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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

目白逍遥、明日館ふたたび

2016年12月10日 | 建築
 師走に入ってすぐの日曜日の午前十時過ぎ、快晴でひんやりとした初冬の外気。新宿から山手線に乗り換えて目白駅改札をでると、そのすぐ先の市街地図前から始まる出逢いの旅。
 
 目白周辺は、いつきてもゆったりとした空気の流れる落ち着いた町だ。駅広場の先には池袋の高層ビル街がすぐ目の前にのぞめるし、振り返れば新宿へと続く無数の人々の営みがうごめく街並みが広がる。JR山手線沿いの小径を池袋方向に向って10分ほど歩くと、もう自由学園明日館に到着してしまう。澄んだ空気の中に両手を拡げて中庭を抱くようにたたずむ木造二階建て。通りに沿って植えられた大きな枝ぶりのソメイヨシノはすっかり落葉して、一本だけある大島桜のほうはまだ黄色の葉を遺していた。ヒイラギの白い小さな花の香り、日本水仙が咲き始めていて、クリスマスローズももうすぐ、うつむきかげんの花を咲かせるだろう。

 向かって右側の受付で見学券を購入して、低く下がった天上入口から館内へとすすむ。床には大谷石が敷き詰められている。中央講堂に入るといきなりの解放感をもって、幾何学模様の窓枠を通して中庭と外の風景が飛び込んでくる。反対側には、室内の中心である大谷石造りの暖炉。
 中央棟はスキップフロア形式とでもいうのだろうか、三層構造で中二階が食堂空間、三層階がさきの講堂を見下ろす格好ででこの建物の共同設計者、F.L.ライトと遠藤新の関わりを示すミニギャラリーとなっている。明日館は、1921年(大正十年)にその一部が竣工し、その後ようやく1927年に現在の姿となったことを知る。ここには、日本におけるライトの建築上の業績がすべて記されていて、明治村に移築保存された帝国ホテル正面玄関部分、芦屋の旧山邑家住宅のパネル写真を見ていると、師弟関係にあったふたりの親密な会話が聞こえてくるような気がしていた。
 
 中央講堂(かつての礼拝堂らしい)に戻って、喫茶スペースでひと休み。そうしたら友人がここで桑田佳祐の新曲スチール写真が撮影されたんだよ、って教えてくれた。その取り合わせの意外さをおもしろく感じ、明日館の懐の広さを讃えたい。ここは週末には結婚式会場としても利用されているし、重要文化財の空間でのセレモニーも印象深いものに違いないねって、ふたりして年頃の娘のことを想像してみたり。
 午後からは、食堂スペースで近くの音大生によるソプラノとギターの組合わせによる音楽会を聴く。この親密な空間にフレッシュな演奏はふさわしいだろう。最後のヘンデル、武満徹「小さな空」がよかった。

 このあとの逍遥は、目白庭園、遠藤新最後の建築設計となった旧近衛町の目白ケ丘教会から、夕暮れが深まった紅葉のおとめ山公園と続いていく。


 午後の音楽会を聴いた旧食堂の空間。天井照明のデザインは建築途中にライトが設計変更したもの。
 当初のベランダ部分は、のちの生徒数増にともない、遠藤により変更されて両翼の室内空間が広がった。
 並べられた椅子のデザインはどちらのものだろう。


 中央講堂の窓からの外の風景、ここで一服する贅沢さ。
 ふと、サイモン&ガーファンクル「F.L.ライトに捧げる歌」の旋律がハミングで聴こえてくるような、そんな空気が。


 小雨振る中をもういちど、ビルの夜景を背後にして浮かびあがる明日館を見に行った。
 冬の夜は深く、そして長い。

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