読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

亡き妻への手紙

2009-12-26 10:28:33 | 読書

白川静氏の他にもう一人、亡き妻に多くの歌を捧げた人が居る。長年、経団連の会長を務めたことのある石坂泰三氏である。彼の四男泰彦氏は「子供たちは父の事を死後愛妻家と呼んでいたんですよ」と笑って言っていたそうだ。六十二歳で夫人は亡くなられたがひたすらな妻恋の思いを隠さず夫人を偲ぶ歌を詠み続けたそうだ。
「別荘の箪笥の底に妻の着し浴衣のありてしづかに見つむ」
夫人の名は雪子、夫人の死の二ヵ月後、昭和三十一年二月石坂氏は経団連会長を引き受けた。就任挨拶の講演で大阪からの帰り、快晴の大阪から米原では雪となって
「雪降ればなほ偲ばるる亡き妻のをちかへるかと名を呼びてみつ」夫人が近くに気がしてこの歌を詠んだそうである。そして三月、同じ講演で九州へ、ここでも季節はずれの雪だったとか。
文芸春秋2008年1月号(世紀のラブレター50通)から