ケイの読書日記

個人が書く書評

又吉直樹 「劇場」 新潮社

2018-03-07 10:34:15 | その他
 これを恋愛小説って呼ぶんだろうか…? 確かに、男の側から見れば、この沙希ちゃんは女神のような女性だけど。 いやいや、自分の身を削って男に尽くす、おつうさんみたいだ。おつうさんは最後に、鶴の姿に戻って男の元から去っていく。こういった一方の自己犠牲によって成り立つ恋愛は、最後にそうならざるをえない。

 売れない演出家・永田と青森から上京して服飾専門学校に通っている沙希は、偶然出会い一緒に暮らし始める、というとロマンチックだが、本当の所は、永田の収入があまりにも少なく、沙希のアパートに転がり込んだというのが正しい。
 永田は家賃どころか、食費も払おうとしない(払えない)。沙希の青森の実家から送られてくる米や野菜を、沙希の親の悪口を言いながらムシャムシャ食べる。

 この沙希の両親も、人が良すぎるんだよね。両親が家賃を払っている娘のアパートに、無職男が居候していれば、親が上京し別れさせようとするか「娘をどうするつもりだ」と男に詰め寄るような気がするけど、沙希の両親は何もアクションをおこさない。たまに娘に電話するだけ。

 沙希ちゃんは、服飾専門学校を卒業し、昼間はブティック、夜は居酒屋で働き始める。ダブルワーク、今は若いから良いかもしれないが、身体を壊しちゃうよ。永田も…なぁ…。もちろん、頭の中は演劇でいっぱいだとしても、一日中ぶらぶらしていて、果たして良い脚本が書けるんだろうか? 村田沙耶香が、コンビニに勤めながら名作『コンビニ人間』を書いたように、どこかでアルバイトして労働者として社会と繋がっていないと、ピント外れの作品しか書けないような気がするなぁ。
 それに働いていた方が知り合いが増える。知人が増えた方が自分の演劇のチケットがさばけるしね。

 光陰矢の如し。地元・青森の友達はみな結婚し、子どもも生まれている。東京での生活に疲れ果てていく沙希。そして避けられない別れが…。

 
 永田のクズ台詞はいろいろあるが、その中でも極めつけを一つ。
 沙希ちゃんが卒業し、親からの仕送りがなくなったタイミングで、光熱費だけでも払ってもらえないかと永田に相談したが…人の家の光熱費を払う理由がわからないと言われた。人の家って、あんた、自分の家がどこにあるの?人の家で毎日寝起きして、人の家でゴハンを食べて、人の家の風呂に入って、トイレで水を流して…早く自分ちに帰りなよ。
 私だったら、相手から「人の家の光熱費を払う理由が分からない」と言われた時点でアウト。もう、この人とは暮らせないね。
コメント
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