A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【私の地下ジャズ愛好癖】即興のパカッショニスト風巻隆の地下音楽三部作『風を歩く』『円盤』『ATOMOSPHERE』

2016年11月06日 03時00分32秒 | 素晴らしき変態音楽


カッコつけてんじゃねえよ
80年代、「ぴあ」や「シティーロード」という情報誌が
有名・無名に関わらず公演情報を等価値に扱い、
「就職しない」というライフスタイルが若者の特権として語られていた頃、
(中略)
フリージャズや即興音楽をクソまじめにやっている人達や
いくつものバンドを渡り歩くミュージシャン達に背を向けて、
自宅や野外や路上に演奏の場を求める人や、
音楽というよりは音を使ったパフォーマンスを展開し、
「かっこいい」ことはみっともない、
「かっこ悪い」ぐらいで丁度いいといった
不思議な美意識に包まれた一群の人達がいた。

(風巻隆)
ブログ『音楽ノオト/即興ノオト』2013年04月02日より


2013年春、『地下音楽への招待』の構想段階で偶々発見した上記の文章に、筆者は深く頷き大いなる確信を得た。高校生の頃「シティロード」で自由参加の即興ライヴの告知を見て、等々力渓谷公園へフルートを持って出かけて行ったことがある。晴れた日の午後の公園を歩き回って探したが、散歩する家族連れやカップルばかりで、告知された開演時間になってもライヴがはじまる様子はない。諦めて帰る道すがら、隅の木陰のビニールシートで数人の大学生風の若者が玩具の楽器を弄っているのに気がついた。もしかしてこれがそうか、と思ったが声をかけるのも憚られ、そのまま公園を後にした。ことあるごとに「アレは何だったのか」と思い出すその出来事は、風巻の言う「かっこ悪い」ことに美学を見いだした一群の人達の仕業だったに違いない。その中には風巻自身も含まれることも間違いない。あの時代を創り出したのは「かっこ悪さ」を信条とする地下音楽者なのである。

風巻隆は吉祥寺ぎゃていの名物的存在だったと記憶する。出演者として演奏するのはもちろん、観客で来て、飛び入り参加することも多かった。筆者の高校時代の女友達が初めてぎゃていに遊びに来たとき、工藤冬里のステージに飛び入りしたものの、楽器がなかったので全裸になって自分の身体を叩き始めた風巻を見て、驚いて逃げ帰ってしまったこともあった。身体を叩くこともあったが、メインの楽器は首から下げる太鼓だけだった。飄々として踊りながら太鼓を叩く佇まいは、正に風を歩くようだった。

当時風巻がリリースしたレコードは、湘南大磯のすとれんじふるうつというライヴハウスでのライヴ盤。

●かざまきたかし・ 向井千恵 ‎– 風を歩く:Live At The すとれんじふるうつ(FOOL-001 / 1983)


胡弓の向井を迎えての1982.3.13のライヴ録音。全4トラック中向井が参加するのは2曲であり、残る半分(収録時間は3/4)は風巻のパーカッションソロ。しかし子供の声や笛やピアノが聴こえるので、客席の子供たちが飛び入り参加しているようだ。

●小杉武久, かざまきたかし ‎– 円盤:Live At The すとれんじ ふるぅっ(FOOL-002 / 1983)


小杉との1983.2.19.の共演ライヴ。小杉はヴォイス、たて笛、ヴァイオリン)、かざまきはタイコ、ドラ、ハモニカを演奏。ジャケット裏には「即狂のおと」と題して音楽/芸術のジャンルではない”生の衝動”としての「即狂」論を展開している。

●ダニー・デイビス*・ 風巻隆 ‎– Atmosphere(FOOL-3 / 1985)


サン・ラ・アーケストラのサックス奏者ダニー・デイヴィスとの1985.5.18のデュオ・ライヴ。当時デイヴィスは日本に住んでいて日本のミュージシャンと共演していたという。中でも風巻とは仲が良かったらしく、タイトルの「アトモスフィア」とはデイヴィスの息子の名前「大気(たいき)」に因んだと言う。87年にデイヴィスは音楽活動の拠点をニューヨークに移すが、その翌年急逝してしまう。85年にリリースしたが在庫が残っていた本作に新たに解説書を入れて追悼リリースされた。

どの作品も完全なImprovisationではあるが、アメリカのフリージャズとも、ヨーロッパのフリー・ミュージックとも異なる、気配と環境に司られた自由を超えた風のような奔放さに満ちており、行き過ぎることを恐れない地下音楽の空気を孕んだ演奏の断片記録として秀逸な作品揃いである。
『地下音楽への招待』刊行: 剛田武インタビュー"行き過ぎることを恐れない"

KAZAMAKI Takashi SOLO PERCUSSION 2013 Steps Gallery


カッコいい
ことはなんとも
カッコ悪い



■風巻 隆 ソロ・パカッション  「SO LONG」    レコーディング ライヴ
2016年11月29日(火)   午後7時開場  7時30分開演
明大前  キッド・アイラック・アート・ホール  
       京王・井の頭線「明大前」駅下車  和泉校舎へと向かう学生街コンビニの先、左側徒歩2分
予約 2000円   当日 2500円  (1ドリンク付)
予約・問い合わせ   キッド・アイラック・アート・ホール  tel.03-3322-5564

出演 風 巻  隆   percussion
80年代から、明大前のキッドアイラックアートホールを拠点として自主的な演奏活動を続けてきた即興のパカッショニスト風巻隆。
2005年にキッドのレーベルからソロCD「ジグザグ/zigzag」をリリースしてからも楽器の改造を行い、音の形をさまざまに変化させていく独自の演奏法のスタイルを革新させてきた。

現代音楽の領域でも通用するような革新的な演奏スタイルを持ち、超絶的な演奏テクニックを駆使して作るそのサウンドは、さまざまな倍音をコントロールし、共鳴、共振といった音の特性をその音楽の核心部分で使いながら、タイコが語りかけるようなピッチコントロールと、聴くものの予測を気持ちよく裏切るズレや変化をともなうリズムで、どこか懐かしい「音の風景」を形作っていく。

今年の年末でその長き活動に終止符をうつ明大前の「キッド・アイラック・アート・ホール」へのオマージュとなるソロ・コンサート。
風巻とキッドの運命的な出会いと、タイコの内部にいるようなその音を体感するのは、これがほんとに最後になる。
コメント
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