A Challenge To Fate

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【海外便り】「灰野敬二が英語で歌うとどうなるか?」を徹底解剖!

2014年03月23日 01時18分09秒 | 灰野敬二さんのこと


長年の愛読者のHKさんから教えていただいたのだが、灰野敬二が2月25日に東京現代美術館で開催されたレクチャー(インタビューアー:原雅明)で、新バンド「Hardy Soul」の活動と絡めながら英語で歌うことについていくつか言及していたそうだ。

●Hardy Soulを始めた理由は、灰野敬二の音楽歴における<ロスト・アラーフ以前>を見せるためである。
灰野は高校を中退してからロスト・アラーフを結成するまでの間、R&バンドのヴォーカリストとして歌っていた。キャバレーやビアホールで演奏したが、大抵数曲で中止にされてしまったという。その理由はHardy Soulの演奏を観れば何となく判る。本気過ぎるのである。

●話を通じ易くするために対外的には<R&B>という言葉を使っているが、Hardy Soulにおいて本当にやろうとしているのは<ゴスペル>である。

●Hardy Soulでは絶対に英語でしか歌わない。

上記のポリシーがまずあり、それに則ってバンドの練習を続けてるうちに、

●過去に哀秘謡などでとりあげた曲、たとえば「骨まで愛して」などがゴスペルの解釈で演奏できることに気づき、今、それを独自に英訳している最中である。
SDLXの終演後、楽屋で灰野は「拘りが段々無くなっている。日本語で歌うという拘りを捨てたら楽になり、英語でも自分の表現が出来ることに気がついた」と話してくれた。

3月9日のマニ・ノイマイヤーとのセッションでは日本語中心だったから、決して英語に転向したわけではない。灰野にとっては日本語も英語も自分の表現であることに違いは無い。つまりギターやエアシンセやハーディガーディなど楽器を持ち替えるように、言語も使い分けるに違いない。今まで日本語だけだった灰野の歌の世界が数倍に広がった訳である。



さて、3月2日スーパーデラックスに於ける灰野+オルーク+アンバーチのライヴ音源を聴いたアメリカのAn Unofficail Keiji Haino Websiteの管理人David Kefferが感激のあまり長い感想文をメールしてきた。英語で歌う灰野についての英米人の反応の一例として翻訳を掲載する。

灰野の歌詞 
デヴィッド・ケファー

私自身作家なので、歌詞に関しては特別のこだわりを持っている。陳腐な歌詞は聴きたくない。それが私がジャズやインスト曲を好む理由だ。サックスのように楽器が声の役割を果たすならば、バカげた歌詞に悩まされることも無いから。

一方、常に私の心の琴線に触れる、型にはまらない歌を作る音楽家も数人存在する。
以前話したように私はAnd Also The Trees(アンド・オルソー・ザ・トゥリーズ)という英国のバンドが好きだが、それはシンガーの声と歌詞の選び方に負うものだ。
またSwans(スワンズ)/Angels of LightのMichael Gira(マイケル・ギラ)は、アルバムに必ず1,2曲本当に力強い歌詞の曲があるので好きだ。
もうひとりの好きな作詞家はDavid Sylvian(デヴィッド・シルヴィアン)。特に2003年の『Blemish』でデレク・ベイリー等ノンイディオマティックな音楽家とコラボして以降の歌詞が素晴らしい。

この3人に灰野敬二を加えたい。今までずっと灰野の歌詞を愛してきた。1990年代に灰野の大抵のCDブックレットに掲載されていた歌詞の英訳を読んでとても興奮した。灰野の考えを完全に捉えた Alan Cummings(アラン・カミングス)の翻訳スタイルが好きだ。Alanは本当に上手い。

だからアランが日本からロンドンへ移住して以来、灰野のアルバムに歌詞の英訳が掲載されなくなったことにガッカリしていた。アルバムを聴きながら同時に英訳された歌詞を読むことで、日本語を理解出来なくても、充実した体験を得ることが出来たのだから。

1990年代に化学工学科の大学院生だった頃、フィルムの流体力学の研究のためにコニカや富士フィルムから留学中の日本人の同級生が数人居た。彼らに灰野のCDの日本語タイトルと歌詞を見せたら、いつも笑われた。彼らから、「不失者」とは極めて英訳し辛いが、「失われない人」のような意味だと教えられた。少なくともそれは90年代初期以来の私が理解していた事実のひとつだった。

私が運営する出版社「Poison Pie Publishing House」では、私が書いた小説のイントロとして、物語の導入部に詩を引用している。何度か灰野の言葉を引用した。⇒デヴィッド・ケファーの著作及び出版社についてはコチラ

例えば、2012年の“The Sutra of Reverse Possession: A Novel of Non-Idiomatic Improvisation(所有逆転の教典:非イディオマティック・インプロヴィゼーション小説)” では、歌詞ではないが、灰野の詩を引用した。

”That, which while enfolding this now and
present perfume,
speaks, ‘I will use to the fullest this form
bestowed upon me’
and blurs into the firmament~
ah, where and in what form will it next be
devised”
―Keiji Haino


『デレク・ベイリーの魂の安息のための祈り』(The Wire, February 2006, issue 264)より
初めて読んだ時から私はこの詩が好きで、ポスターを作って数年前に灰野に送ったこともある。

別の例では、2010年の“The Horties: An Invisible Novel” に次の歌詞を使った。

”The tenderness remembered most
Is the calm when everything becomes nothing
When I no longer know which way to go is
When I rejoice most, I suppose
Watching you then is when I
No longer have need of wings”
―Keiji Haino


一番憶えている 優しさは
何もかもなくなっている時のやすらぎ
どっちの方がいいかもわからなくなってしまっている時が
一番 しあわせかな
そんな時の君をみている僕は
もう翼なんか要らなくなった時さ


不失者『完結されもしない死』(1997年 徳間ジャパン)より「僕に似つかわしいもの」アラン・カミングス訳
私はこの引用部分の一風変わったロジックが好きだ。

3番目の例は、1999年の“Alton & Eugenia: Twelve Stories”で、以下の歌詞を導入詩として使った。

”You, miracle, yearning for a miracle,
If you confess you were nothing
From the beginning all will go well, won't it?”
―Keiji Haino

奇跡を待ち望んでいる奇跡自身よ
お前自身が何もなかったと告白すれば
初めから 何もかもうまくいくのさ


不失者『完結されもしない死』より「うまくいったのに?」アラン・カミングス訳
この部分はこの小説全体を貫くテーマである疑問を捉えている。

灰野の歌詞はそれ自体で最高の文学だと思う。
そういうわけで、灰野が英語で歌うのを聴くのはとてもスリリングだった。特に最近のCDには歌詞の英訳が付いてないから。
演奏自体に関しては、日本語で歌うのと変わらず完璧に一貫性のある演奏だ。何回も聴き返した。
私の家族もそれぞれ私の部屋に来て、それを聴いた。最初は8歳の息子ジョセフ、次に妻。彼らは今まで灰野敬二の音楽を家のあちこちで聴いてきたので、灰野が英語で歌うのを聴いてとても興味を持った。

私は今まで灰野が日本語で歌うのを聴いて、言葉の意味は理解出来ないが、演奏を通して歌詞の感情を感じ取った。
(灰野が英語で歌うことで)演奏を聴くのと歌詞を理解することが両方が同時に出来ることは素晴らしい体験だ。灰野が英語の歌詞でレコードを作ったら、気に入るリスナーは多いだろう。たぶん嫌う評論家も少しはいるだろうが。

歌詞に関して言えば、灰野のお気に入りの歌詞のアラン・カミングス翻訳版の書籍を出版して欲しい。例えば右ページに日本語、左ページに英語のスタイルで。そんな書籍は最高だ!以前英訳された歌詞と訳されたことの無い歌詞両方含めればいい。
出来れば私の「Poison Pie Publishing House」から出版するのでも大歓迎。もっと宣伝の上手い出版社を見つけてもいい。
なにとぞご検討の程、よろしくお願いします。

英語なら
判るの人は
80カ国超

<灰野敬二アメリカツアー>
2014.03.27(Thursday)
The Wick & desertshore Present Keiji Haino solo
@The Wick(260 Meserole St.11206Brooklyn, NY, US)

2014.03.29(Saturday)
Big Ears 2014
@Knoxville, Tennessee(March 28-30)
LINEUP:Nazoranai (Keiji Haino, Oren Ambarchi, Stephen O’Malley), etc..

2014.03.30(Sunday)
Big Ears 2014
@Knoxville, Tennessee(March 28-30)
LINEUP:Keiji Haino (solo), etc..

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