児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

すべてはたったひとつの宝物

2018-07-23 | 物語 (電車で読める程度)
近頃物忘れが多くなっている気がする。その事実に私はひどく怯えている。私の人生を証明する者達は皆、一人ずつこの世を去った。会う度に若々しく感じた人でさえも、ある時ふとどこかが悪くなりいつの間にか私より先に逝ってしまった。それを全くの他人事とは思えないほどに私は歳を重ねた。仏教の類いをなぞり、万物への欲望から一切手を引くこと。あるいは基督教の文脈から、浄土に焦がれること。そのいずれも目の前に迫るありふれた終わりに対して、なんの慰めにもならなかった。最も私が何かを悟るには徳が低く、神々の国へ期待するには私はこれまで幸せで満たされてきた。唯一言えることは、少なくとも今ここに存在している物も者も物事に対してはこれ以上無くしたくないのである。
だからこそ、増々私のこれまでを証明する物達がかけがえのない物に思えてならないのだ。

 私がこれまで築いてきた財産だけでなく、家の隅々にある食器や生活の品々。それら全てが私が今まで生きていることを示している気がした。つまり物は記憶を保持する器であると思うのだ。その物を手に取ると、懐かしい人と語らうかのように次々と忘れていた思い出で溢れかえってくる。だからこそ人は喪っても、この物達、この記憶だけは失いたくないと思っている。


私は懐かしい記憶に埋もれながら、麦茶を啜った。




















猛暑日が当然のように続く中、俺は父親のところへとむかった。昨日役所から急電が入り、どうやら実家がゴミ屋敷になっているとのことであった。


【おわり】