めたときのショック、そういったことは何も考えず、ただひたすら「神様、どうぞ受け止めさせて」と祈ったという。

 女の子が落ちてきたとき、セントバーナードさんが差し出した腕には落ちてくる彼女の推定600ポンドの重さがかかり、ほとんどもぎ取られそうになった。損傷した筋肉や筋、神経を縫合する手術が必要で、その後何カ月もリハビリを受けなければならなかった。しかし、あのときのことを語るとき、彼は女の子が「かすり傷1つ負わなかった」と子どもがけがをしなかったことだけを話す。

 またヒーロー的な行動をする人たちは強い倫理観と、困難を克服する能力への信頼を持ち、確率など考えない。海軍の看護師、ジェームズ・ジェナーリ さんの医療施設に、アフガニスタンの戦場で、担架に乗った負傷した海兵隊の兵士が運び込まれてきた。その兵士の大腿部から尻には、いつ爆発するかもし れないロケット弾が突き刺さっていた。爆弾処理班が必要だった。

 しかしジェナーリさんは、担架に歩み寄り、兵士の手を取って「何があっても、これを足から取り出すまで、あなたのそばを離れない」と語りかけた。 そして爆弾処理班がロケット弾をはずせるように兵士に麻酔をかけた。さらに別の基地にヘリコプターで兵士を搬送するときには、停電で作動しない酸素吸入器 の代わりに手動で酸素を送り続けた。彼は今月、ブロンズスター勲章を授与された。

 ヒーロー的な行為を取らせる価値観は子どもの頃に教えられることが多い。オハイオ州立大学のジュリー・ハップ博士は、「子どもは両親を見て育ち、親が他の人のために手を差し伸べるをみて、自分もそうしようとする」と語る。

 ジェナーリさんは、両親から「あなたに起きたいいことは神のおかげだ。あなたはそれを返さなければいけないよ」と言われて育った。ジェナーリさんの父ギルバートさんは、朝鮮戦争でブロンズスター勲章を受賞した陸軍の兵士で、ジェナーリさんに「男の言葉は人格の物差し」だと言っていたという。だ から、海兵隊の兵士にそばを離れないよと言った以上、離れないのは当然だった、とジェナーリさんは語った。

記者: Sue Shellenbarger