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大変長らくご無沙汰して、すいません。これから、少しずつですが、更新しますね。

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「君が通り過ぎた後に……」 第一話

2006-12-24 20:02:34 | 屋久猛の各種小説

   屋久島、宮之浦の町並です。画像は、屋久島ポータルサイト様から御借り致しました。
 「君が通り過ぎた後に……」
 
 この物語は、フィクションです。登場人物などは一切関係ありません。


 はじめにと、主な登場人物紹介。

 この物語は、前作、宏志と葉子のラブコメディーである「可笑しな贈り物」に続く第ニ段で、その四年後の鈴木家に起きたもう一つのラブストーリーです。

 鈴木 尚志(すずき なおし)……鈴木家の次男(23)で、叔父の経営する病院で看護師として働いている。

 天野 楓(あまの かえで)……記憶喪失で自分の名前しか覚えていない、尚志より一つ年下の女性。

 鈴木 宏志(すずき ひろし)……鈴木家の長男(24)。
 朝倉 葉子(あさくら ようこ)……宏志の幼馴染みで彼女。


   
 第一話

 それは、秋も終わりを迎えようとする、十一月の頃のことだった。俺こと鈴木宏志は、浅い眠りの中で夢を見ていた。
「葉子、今帰ったよ」
 調理師専門学校を卒業した俺は、小さな小料理屋に就職して、今は葉子と暮らしている。
「あら、今日は遅かったのね」
 葉子は、何時ものように笑顔で俺を出迎えた。葉子の笑顔を見ると、仕事の疲れなど直ぐにすっ飛んでいく。そして、明日も元気に頑張れるのだ。
「ああ、今日は祭日前だからね。お客さんが多かったんだよ。疲れたー。お疲れ様のチューは?」
 俺がそう言うと、葉子は、唇に軽くだが何時も優しくキスしてくれる。最近では、それが日課のようになってた。
 可愛くて、薄ピンク色のプルンとした唇が微かに触れるだけで、俺は天国に上ったような気持ちになるのだ。
 しかし、今日は違っていた。「チュッ」というより「ブチュー」である。何時になく大胆だ。それが何秒続いたのかは分からない。そして、悪夢が訪れた。
 何時もは甘酸っぱいようなキスなのに、何か可笑しい。甘酸っぱいというより、非常に不味い。そして、変な臭いがするというか異臭がする。例えるなら、生ゴミような溝(どぶ)の様な臭いである。
 そして、キスの途中で「ゴボッ」という音がした。
「葉子ちゃん。 『ゴボッ』ってなに?」
 俺は思った。
 その次が「ブボー」で、その次が「ブッフー」で、その次が「コホッ、コホッ、コホッ……」で、その次が「ムニャムニャ……ゴックン」である。
 馬鹿な俺は理解に苦しんだ。
「ブボーの、ブッフーの、コホッ、コホッ、コホッ……ムニャムニャ……ゴックンってなんだー????」
 そして、それは、少しずつ明らかになってきた。

 顔に、冷たくヌルヌルするものを感じた俺は、それで目が覚め、夢を見ていたことに気付いた。隣には女性が寝ている。俺は、当然の如く、その女性は葉子だと思い込んでいた。
 シーツの上を見ると、涎(よだれ)と言うより、明らかに「寝ゲロ」が見える。俺は、思わず自分の顔を触った。掌(てのひら)に「ヌルッ」とするものを感じる。嫌な予感がした。掌を見ると、「ヌルッ」としたものと一緒に、食べ物のカスが見える。ここまで確認すれば、馬鹿な俺でも顔に付いている物が寝ゲロであることは分かる。
「はー」
 と、俺は、深い溜め息をついた。そして、それと同時に嫌な疑問が浮かんだ。
「ムニャムニャ……ゴックン」は、葉子なのか俺なのかという疑問である。そして、更に、深い溜め息をつくと共に、驚かされる事態が次々に俺の目の前で起こったのであった。

 取り敢えず、顔を洗って歯を磨こうと思った俺は、洗面所へ向かう。しかし、洗面所が見当たらない。
「あれ、可笑しい。洗面所が見当たらない!」
 寝惚けながらも辺りを良く見ると、そこが自分の住む家(アパート)ではないことに気付いた。
「って?ここは、一体何処だ?じゃあ、あの子は誰だ?」
 その疑問も、直ぐに知らされることとなるのだが……。
 小さな子犬が、
「キャンキャン」
 と、泣きながら俺に近付いて来る。小さな尻尾を振りながら可愛らしい顔で、
「遊ぼう、散歩に連れてって……」
 と、言っている様であった。
 しかし、今の俺はそれどころではない。「ムニャムニャ……ゴックン」が、寝惚けながらも気になり気持ちが悪い。とにかく顔を洗って、歯を磨きたいのだ。それでも、その子犬は、キャンキャンと泣きながら、俺にじゃれ付いて来る。
 暫くすると遠くから、
「こーら、ぺぺ吠えないの!」
 と言う、聞き覚えのある男の声が聞こえ、その男はそこから足早に駆けて来た。
 そして、馬鹿な俺は、漸く、ここが弟の尚志の住んでいる家であることに気付かされたのだ。
「やあ、兄貴おはよう。うわー。どうやら、間に合わなかったみたいだね」
 尚志は、俺を見るなりいきなりそう言うと、苦笑いを浮かべている。手には、洗面器とタオルを持っていた。
 どうやら、こいつは、事の成り行きを知っているようだ。
「洗面所は、真っ直ぐ行って突き当たりを右だから、取り敢えず顔洗いなよ。歯ブラシも、新しいのが戸棚に有るからさ」
 尚志は、そう言うと、奥の部屋へと向かって行った。そして、俺はまだ、その女性が葉子だと思い込んでいた。葉子と一緒に、尚志の家に遊びに来ていたのだと思い込んでいたのだ。
 しかし、俺のその思い込みは、あっさりと覆(くつがえ)されることとなる。俺は、とてつもなく馬鹿でアホであった。

 顔を洗って歯を磨いてさっぱりした俺は、辺りをキョロキョロと見回しながら、尚志の向かった奥の部屋へと向かった。詰まり、俺の寝ていた部屋にだ。すると、
「楓、大丈夫か?また無理して飲んだんだろう。ほら、ちょっと起きて。シーツがビチョビチョだからさ」
 という、尚志の声が聞こえた。
「えっ、楓?葉子じゃないの?」
 そう思った俺は、足早に奥の部屋へと向かった。なんだか、頭がズキズキと痛む。
 そして、俺が奥の部屋で見た者は、ベロンベロンに酔っ払った俺よりも若く見える女性であった。
 髪は、ショートで黒というより少し茶色ぽい色で、肌は割と色白。体格は細身でスラッとしていて、尚志に支えられて座らされていても、背の低いことが窺える。百六十センチもないだろう。顔は、ひょっとしたら葉子よりも可愛いかもしれない。しかし、ベロンベロンに酔っているその女性には、女性らしい魅力を感じなかった。そんなことを思いながら、俺は二人を見ていた。まだ頭がズキズキと痛む。
「兄貴、そこでボケッと見てるなら、ちょっと手伝ってよ!」
 尚志にそう言われて、「はっ」と我に戻った俺は、尚志に言われるがままに手伝ってやった。
 その女性は、尚志の問いに、
「うん、うん、分かった……。分かってるって……」
 などと答えているが、全く、俺の存在に気付いていない。
 とにかく、尚志の言う通りにシーツを剥がしたものの、寝ゲロは既に敷布団に染み込んでいる。タオルで彼女の顔に付いた寝ゲロを拭いてやり、取り敢えず敷布団も拭く。そして、尚志に言われるがまま、風呂場の脱衣所に有る戸棚からバスタオルを取り出して来て、寝ゲロの染み込んだ部分を覆い、「また吐くかもしれない」ということで、敷布団の上の部分にもバスタオルを敷いた。
「ご、ごめんね……。ありがとね……ムニャムニャ……」
 彼女は、そう言うと、また深い眠りについた。恐らく、俺の存在には気付いていないだろう。
 これが、俺と、尚志の彼女である楓との出会いであった。

 リビングで熱いコーヒーを二つ入れた尚志は、その一つを俺に渡し、一口飲むと、
「でっ、葉子さんと何があったの?」
 と、話を切り出した。リビング全体にコーヒーの香ばしい良い香りが広がる。さっきの生ゴミのような溝のような臭いとは大違いだ。
「葉子と何かあったのかって言うよりも、あの子は一体誰だ?彼女か?」
 俺も、一口コーヒーを飲むと、話を切り返した。
「ああ、楓のこと。それは後でゆっくり話すよ。話すと長くなるからさ。電話くらいくれりゃあいいのに、行き成りこられても困るんだよね。しかも、ベロンベロンに酔ってさ……。どうせ、くだらないことなんだろ。話してみなよ」
 尚志は、そう言うと、俺のコーヒーカップにコーヒーを注ぎ、焼きたてのスライスされたフランスパンにマーガリンを塗って、俺に勧めた。
 俺は、昨日のことを良く覚えていない。しかし、頭がズキズキと痛むということは、それほど俺が酒を飲んだことを意味していた。
 俺は、馬鹿なりに昨日のことをゆっくりと思い出そうと試みた。
「確か、昨日は店で新メニューを出す日で、親方に少しでも喜んでもらおうと、前々から考えていたメニューを作って親方たちに試食してもらったんだ。うん、確か……。そしたら、『馬鹿野郎!こんな不味いもん出せるか!』って、怒鳴られて、ムシャクシャしたもんだから、仕事帰りに赤提灯(居酒屋)によったんだよな」
「それで……」
 尚志が話を促す。
「ほんのちょっと居るつもりが、ついつい長引いちゃって……。家に帰ったら、葉子が玄関先で仁王立ち。何時の間にか口論になって、家飛び出して、また飲み直しに行って、気が付いたらお前の所で寝てたってなわけだ」
 俺は、思い出しながらそう言うと、
「ちょっと、電話を貸してくれ」
 と、尚志に頼んだ。
「たくっ。そんなことだろうと思って、葉子さんには俺から電話しといたよ」
 尚志は、呆れたように俺に言った。
「でっ、葉子ちゃ……、いや、葉子はなんて?」
「久し振りに兄弟に会うんだから、ゆっくりしてこいってさ。そんで、落ち着いたら帰っておいでってさ」
 尚志は、俺の問いに溜め息混じりに答えた。でも、その答えに、もう葉子は怒ってないんだと知ると、俺は、「ほっ」となってパンに噛り付き、コーヒーを一気に飲み干した。
「全く、兄貴も楓も飲み過ぎなんだよ。程々というものを知りなよ。酔っ払いは、看護師の俺でも手におえん」
 尚志は、溜め息混じりにそう言うと、チラッと奥の部屋に目を向けた。彼女は、まだ起きてこない。
「なあ、尚志。俺は全く覚えてないんだが、俺は、神と葉子に誓って言う」
「何を?」
「だから……、なんだ、その……」
 俺が口篭もりながら話すと、尚志は気付いたようで、
「ああ、S○Xのことか!ハハハハハハ」
 と言って、腹を抱えて笑い出した。
「してねえよ、てっ言うか無理だよ。二人ともべロンベロンに酔っ払ってたから。太郎(股間)に触れてみなよ。ヌルっとしているかどうか」
 尚志にそう言われて、俺は、直で太郎に触れた。滑ってはいなかった。いつもと変らない小さな俺の太郎は、トランクスの中で何時ものように下を向いて、ぶらぶらとしていた。
「兄貴が来たのが一時頃。それから、グダグダと愚痴をこぼして、寝付いたのが二時半頃。楓がバイトの子に付き添われて帰って来たのが三時過ぎ。
何時もなら二階で寝るんだけど、とても二階へは運べないと判断した俺は、二人を一階の別々の部屋に寝かせたんだ」
 尚志は、コーヒーを一気に飲み干すと、話を続けた。
「ところが、二人は一緒に寝ていた。初めは見たときはビックリしたよ。『なんでだ?』てね。でも、直ぐに分かったよ。途中で楓が洗面所に吐きに行ったんだ。間に合わなかったようで、ローカの所々にゲロの跡があったよ。そんで、酔っ払っていた楓が間違って、兄貴の布団に潜り込んだってわけ。そんでもって、あの惨劇ってわけだ。分かった?」
 尚志は、冷静に続きを話すと、
「お陰で、俺は殆んど寝てないだよ!」
 と、苦笑しながら付け加えた。
「いやー。それは、兄貴として済まんことをしたな。以後気を付けるよ。でも、お互い、今日は仕事休みだろ。何にしても、良かった良かった。ハハハハハハ」
「笑って誤魔化すな!」
 そう言われて、尚志の拳骨が俺の頭を直撃した。星が出て、ひよこが数羽、頭の上をぐるぐると走り回った。

 彼女(楓)が目を覚ましたのは、正午過ぎだった。彼女も頭がズキズキと痛むようで、時々、眉間にシワを寄せていた。二人して二日酔いだ。彼女は、俺に気が付くと、
「あら、すいません。お客さんがいらっしゃているとは気付かずに……」
 と、縮こまって恥かしそうな表情を見せた。小さな体が更に縮み込んでいるその姿と、その表情が、とても可愛らしく見えた。
「おはよう。気にすることはないんだよ楓。俺の兄貴だから」
 尚志は、彼女にそう優しく声を掛けた。
 俺は、彼女が起きるまでの間に、尚志から彼女のことに就いて色々と聞かされた。聞かされたというよりも、俺の方から聞き出したのだ。


 平成十七年、十一月二十三日、午後十時頃。
 その日は、正午過ぎから雨が降り出し、生憎の空模様。久し振りの休日だというのに、何処にも行く気がしなくなり、俺(ここでは、尚志のこと)は、家でゴロゴロしながらレンタルビデオを見ていた。内容は覚えていない。つまらなかったからだ。それでも暇つぶしに見ていたのだが、ふと雨の降る夜景が見たくなり、愛犬のぺぺを車に乗せて雨の降る夜の街へと繰り出した。
 さすがに中心地となると、夜遅くても人の行き来が絶えない。初めて、車で遠出をするぺぺは、嬉しいのか「キャンキャン」と吠えていた。
 俺は、人ごみが苦手なので、好んでは人のごったがえす中心地へは行かない。人に酔うからだ。それは、生まれてから十八年間、島で暮らしていたからかも知れない。
 中心地を抜けると、雨は少し小降りになった。Tという町を抜け、O坂という峠へ向かう途中の夜景の見えるスポットで車を止め、ホットコーヒーを飲みながら夜景を眺める。「百万ドルの夜景」には程遠いが、これはこれで、俺の心を癒してくれた。
 すると、誰か人の気配を感じた。周りには何もない。車も直ぐ側には止まっていない。
「まさか、この季節に幽霊?」
 勘弁してくれ。俺は、そういうのが大の苦手なのだ。ぺぺにも見えたようで、キャンキャンと吠えている。俺は、目を細めて良く見ると、背の低い女性が傘も差さずに、ゆっくりと歩いていた。
「何処から着たんだ。Tからか?この辺りには民家はないぞ?」
 夜景はさて置き、俺は、その女性が気になった。
 暫くすると、雨が急に強く振り出してきた。それでも、その女性は急ぐでも慌てるでもなく、ゆっくりと歩いている。そして、その女性は俺に気付いたのか、こっちの方に向きを変えて歩き出すと、俺の車の前で「ばたっ」と倒れた。
 俺は、急いで車から降りて、その女性を抱え上げ、車へと急いだ。
「大丈夫ですか!返事をして下さい!」
 そう叫ぶも、女性からの返事はない。車に乗せて、脈に触れる。脈は、しっかりと「ドクッ、ドクッ……」と打っていた。彼女は、気を失っていただけだった。
 取敢えず暖房を掛けて、自分の上着を彼女に羽織らせる。暫くすると、彼女は気が付いた。それと同時に、彼女のお腹の虫が、
「キュルルルルル……」
 と、何度も泣いた。
 彼女は、恥かしそうに、
「すいません。ここニ、三日、何も食べてないんです」
 と話した。
 車には、俺の飲みかけのコーヒーしかなく、ずぶ濡れのままなのも可哀相なので、
「取り合えず、家に来ませんか?大した物は有りませんが、腹の足しにはなると思います」
 俺は、そう彼女に話すと、
「すいません。御迷惑をお掛けします」
 と、雨に濡れて寒いのだろう。彼女は、震えながら頷く様に答えた。
 これが、俺(尚志)と彼女(楓)との出会いであった。


                                   つづく


 第二話へは、こちらから。
 http://blog.goo.ne.jp/goo977/e/bbc6e3c402352c7ceb3e4efb6567711c
 

 

 


 

 




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2 コメント

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しょっぱなから辛い。 (ぴえーる)
2006-12-24 21:37:08
 さっそく見ました。いいですね。面白かったです。このあとどうなるのか?なんだかシリアスになってない?
 
 とても楽しみです。
いつも思いますが、この手のコメディーっぽさを含んだ作品がとてもうまいですね。
がんばってください。楽しみです。

 因みに「あした天気になあれ」の7、最終を更新してあります。
 またご覧ください。
ぴえーるさん、いらっしゃいませ。 (屋久猛)
2006-12-27 13:55:29
 ぴえーるさん。紹介する前に読んでしまったのですね。第一話は、身内では、爆笑ものでした。しかし、第一話は、食前食後には読まない方が良いかも知れませんね。

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