
「可笑しな贈り物」
この物語は、フィクションです。登場人物などは、一切関係ありません。
主な登場人物
鈴木 宏志(すずき ひろし)……鈴木家の長男(二十歳)で、恋愛暦なし。そのためか、恋愛には鈍感。
朝倉 葉子(あさくら ようこ)……宏志の幼馴染み。変な性格の持ち主。
この物語は、作者の生まれ故郷「屋久島」を舞台にしています。上の写真は、手前が佐多岬で、奥の方が開聞岳です。
「宏志、何時まで寝てるんだい!偶(たま)には家の手伝いもしておくれよ!」
俺は、ホカホカの布団の中で気持ち良く寝ていると、母ちゃんに布団を引っ剥がされた。ホカホカに温まった俺の体に、部屋の冷気が襲い掛かり、身震いと共に俺は目を覚ました。
「今、何時?」
眠気眼を擦りながら、母ちゃんに時間を尋ねると、
「もうとっくに昼を過ぎちまったよ!あんたは、『眠り王子』か?」
母ちゃんは、眠り姫と王子を掛けたらしい。
「ったく。母ちゃんたちはポンカンの出荷で忙しいんだから、とっとと飯食って、あんたも手伝いなさい」
母ちゃんは、右手に箒(ほうき)を持っている。
「偶の休みくらい、ゆっくり寝かせてくれても良いじゃんかー」
「そうだねー。あんたよりも、猫の手を借りた方がよっぽど作業が捗るかもねー。って、『YES』『NO』どっちなんだい?」
母ちゃんは、そういうと箒を振り上げた。
「分かったよ!行けば良いんだろ!」
俺の母ちゃんは、おっかねえ(怒ると怖い)。
「分かりゃ、良いんだよ。母ちゃんは、洗い物が終わったら先に行ってるからね」
母ちゃんはそう言うと、俺の部屋から出て行った。
[母ちゃん、俺の飯は?」
上下のジャージに着替え半纏を着て、顔を洗い終えた俺が聞くと、
「そこに有るでしょうが」
と、カップラーメンを指差した。
「ああ、有った有った」
「あんたが起きるのが遅いからさ。尚志と直人と宏平が、あんたのおかず食べてったよ」
捻くれたように俺が答えると、母ちゃんはそう言いながら洗い物を続けた。
「直人と宏平が、ポンカン狩り手伝ってくれるって言うからさ、あんたは、父ちゃんの墓参りに行ってきな。バッパン(祖母)が、花が枯れてたって言ってたよ」
ラーメンにお湯を注ぎながら、俺は、母ちゃんの問にふと思った。
「尚志は?」
「デートだってさ。あの子は、母ちゃん似で顔が良いからね。あんたと違ってもてるんだよ」
「鏡で、顔見てから言えよ」
ボソッと俺が呟くと、聞こえたようで布巾が飛んできた。
ラーメンを食い終わった俺は、ハサミを持って、庭の花壇に咲いている菊などの花を摘みに向かった。
「寝起きにラーメンライスは、やっぱきついなあ」
時々、ゲップをしながら花を摘む。ラーメンの臭いが鼻先にモワッと広がる。臭い。
花を摘み終えると、線香と焼酎「三岳」を持って愛車の「てんとう虫」に乗り込む。今日の天気は快晴で、海も白波の殆んど無い凪(なぎ)の状態。
高台に有る墓地からは、本土最南端の佐多岬(鹿児島県の大隈半島の南端にある岬)と、開聞岳(「かいもんだけ」鹿児島県の薩摩半島の南端に有る小高い山)が今日は綺麗に見えていた。何時もは開聞岳ぐらいなのだが、この二つが一緒に見えるのは、非常に珍しい。
俺は、墓参りを忘れて暫くその風景を見入っていた。いや俺だけではない。墓参りに訪れた人々は、立ち止まってその風景を見ている。それだけ珍しいのだ。
暫くすると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、宏志君じゃない」
幼馴染みの葉子の声だった。振り向くと葉子の隣にカップルがいる。
「あっ、こちらは幼馴染みの宏志君。でっ、こちらは……」
そう葉子が紹介すると、
「私は、早めの冬休みで今日帰って来たんだ。それで、三人とも休みが一緒だったから、旅行がてら私が誘ったの」
と、葉子は話した。
「ねっ、言ったでしょ。ここから開聞岳が見えるって。本当だったでしょ」
葉子は二人にそう話すと、カップルの二人は、
「本当だねー」
と、驚いていた。
葉子の話によると、男性の方は薩摩半島のK町出身で、女性の方は大隈半島のM町出身だと言う。二人は、デートの際、フェリーに乗ってどちらかが行き来しているらしい。それで、話の流れから、「島から開聞岳が見える」という話になって、休みを利用して来たのだとか。葉子にしてみれば、佐多岬まで見えたのは嬉しい誤算だったようだ。
しかし、俺は思った。
「なんで、わさわざ高台の墓地から眺めさせるの?」
と、こんな天気の良い日は、港からでも橋の上からでも見えるのだ。
そこが、葉子の可笑しなところでもあるのだが……。
「それにしても、宏志君。なあに、その格好。ジャージに半纏なんて……。ダサいわよ」
葉子は、急に二人の話から、そう俺に話を振った。
俺は、ガーンである。たかだか近所にあるの墓地に行くのに、余所行きの格好などしない俺は、この日ばかりは落ち込んでしまった。葉子が来ていると分かっていら、こんな格好などしてはいなかったのにと。
「でっ。今日は、何処に泊まるの?」
俺は、話を摩り替えた。
「私は、叔母ちゃん家に泊まるけど、二人はOにあるホテルに泊まるわよ」
葉子は、そう話すと俺の耳元で、
「二人の邪魔しちゃ悪いじゃん」
そう囁いた。葉子なりに考えているようだ。
葉子の叔母ちゃん家とは、俺の家の三つ隣である。
「じゃあ、夜は俺ん家に遊びに来いよ。久し振りに、昔話でもしようぜ」
俺は、何気に葉子を家に来るように誘った。
「良いよ、分かったわ。宏志君の叔母ちゃんに会うのも久し振りだし、大きくなった尚ちゃん、直ちゃん、宏平ちゃんの顔もみたいしね」
葉子は、そう話すと、
「じゃあ、また後でね」
と、にこやかに笑いながら二人を車に乗せて観光しに行った。
墓参りを済ませた俺は、急いで家に帰ると、何時もはしない家の掃除を開始した。
先ずは玄関。次に玄関から直ぐに見える部屋、次にトイレ。そして最後に俺の部屋。
台所は母ちゃんが片付けてたし、尚志たちの部屋までは幾らなんでも葉子は見ないだろう。俺は、そう思いながら鼻歌交じりに掃除を続けた。
暫くすると、母ちゃんとバッパンたちが、ギャリ箱(みかんなどの果物を入れるプラスチック製の箱)に沢山のポンカンを入れて帰って来た。
「あれまあ、家が綺麗に片付いてるよ」
「尚志が、片付けてくれたのよ。きっと」
母ちゃんとバッパンは、勝手なことを言っている。直人と宏平は、帰って来て早々、台所でジュースを飲んでいる。
「俺が、片付けたんだよ!」
そう言うと、母ちゃんは、
「だから、今日は良い天気だったんだー」
などと、また勝手なことを言い出した。
普通ならば、「だから、今日は雨が降ったんだー」となるのだが、この島では違う。一年、三百六十五日、何処かで雨が降っているこの島では、その反対になるのだ。
「実はさ、お、お、お母さん……」
言い馴れない俺の言葉を聞いた直人と宏平が、
「ブッー」
と、ジュースを噴出した。
「ブッ、ハハハハハハ……、ヒヒヒヒヒヒ……」
「ブッ、フフフフフフ……、ホホホホホホ……」
母ちゃんもバッパンも、腹を抱えて笑い出した。
「普通は、そうなるよなー。いきなり、お母さんはなー」
俺は、呟いた。「お母さん」などと言う言葉は、生まれて今まで使った覚えがない。
「いったい、どうしたんだい。熱でも有るのかいあんた」
母ちゃんは、笑いを堪えながら俺に聞いた。
「だから、実はさ、墓で久し振りに葉子と会ってさ、夜に遊びに来るってさ」
本当は、俺が誘ったのだが……。
「葉子って、中学の時までご近所住んでた、あの葉子ちゃんかい?」
「うん」
「それでいきなり、『お母さん』かい。馬鹿だねえあんた。幼馴染みなんだから、何時もの『母ちゃん』で良いんだよ。仏壇の前で、『お父さん』って言ってご覧よ。父ちゃん、天国から足滑らせて地獄へ行っちゃうよ。ブッ、ハハハハハハ」
そこまで笑うか普通、と俺は思った。
「兄ちゃん、部屋のエロ本隠したの?」
「隠した!」
「兄ちゃん、壁に貼ってあるロリコンキャラのポスターは剥がしたの?」
「剥がした!」
「兄ちゃん、ペットの小太郎(カメレオン)は?」
「取りあえず、尚志の部屋に移した!」
弟たちのアドバイスが続く。母ちゃんとバッパンは呆れた顔で俺を見ている。
「お前ら、俺がせにゃならん事は他にないか?」
「取りあえず、寿司でも注文して来るのを待ったら?」
「えー、何で寿司なんだ?」
「兄ちゃん。葉子さんを逃すと、今度何時恋愛出来るか分かんないよ。一生、出来なかったりして」
「兄ちゃんのおごりだよ。なんて言ったら、好感度アップだよーん」
「お前ら、俺の弱みに付け込んで……。でも分かった。財布の中身と相談してみる!」
弟たちからアドバイスを聞いていると、突然、電話が鳴った。
「これ、宏志!噂の葉子ちゃんから電話だよ。八時頃に来るってさ」
電話には、バッパンが対応した。バッパンは、用件を聞くと電話を切った。
「普通、宏志に換わりましょうか?てっ、聞くでしょう」
俺は、そう思ったが、このごろバッパンの惚けの進行も早いので、敢えて口には出さなかった。
時計を見ると、八時まで二時間を切っていた。寿司頼んで、風呂入って、服着替えて、俺にはまだ、することが沢山あった。
「まあ。母ちゃんは、晩飯作らなくて良いわけだから、こりゃ楽だね」
母ちゃんは、そう言って笑っている。しかし、俺は、寿司を注文して代金を聞くと、金が少し足りないことに気付いた。
「母ちゃん。金が少し足らんから借して……」
俺が母ちゃんに頼むと、母ちゃんのほっぺたが引き攣った。
「ピンポン、ピンポン」
玄関のチャイムが鳴った。
「夜分恐れ入ります。葉子ですが……」
直ぐに、インターホンから葉子の声が聞こえた。
俺は、直ぐに玄関まで走り葉子を迎え入れる。葉子は風呂上りだったようで、薔薇の様な良い香りがした。
「お、お母さん。葉子が来たよ」
俺が母ちゃんにそう言うと、みんな笑いを堪えている。
それから暫くの間、葉子の家族の事や、昔話をしながら寿司を食べ、和やかな時間が過ぎると、いきなり母ちゃんが本題に入った。
「ところで、葉子ちゃんは、お付き合いしている方がいるのかしら?」
みんな、その答えをハラハラしながら待っている。
「いませんよ。いれば、こちらへはお邪魔しません」
「それもそうよね。いれば、こんなむさ苦しい所へは来ないものね。ホホホホホホ……」
葉子の答えに、母ちゃんがそう言うと、みんなが、俺の脛を蹴り出した。
「いて、いて、いて……」
俺が痛がっても、葉子はキョトンとしている。それもそのはずた。
「これは、チャンスということか?」
俺は、弟たちに目で合図した。弟たちは頷いている。
その後、俺は母ちゃんにコーヒーを頼んで、葉子を部屋に誘った。
「エッチは駄目だよ!」
母ちゃんが、俺の耳元で囁いた。
「そんなもん、分かってらい」
壁に耳有り、障子に目ありで落ち着いて、そんなもの出来るわけがない。俺はそう思った。
「噂で聞いたんだけど。宏志君、来年、専門学校に通うんだって?」
葉子はそう言うと、母ちゃんが持って来たコーヒーを一口飲んだ。
「うん、まあね。手に職付けたくてさ。島には、そんな学校ないし……」
「JAで働いてるんだよね、今の仕事はどうするの?」
葉子は、真面目に俺に質問する。
「土いじりは、俺に向いてないんだよ。お、お父さんが決めた道なんだけど、もっと自分に合った職に着きたくてさ」
俺は、俺なりに真面目にそう答えた。
「じゃあ、来年からは何時でも会えるね」
「まあ、そういうことになるね」
葉子は、無邪気な笑顔を見せた。俺は恋愛に鈍感なので、それが何を意味しているのか、俺にはまだ分からなかった。ただ、葉子の笑顔が可愛くて、抱きしめたくなるのを、必死に我慢していた。
帰り際に、葉子が俺に変なことを言った。
「宏志君。どうせ、今年のクリスマスも誰からもプレゼント貰えないんでしょ」
余計なお世話だと俺は思ったが、
「クリスマスプレゼントに、葉子が何か贈ってあげるよ」
そう言うので、俺は嬉しくなって顔がニヤついた。
葉子の叔母さん家まで、そっからそこなのだが、葉子を送ってやると、玄関先で、葉子は俺のほっぺに軽くキスをしてくれた。俺には、それも嬉しいプレゼントだった。
葉子は、次の日、カップル二人と共に本土へ帰っていた。俺は、その日、仕事だったので葉子たちを見送ることは出来なかった。
それから数日後のクリスマスの夜。
「宏志や。葉子ちゃんから贈り物が届いちょっど」
バッパンがそう言うと、俺は、急いで部屋から飛び出した。
「生物だってよ。あんた、こんなに食べきれるかい?」
ダンボールには、生物と記されたシールが貼ってあった。送り先の住所も此処だし、名前も「鈴木 宏志様」と書いてある。
「なんだろう?お菓子かな?」
そう思いながらダンボールを開けると、中には、色々な種類の「さつま揚げ」と一緒に、手紙が入っていた。
拝啓 鈴木宏志様。
寒くなってきましたが、風邪など引いていませんか?
早速ですが問題です。「げ」-、「おう」+とはなんでしょう。良く考えて答えを下さい。
朝倉葉子
「『げ』-、『おう』+なんなんだー???????」
母ちゃんは、直ぐに分かったようで笑っている。
「怪文が入ってたー」
俺は、弟たちにこれを解いてもらおうと試みた。さつま揚げを食べても良いことを条件に……。
「簡単じゃん、兄ちゃん。さつま揚げって普通何て言う?」
「つっきゃげ」
「馬鹿、それは鹿児島弁だろう」
「標準語で言うと、どうなるよ!」
「つきあげ」
「後は、もう簡単だろう。さつま揚げ頂きー!」
弟たちはそう言うと、さつま揚げを電子レンジで温めて食べ始めた。俺が必死に考えている側で……。
「つきあげ、『げ』-、『おう』+??? おおおおう!!!!!『つきあおう』だー!」
俺は、直ぐさま葉子に電話をした。葉子は、待っていたようで直ぐに電話に出た。
「お前なー、ただでさえ頭悪いのに、頭から煙が出るような怪文贈るんじゃねえよ!でも、ありがとな。これから宜しくな」
俺は、そう葉子に電話で話すと、葉子も、
「遅い!でも、ありがとう。私こそ、これからも宜しくね」
と、何時もの明るい声で返事を返した。
それから、数年後。
「お、お、お、お母さん。明日、葉子と一緒に帰って来るから」
「ブッ、ハハハハハハ……」
電話越しに、母ちゃんの甲高い笑い声が聞こえる。
俺にはまだ、「お母さん」という言葉は馴染んでいなかった。
完
この物語のご意見、ご感想をお待ちしております。








面白かったです。ええ、マジで。悔しいくらいに面白かったので、ハッピーな気持ちになりました。
小生、これからも精進するつもりです。ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。
とっても家族愛を感じて暖かくほのぼのしたコメディーですね。
シリアスも上手ですが、こんなコメディーも良いので次回作楽しみにしていますね。