『シン・日本列島改造論』(石丸伸二著 フローラル出版 2024年刊) 石丸現象 都知事選 安芸高田市
7月に実施された東京都知事選挙で、大方の事前予想を覆して立憲民主党の蓮舫氏を蹴落とし、小池百合子氏に続く次点になった著者。「石丸現象」といわれた。知事選直前に発刊されている本書から、石丸現象の要因を解き明かすことができるだろうか。
およそ50年前に田中角栄氏による『日本列島改造論』ブームがあった。この島国を、新幹線、高速道路、本四連絡橋、青函トンネルなどで結び、大規模な工業団地を全国に配置し、過密・過疎問題を解消するというスケールの大きな構想だった。それは、北海道が本州と新幹線でつながり、道内の主要都市間が高速道路で結ばれるというものだ。実際に苫小牧東部では大規模工業団地が開発された。しかし、ロッキード事件や田中金脈問題で、田中角栄自身が失脚してしまい、オイルショックなどもあって高度経済成長が終焉を迎えてしまった。
あれから50年、未だに新幹線は札幌まで延伸されない。あと10年は要するだろう。苫東も企業誘致が進まない時代が続いた。重要なことは戦後のこの国が掲げていた「国土の均衡ある発展」という理念が失われてしまったことだ。その結果が、現在の地域格差の拡大だ。東京一極集中の弊害がいわれる一方、消滅が想定される自治体が名指しで公表されている。
本書は、日本列島改造論と題しているが、そんな駄法螺話とは全く次元が違うところの議論だ。
石丸氏が知事選で訴えたのは、「東京一極集中の解消」だ。前職の広島県安芸高田市長の経験から、過疎にあえぐ地方自治体からの目線で東京を見ているところに氏の特色がある。東京だけ良ければそれでいいのか?と訴える。だが、ではどうすればいいのか、という具体論は語らない。立憲民主党の蓮舫氏は、政治とカネの問題を取り上げたが、それは国政レベルの話ということで、争点にならなかった。(蓮舫氏の敗因だろう)
石丸氏の主張は具体策に踏み込まない。政策で比較しようとする僕からみると、何をしたいのかわからなかったというのが正直な気持ちだ。なぜ石丸氏がこれほどの票を獲得したのか、理由がわからないのだ。だから「石丸現象」といわれる。
安芸高田市長時代の発言「居眠りをする。一般質問をしない。設営責任を果たさない。これこそ議会軽視の最たる例です。恥を知れ!恥を・・・という声が上がってもおかしくないと思います。どうか恥だと思ってください。」と市議会議員を批判した。根回しなど旧態依然としたやり方はとらない。緊張感のある議会にしたい。政治に興味を持ってほしい。YouTube配信などを使って議会を公開したい。政治をエンタメ化したい。本書において安芸高田市長時代の実績を述べ、東京においてもその考え方を活かしたいという。
「東京一極集中の解消」というが、結局、具体的な政策の主張はない。氏が批判するのは政治のプロセスだ。「危機感」「覚悟」という言葉を連発するが、それが何に対してなのか、古い頭の構造の僕には理解できない。しかし、これが従来の常識を覆し、有権者に届いたのだろう。保守か革新か、右か左かなど全然通用のしない新たな感性を持つ人びとが増えていて、その人たちに一番近い所にいるのが石丸氏なのではないか。石丸氏および氏を支持した人たちは、僕らに「もうそろそろ退場ですよ!」と言っているのが聞こえる。
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