真っ白な原稿の上で、俺は爪を切った。

漫画家 施川ユウキのブログ

ゾディアックと働く男達

2007年06月22日 07時17分40秒 | Weblog
久しぶりの更新。
おととい観た映画のレビューです。


ゾディアック
1969年にアメリカで実際にあった未解決殺人事件を題材にしたセミドキュメンタリー。

真犯人を追う4人の男の人生を、特にドラマチックな展開も無く一定のテンションで長々と描いた上にモヤッとさせたまま終わる、良く言えば「媚びてない」硬派な、悪く言えば冗長で退屈な作品。最近劇場で観た映画は本作以外に「スパイダーマン3」「ロッキー・ザ・ファイナル」「ハンニバル・ライジング」「大日本人」等あるんだが、「ゾディアック」はこの中で最も「レビューしたくなる映画」だった。そういう意味では良作だと思う。

これは「男」の映画であり、「仕事」の映画であり、「敗者」の映画だ。新聞記者、風刺漫画家、刑事、男達は皆家族や健康など生活を犠牲にしながら、真実を求めて死に物狂いでそれぞれの仕事をする。主人公である風刺漫画家のロバートも、前半はただの傍観者であるが、後半事件の全貌を書籍化しようと動き出し、生活の全てをその仕事へと捧げる程にのめり込んでしまう。10年、20年と追い続ける内に、仕事が人生となり真実を求める事が人生のあり方となる。
何の予備知識も無くこの映画を観た自分は、実際にあった事件を基にしたサイコスリラーだと勘違いして、大量に提示される伏線らしき情報に惑わされまくったのだが、それらのほとんどは結局最後まで回収される事は無かった。そもそも未解決事件なので、それが真実へ繋がる伏線なのかただのノイズなのかは、作り手も受け手も誰も判りようが無いのだ。その状況に、「何かを見つけ出す仕事」の困難さを生々しく感じた。最初に述べたように、これは「仕事」の映画でもある。

研究や開発、探査や発掘など「何かを見つけ出す仕事」は山ほどある。それらの仕事は、大半が地味で報われない作業の繰り返しだ。何も無い所からコツコツと丹念にヒントを探し出し、丁寧に仮説を積み上げ、積み上げた物を簡単に突き崩され、再びゼロからヒントを探し始める。延々と続く苦行のようだ。求めていた物に辿り着けた者は栄光を手に入れ、辿り着けなかった者は費やした時間が無駄となり、場合によっては人生の敗者となる。この映画は失敗した側の「プロジェクトX」みたいな話で、作中の記者や刑事達も人生を狂わされた者として哀愁を持って描かれている。
敗者であるトースキー刑事は真実を求めて奔走するロバートに言う。
「犯人を捜すのは我々の仕事であって、オマエの仕事じゃない」
物語は犯人が分からないままスッキリせずに終わるが、売店のラックにロバートの本が並んでいるのを見ながら僕はトースキー刑事のセリフを思い出していた。客観的に見れば、ロバートは唯一自分の仕事を成功させた側の人間だ。その事は観客の自分に僅かながらのカタルシスをもたらしてくれた。

内容の大半を占める地味で退屈な捜査の繰り返しは、ネタを探して暗中模索する自分の仕事にも少しだけ重なって見えた。




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