GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「風のガーデン」(第6話)

2008年11月16日 | Weblog
 脚本家・倉本聰が3年ぶりに富良野を舞台にした新作ドラマを書き下ろした。タイトルは『風のガーデン』。死を目前にした男が絶縁していた家族のもとへ戻っていく物語を通して“生きること・死ぬこと”を描いている人間ドラマだ。

麻酔科医の白鳥貞美(45)は、麻酔学界の権威として東京で活躍していたが、実は6年前、不倫関係から妻が自殺した事が元で、父親に勘当され、北海道富良野市にいる家族とは絶縁していた。同じ膵臓ガンを患った株ブローカーの治療しているうちに、貞美は姉の誘いで、故郷を訪ねる決心をした。

息子の白鳥 岳(14)は6-7歳の知能しか持っていないが、ピアノの調律ができ、花の名前を記憶力に優れていた。父親は死んだと思い込んでいた。

膵臓の末期ガンを患っていた貞美は、朝もやに包まれた風のガーデンにいた。この町では彼は妻を自殺に追い込んだ悪者だったが、どうしても息子の姿を見たかったのだ。岳は草むらに隠れていた貞美を見つけ驚くが 、「大天使ガブリエル様ですか?」と父に尋ねた。貞美はとっさに「そうです」と答えた。父だとは名乗れるはずがなかった。
 翌日の早朝も二人は密かに会った。風のガーデンのグリーンハウスで岳はガブさん(大天使ガブレエルの呼び名)にハーブティーを出して質問をした。

「質問その一、ガブさんは僕の家族の事を知っていますか?」
「何でも知っています。一応私は天使だからみんな知っています」
「お母さんのことも知っていますか?」
「はい、知っています」
「会ったことはありますか?」
「はい、しょっちゅうお会いします」
「どこで?」
「天国で」
「お母さんは元気にしてますか?」
「とてもお元気で…毎日お婆ちゃんと花の手入れをなさっています」
「ホタル(死んだばかりの愛犬)はそっちに行ってますか?」
「まだ、あっちには着いていないようです。天国への道も近頃時々渋滞していますので。
 まもなくこっちに着くでしょう」

「質問二、僕のお父さんには会ったことがありますか?
「あります」
「僕はありません。顔も知りません。お父さんも天国にいるんですか?」
「…もうじき来ると噂には聞いています」(末期ガンが進行していた)
「もうじきっていつですか?」
「今年の冬か、そのぐらいでしょう」
「どうして今はいないのですか?」
「…資格審査で手間取っているようです」
「資格審査ってなんですか?」
「天国に行ける資格があるか、難しい審査があるんです」
「難しい審査ってなんですか?」
「つまり… この世で生きている間にいいことをしたか、悪いことをしたか、
 お父さんは悪いことをいっぱいしてたんで……審査会で大分引っかかっているようです」
「父をよろしくお願いします!」岳は大声をあげて深々と頭を下げた。
 ガブリエルを演じる父は唇をかみ締め言葉を詰まらせた。

そして父は涙を隠しながら、お母さんがいつも弾いていた「乙女の祈り」を岳に頼んで弾いて貰った。
……………

なんと素晴らしい脚本か!

 この場面で思わず号泣しそうになった。こんなことは久しぶりだ。昼間、映画館で「容疑者Xの献身」を見てきたがその感動もこのセリフを聞いて吹き飛んでしまった。緒形拳の遺作と聞いて、倉本聰氏2年ぶりの脚本を楽しみにしていたが、拳さんが出演するシーン、特に岳くんとの会話シーンはどこも素晴らしく、亡くなった事を思うと余計に胸が締め付けられる。

 末期ガンの痛みは壮絶なものだそうで、多くの小説で何度も読んで知っているが、麻薬で抑えるしかない現代医療の限界を、このドラマを見て改めて考えさせられた。敬愛するポール・ニューマンもガンを患い、最後は愛する妻の元で死を迎えたいと病院治療から自宅治療に切りかえ、最近亡くなった。このドラマでも本人にとっても家族にとっても残された時間は大切だということを語っていた。それは本人の希望を聞いて自宅治療を受け入れることは、家族に辛くてきつい看病行為を強いることになるが、のちのち残された家族の気持ちを癒すからだという。




人は生き続けることは許されない
誰もが死の招きを受け入れるしかないのだ
<無常>とはそういうことをいうのだろう

三島由紀夫は「桜は散り際が美しい」と云った
このドラマを見ながら 改めて自分の散り際を考えるようになった

今思うことは いい出会いといい別れをし続けたいということだ
若い連中にもそう語っている
特にいい別れができるように今を大切にしようと
今できることを懸命に、賢明にやろうと
それはいい思い出をたくさん持って逝くことを意味する
その数の多さで天国の扉が開くように思うからだ


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