A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

灰野+オルーク+アンバーチ/スティーヴン・オマリー他@六本木スーパーデラックス 2014.3.2(sun)

2014年03月04日 00時51分45秒 | 灰野敬二さんのこと


灰野・オルーク・アンバーチ

出演:
灰野敬二+ジム・オルーク+オーレン・アンバーチ
スティーヴン・オマリー solo
Crys Cole solo

スーパー・デラックスでこれまで奇跡的にも毎年恒例となっている灰野敬二+ジム・オルーク+オーレン・アンバーチによるライヴが今年も開催される事が決定した。2009年に一度限りのスーパー・グループとして始まったこのプロジェクトは、現在3人のメンバー全員にとって主要なプロジェクトとなり、これまでリリースされた一連のLPは世界中で高く評価され、数々の年間ベスト・アルバムのリストに登場してきた。そして訪れる2014年3月2日は2009年以降、毎年開催されてきたとはいえやはり今年も見所溢れる公演となる事は間違いないであろう。灰野は最近不失者を復活させて大きな話題となったばかりで、アンバーチは高い評価を受けるソロやコラボレーションのプロジェクトを過酷なスケジュールで続けており、オルークは東京の即興音楽コミュニティにとって不可欠な存在であり続ける一方で、Editions Megoから2枚組LPを連続リリースし、長編エレクトロ実験音楽の最前線に復帰したところだ。彼らはトリオとして伝統的なギター/ベース/ドラムのフォーメーションが持つ生々しいパワーを最大限に極めつつ、その壮大で予測不可能なパフォーマンスの中で新しいアイデアを取り入れながら常に実験精神溢れ、魂のこもった演奏を続けている。揃ってステージに立つことは滅多にない3人が集まり、今年も実現する事が出来たこの貴重な公演は、絶対に見逃せない類い稀な好機であると断言出来る。
なお翌3月3日にはこのトリオのLPジャケットのデザインを毎年のように手がけてきたスティーヴン・オマリー(Sunn O))) が、灰野、アンバーチ、オマリーの3人によるトリオ『Nazoranai(なぞらない)』として日本初となるライヴを敢行する。こちらも見逃せない内容となる事は間違いないだろう。
―フランシス・プラーニュ



6年目に突入したONCE A YEAR=年一トリオの日本公演、というか日本だけのスペシャル企画、今年はいよいよSUNN O)))のスティーヴン・オマリーが登場するとのことで、会場は満員御礼。具体的には説明できないが、いつもの灰野やオルークのファン層とは少しだけ位相の異なるフローが漂っている。

クリス・コール

(写真の撮影・掲載については主催者の許可を得ています。以下同)

毎回このトリオのサポートを務める女性サウンドアーティスト。マイクに吹きかける息の音や、テーブルと衣服を擦ったり引っ掻いたりした物音を増幅させ、ザワザワカサカサした微弱ノイズを発生させる。儀式の前の露払いだが、観客にとってはある意味忍耐の時間。視覚的要素を排して音だけを取り出したら印象が違うかもしれない。




スティーヴン・オマリー


巨大なアンプが3台ステージ後ろに壁のように並んでいる。スティーヴン・オマリーの為に持ち込んだ機材だという。SUNN O)))については詳しくないが、音源を聴いた限りではズーンと沈み込む重低音ドローンが延々と続く暗黒のドゥーム・アンビエント・ロックである。Borisの盟友としても知られ、来日公演では暗黒の中で悪魔祓いの儀式のような演奏が延々と続いたという。今回のソロでも世界観はSUNN O)))そのもの。スティーヴンがギターをストロークすると、暗黒の塊がアンプから飛び出し、地鳴りのように足元を震わせる。かなりの音量だが、不思議と耳には優しい。ワンコードを延々と弾き続け、エフェクターやアンプのコントロールで音質を変化させる。現在は製造中止のトラヴィスビーン製メタルギターのボディー全体が共鳴して発するフィードバックは何物にも比較しようがない強烈さ。「爆音だけで人を殺せる絶叫マシーン」の被験者になったような気分がした。




灰野敬二+ジム・オルーク+オーレン・アンバーチ


このトリオを観るのは6回目。これまでにミニマル音楽家シャルルマーニュ・パレスタインと石橋英子をちらっとゲストに迎えたことはあったが、基本的に3人だけのガチンコ共演である。名うての即興音楽家ばかりだが、一貫して灰野色の濃いパワーロック演奏が持ち味。灰野のブルガリで静かにスタート。前回2月3日に恵比寿BATICAで恐らく初めて披露された英語詞の歌。誰かのカヴァーか既成の詩だろうと思っていたら、ワンフレーズだけ日本語で歌った時にハタと気づいた。これは灰野の言葉(詩)を英語に訳したものである。「Explode(はれつしろ)」という不失者の最新作に登場する言葉(歌詞)も聴き取れる。知る限りでは灰野が自分の言葉を英語で歌うのは初めてのこと。ずっと日本語に拘ってきた灰野の新たなる挑戦といえる。聴く側(日本人)にとっては、言葉の意味が直接響かないので、灰野の声が楽器と同じレベルで耳に飛び込むために、今まで以上に抽象的で自由な地平が啓かれる気がする。しかし単語が平易なので、時間差で意味が水泡のように意識の表面に浮かび上がり、トーン(音)とワード(言葉)の鬩ぎあいに脳内神経シナプスが活性化する。そのとき生じる知覚の混乱は決して不快なものではなく、強靭なトリオ演奏と相俟って、言い知れぬ興奮の渦に聴き手を導くのである。一方日本語がわかるイギリス人の知り合いは「今マデ灰野サンノ歌ハ曖昧ダッタケド、ハッキリ意味ヲ理解デキテ信ジラレナイヨ!」と興奮していた。灰野の挑戦は日欧いずれのリスナーにとっても、知覚の扉を開く経験となるに違いない。

ブルガリ、エアシンセ、ハーモニカ、ギター、フルートと轟音から静寂まで流れを持った展開は、壮大な組曲のように心を捉えて離さない。普段は冷静なオルークは激しいアクションでベースを弾き倒し、アンバーチはパワードラムと物音ノイズの境界を行き来する。灰野がリードしているように見えるが、他の二人も全身から霊気迸る演奏を繰り広げる。輪廻転生の如くブルガリに立ち帰ったエンディングに流れる平静な風景はほんのりと異界の香りが漂っていた。



三つ巴
交わる果てに
世は啓く

残念なのは告知された昨年のライヴを収録したLP2作の製造が間に合わず、発売延期になってしまったこと。

2014年発売その一!CD&限定生産LP:
灰野+オルーク+アンバーチ「ただ 美しく 溶けて しまいたいのに/まだまだ満ち足りて いないから/まだ見えていないはずの ものの ほうが 愛おしく 思えてしまう」録音:2013年3月17日@sdlxtokyo(アコースティックセット)


2014年発売その二!CD&限定生産LP:
灰野+オルーク+アンバーチ「ここに 与えられた この身体/全部 使い切ってやる という者の/お茶の 時間」録音:2013年3月17日 @sdlxtokyo(エレクトリックセット)


コメント (2)
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