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仁術と算術

現役外科医,株を語る.たまに手術も語る.

外科医が基礎研究をする理由

2007-05-12 | 僕の手術
今の僕は民間病院で臨床をやる合間で,大学に帰って癌の基礎研究をしている.
もうこんな生活が4年.
大学の無給医時代に研究を始めてからはもう7年か..
いまだに一本の論文にもなっていない.



小学5年生の時,ある日の放課後...

理由は忘れたけれど,僕を含めた悪ガキ4人が担任の教師に叱られた.
『私がいいと言うまで教室に残ってなさい!』と言って,教師は教室から出て行った.
30分ばかり過ぎても教師がやって来る気配はなく,誰かが職員室に謝りに行こうと言い出した.

今でも変わらない僕の性格.
妙なところに素直で,妙なところに頑固.

『いいと言うまで残れ』って言われたんだからオレは残る,って僕だけ居残りを続けた.
あとの3人は無事に放免されたらしく,そのまま帰ったらしい.

だんだん暗くなってくる窓を見ながら,トイレにも行かず,
ずっと待っていた.

あの時の僕は,一人教室に居ながら何を考えていたのだろう.
それももう覚えていない.

どれくらい待ったか,教師の靴音が近づく.ガラッと扉が開く.
『あらっ!あなたまだ居たの??』

えっ!? なんだそりゃ..

『さっきみんなで謝りに来たからもう誰も居ないと思ってたわ.バカねぇ.一人で残っていたの? あなたも要領悪いわね~.早く帰りなさい.』

その瞬間,絶対に見せたくない相手に絶対に見られたくないものが,瞼からポロポロとこぼれてしまった.

寂しいとか悲しいとか怖いとか,そんな感情ではない.

悔しかった.

生徒の数も数えられないようなブタ面さげた目の前のこのバカに,
バカと言われ,要領が悪いと言われたことが悔しかった.
こんなヤツのクダラない行為のために泣いてしまった自分が情けなかった.

こういう小さな記憶の積み重ねが,いまだに僕を教師嫌いにしている(^^;




昨夜,大学で助手をやっている先輩とシコタマ飲んだ.
彼は僕にとって,僕が属する『食道・胃癌グループ』のトップであり,呑兵衛な兄貴でもあり.
学会発表前日に痛飲して発表をスッぽかし,一緒に教授に土下座した仲でもある.

その先輩が晴れて大学の薄給から放免され,関連病院に異動となった.
要するに,大学の食道癌は任せられないと教授から判断を下されたのだ(僕の寝坊のせいではない).

いまの大学で臨床をやるメンツで,食道癌を切るのは彼しかいなかったから,
僕はすごくビックリした.
では誰が食道癌を切るんですか??

『来年あたり,お前が大学に呼び戻されるかもしれないな.』
ポツリと言った先輩の一言が寂しかった.

それから..
研究なんか中途半端で身が入らず,民間病院で大好きな手術ができることで満足な僕と,
基礎研究で国立がんセンターに留学した経験をもつ先輩と,
癌について,手術についての議論が始まった.

外科医は手術をすることが仕事だから,学位を取るためだけの中途半端な基礎研究など必要ないと言う僕に,彼は言った.

『確かに外科医は癌を切ることが仕事だが. 癌を〈切って〉治したいという思いと同じくらいに,いやもっと.. 癌を治したい. そう思わなければダメだ.オレはがんセンターで基礎研究をやっていてそう思うようになった.』

『お前は自分で研究には気持ちが入らないと言うが,オレはお前を見ていて,今までよく続けていると思う. サッサと学位を取ったお前の同期たちは,お前から見たらクダラない研究をしたように見えるかもしれないが,そんなことはお前に関係ない. お前にも,癌を治すという気持ちを持ち続けて欲しい.』

二日酔いで頭がガンガンするし,他にもたくさん話したはずなのに,ほとんど覚えてなくて..
でも..

頑なに教室に居残りつづける僕に言った先輩の,その言葉は残っている.

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