ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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教育の広場、第280号、インターナショナルクラス

2007年05月22日 | 教育関係
教育の広場、第280号、インターナショナルクラス

 05月05日発行の広報「はままつ」に、浜松市立高校に「インター
ナショナルクラス」(長ったらしいので「国際学級」と適宜言い換
えます)が出来たという記事が大々的に掲載されています。まず、
それを全文引用します。

──4月6日、浜松市立高等学校で「インターナショナルクラス」
がスタートしました。

 人口およそ82万人の浜松市には、およそ3万人の外国人が生活し
ています。市内の小・中学校に就学する外国人児童・生徒数は1000
人近くにものぼり、高等学校への進学希望者も増加していることを
受け、インターナショナルクラスの設置準備を進めてきました。

 第1期生としてこのクラスに入学したのは4人で、出身はブラジ
ルと中国。このクラスは英語とポルトガル語による教育が特徴で、
ブラジルのリオデジャネイロ州立大からの専任教師による授業も行
っています。

 入学した生徒たちは「通訳になって皆さんの役に立ちたい」「生
徒や親の気持ちが分かる教師になりたい」など、それぞれ夢を持ち、
希望にあふれた学校生活を送っています。

 将来、母国と日本の架け橋となり、浜松市の発展に寄与する人材
の育成が期待されます。(引用終わり)

 これだけでは余りにも説明不足なので、まず市立高校のホームペ
ージを見てみましたが、新たに分かった事は「学ぶ意欲と能力のあ
る外国人中学生に、その持てる力を最大限発揮することができるこ
とのできる高等学校を用意し」という目的と、その「定員は外国人
生徒20人程度」を予定していることくらいでした。授業は1年の時
だけ単独のクラスを作るが、2年以降は日本人のクラスに入るよう
です。

 そこで、教育委員会のホームページで、これを押し進めた土屋前
教育長の説明を読んでみました。次の通りです。

──今、浜松市には3万0642人の外国人が在住しています。その内、
小・中学校への就学年齢にある子は2530人で、浜松市立の小・中学
校には1229人が在籍しています。

 また、浜松にある外国人学校7校におよそ 560人が在籍というこ
とで、住民登録上、就学年齢にあって、就学していない子どもは推
定 740人と考えています。しかし、その中の3割は帰国、5割は不
明で、1割が不就学という調査結果が出ています。

外国人の子どもたちといっても、日本に来たのが小学生の時とい
う子もいれば、中学生の時の子もいます。最近来たという子もいれ
ば、日本で生まれ育った子もいます。

 また、数ヵ月後には帰国する家庭の子もいれば、2~3年後に帰
国予定の子もいます。長期滞在や永住希望の家庭の子もいます。

 母国語が英語圏の子もいればポルトガル語、スペイン語、中国語、
ヴェトナム語等、言語もさまざまです。

 家庭で日本語を話す子もいれば、全く話さない家庭もあります。
 親の教育に対する考え方も随分違い、学校に入る目的もさまざま
です。
 このように、外国人の子どもといっても、一人ひとり本当に違っ
ています。

 では、教育委員会が行っていることについて、お話します。

 県からは、日本語指導のために、小学校に30人、中学校に5人、
教員を配置していただいています。それ以外に市として、教育委員
会に相談員として4人(内2人はバイリンガル)を配置して、様々
な相談に応じています。また、外国人が多く在籍している小学校に
支援員として3人を配置しています。その他の学校には、17人を外
国人サポーターとして配置し、巡回指導を行っています。

 また、日本の学校への円滑な適応を図るために、「ことばの教室」
を市内の小学校を会場に開設しています。そこでは、日本語指導と
適応指導、学力補充を行っています。

 外国人の子は、小・中学校も義務ではありませんが、権利はある
と考えています。ですから、就学の奨励をさまざまな方法で行って
います。

 例えば、住民登録をされる場合には、就学案内をしています。
 また、広報はままつやブラジル新聞に就学の案内を掲載し、呼び
かけをしています。
 学校の様子がわかる啓発用ビデオを作成し、見ていただく機会を
多く設けるようにしています。

 このように、不就学の子をなくす努力をしています。
 そして、外国人の子どもが浜松の小・中学校で安心して、夢と希
望をもって学ぶことができるように努力しています。(引用終わり)
(平成18年の初めころの文章)

 要するに、現状の複雑さをあれこれと並べ立てて、自分たちのし
ている事を又それと無関係にあれこれと並べ立てているだけです。
これは学問的とは言えないと思います。

 愛知県犬山市の教育長の瀬見井久氏はこう言っています。

──これまでの日本の教育改革で最大の問題は、改革にあたって実
態把握を踏まえた検証と、実施に移された後の政策評価が全くなさ
れなかったことです。

 事例には事欠きません。「ゆとり教育」は、3割教える内容を減
らしたことがそれだけで問題になるわけではありません。「自ら学
ぶ力」といった甘美で饒舌な言葉を軸に、教育現場で実際に何が起
きているか検証することなく、財政的裏付けも条件整備も不十分な
まま事が進められ、学力低下問題を引き起こしました。

 今度は学力低下議論をかわすため、突如、学習指導要領を「教え
る最低基準」とし、その最低保障をどう手当てするかに触れること
なく、発展的学習を奨励し、教育現場に大きな混乱をもたらしまし
た。

 国の改革には、実態を踏まえた政策評価をフィードバックする発
想が極めて乏しく、極論すれば、政策評価は問われることがないか
ら、政策をどう実現するかは考慮に入れなくて好い、という無責任
な構図が読み取れます。(略)

 〔それに対して、我が〕犬山の改革は、改革の狙いと成果を検証
しながら教育現場の地道な努力を積み重ねることで、より確かな最
善の実践を模索する試みです。地方の都市での小さな出来事ですが、
義務教育を本来のあるべき姿に引き戻す試みでもあります。
(以上、中日新聞、2004年10月10日から引用)

 皆さん、この言葉を聞いてどう思いますか。4月24日の文部科学
省の「全国一斉学力テスト」とやらに日本で唯一不参加を貫いた犬
山市の信念の根拠が分かると思いませんか。


 かつて現職の教育長が国の教育政策の非をこれほど根本的かつ明
確に指摘したことがあったでしょうか。

 同時に考えなければならないことは、この犬山市の実践はその内
容と意義に比してジャーナリズムや教育再生会議とやらで取り上げ
られないという事実を考えなければなりません。民間人校長とやら
はNHKなどで大々的に取り上げていますが、犬山市の「学び合い
授業」はまだ放映されていないと思います。

 それは犬山市の考えと実践の方が意義が小さいからでしょうか。
逆です。これが全国に知られたら大変だからです。

 つまりジャーナリズムも再生会議とやらも、現体制の根本には触
れないという大前提でピーチクパーチク言っているだけなのです。

 それはともかく、浜松市の教育長の作文とは比較するのさえ馬鹿
馬鹿しい事です。浜松市の国際学級には一体どんな「実態把握を踏
まえた検証」があったのでしょうか。7つの外国人学校の実情をど
れだけ調査研究したのでしょうか。又、「実施に移された後の政策
評価」の予定はどうなっているのでしょうか。

 かつて、この市立高校は女子校だったのに生徒全員の反対を押し
切って共学化されましたが、それの「事後の政策評価」はどこにあ
るのでしょうか。

 この国際学級もたった4人での出発です。これのためにどれだけ
の費用をかけているのでしょうか。全然発表されていません。外国
人にその母語での授業を提供するが適当な政策であるという判断の
根拠はどこにあるのでしょうか。

 そもそも日本人生徒を外国との架け橋にするための施策はどこに
あるのでしょうか。「世界都市・浜松」と言うならば、全ての高校
生に国際的視野の持てるようにする政策こそが必要なのではないで
しょうか。それに外国人も含めればいいだけの話だと思います。も
ちろん国際的視野は言葉の問題だけと結びつくものではありません。

 折角ですから、瀬見井氏の見識の高さを示すもう1つの発言を紹
介しておきましょう。

──少人数学級は、制度として学級の人数が減ったからといって効
果が出るという単純なものではありません。学級規模を小さくする
ことにより、少人数学級を授業改善に結び付ける教育現場の創意工
夫が重要な課題になります。

 授業が変わることにより学校が変わり、地域の教育が変わること
です。問題は授業をどう変えるかです。

 一般に、少人数学級であれば指導が徹底でき、子供の習得が高ま
ると考えられていますが、指導の徹底は子供が受け身の学習態度を
身につける可能性も同時に持っています。大切なことは、教科の習
得の高まりが、自ら学ぶ意欲を引き出す「授業づくり」です。少人
数学級だからできる授業改善の工夫です。(略)

 これまで国の教育改革は、制度と仕組みを変えることにはことの
ほか熱心で、教育現場をどう変えるかには全く無関心でした。しか
し、教育現場に火をつけなければ、制度をいじっても改革がうまく
いくはずがありません。
(以上、中日新聞、2002年12月06日から引用)

 私は少人数学級をこのように明確に授業の変革と結び付けて理解
した議論を知りません。私自身、このように明確に意識的に両者を
結び付けて理解していませんでした。

 浜松市の国際学級も、今から考え直しても遅くありません。犬山
市に学んで市の全教育行政を見直す中で「意欲ある外国人生徒」の
問題も考えるといいと思います。

 全体を見ないで部分だけに継ぎを当てていく、「モグラたたき」
みたいなやり方は止めるべきです。


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