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相模と武蔵国境、まほろ在住者が綴る「生々流転」の日々

北九州小倉と鴎外、明治の面影

2014年10月24日 | 旅行
 新横浜を発ってから約四時間半、東海道・山陽新幹線が本州西端の山口県側から新関門トンネルを通り抜け、九州に入ってから地上に出た最初の停車駅が小倉だ。ここで鹿児島本線に乗り換えて、戸畑区、八幡東・西区と湾岸沿いに続く北九州工業地帯の工場煙突を眺めながら、JR線は少しずつ内陸に入っていく。その途中の岡垣町で義父の法事を済ませて、ふたたび18日夜小倉へと戻った頃には、すっかり夜のとばりが落ちていた。駅改札から直行のステーションホテル11階の部屋の窓からは港の夜景がきらめいているのが望めた。旅行に出かけた時は大抵翌朝の散歩に備えるため、その日は早く休むことにした。

 翌日19日、まだ夜明け前の薄暗闇の中を起きだす。目覚めのシャワーを浴びてからベッドに戻って窓の外を眺めると、もうあたりは今日の秋晴れを予感させて、眩しさをすこしづつ増しつつあった。ジーンズにボタンダウンのシャツ、ジャケットを羽織ってエレベーターを降り、まだひんやりとした空気の小倉の街中へ歩み出す。ホテルのある駅ビルは三階が駅改札へのコンコースにつながっていて、ビルの中が都市モノレール小倉の発着場にもなっているなかなかダイナミックな造りだ。ベデストリアンデッキからは、モノレール架線に沿ってまっすぐ伸びた平和通りが見通せて、その両側に小倉の中心街が拡がっているのだ。

 最初に、鍛冶町一丁目にある森鴎外旧居を目指す。駅からほど近いここの横町には明治32年(1899)6月に軍医として当地に赴任した37歳の鴎外が一年半ほど居住した明治時代の木造町屋が垣根のむこうに遺されている。広めの庭先には、平屋の瓦屋根と鴎外の胸像を望むことができて、鴎外が好んだという紗羅の木が植えられているそうだ。びっしりと飲食店ビルが取り囲む中、ここだけが明治時代からの異彩を放っていて、夜になればネオンのまたたく賑わいをよそに、ひっそりと暗闇に沈んでいることだろう。その落差を想像するだけで、不思議な感慨にとらわれる。日本近代文学史上の金字塔といわれても正直ピンとこないけれども、このわずか一年半しか居住したにすぎないこの町屋と敷地の存在こそが、いまにつながる鴎外の威光を実感できる空間だ(一昨年2012年は、鴎外生誕150年メモリアルイヤーで文京区千駄木の鴎外が亡くなるまで住んでいた邸宅跡には、区立鴎外記念館が竣工している)。

 旧居をめぐってから、紫川のほとりに近い小倉井筒屋(百貨店)を目指して歩く。昭和のニオイが横溢した感のある小豆色タイルで覆われた巨大な本館と対照的なモダンな新館の間の通りの先に、その名もズバリ「鴎外橋」があって地図上でみつけたときには歴史の古いものかと思っていたら、ここニ、三十年ほどの現代に架けられたものらしい。渡った先に「鴎外文学碑」が建てられていて、まさしくこのあたり、鴎外づくしである。ここ小倉で鴎外は、さきの鍛冶町から駅前の京町の二階屋(現存していない)に転居したあとの40歳のときに再婚し、三ケ月の新婚生活を送ったあと帰郷している。

 対岸方向、青空に向かってそびえている小倉城天守閣(昭和34=1959年再建、今年が55周年)。その手前には木立に囲まれた池泉回遊式の小倉城の遺構庭園が貴重な緑空間を提供している。こじんまりとしているが都市の中の貴重なオアシスで、池に面しては本格的な書院造りが建っている。この建物は正面の広縁が池に向かって張り出していて、そこから殿様気分で庭の眺めが楽しめる。池の先の目線には北九州市役所本庁舎のスマートな姿、昭和時代のデザインをまとった典型的箱型ガラス窓の高層ビルだ。江戸時代の遺構を復元した庭園との対照性が、現代都市ならではのダイナミックさを現していて不思議な感動がある。庭園の反対側には、お城の石垣と濠を隔てて、北九州芸術劇場や美術館分館、NHK北九州、地図のゼンリン本社の入った赤・イエロー・黒が基調の派手な色使いの再開発ビルのリバーウオークがみえる。

 ここ周辺をほんの少しひとめぐりするだけで、江戸(小倉城史跡・庭園)・明治(鴎外旧居)・昭和(市役所本庁、井筒屋)・平成(リバーウオーク)の時代建築がモザイク模様のように点在していて、それを発見し味わうことこそが、街歩きの楽しさだと思う。
 もう、朝八時を回ろうとしている。ふたたび紫川を勝山橋で渡り、通勤の人混みが増え始めた京町銀天街を抜けてホテルに戻る。(2014.10/18、19滞在)

                                            2014.10.23書き始め、10.24初校、10.26改定
  
 
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