功夫電影専科

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【特集:ジャッキーの失敗①】『レッド・ドラゴン』

2010-08-04 22:30:02 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「レッド・ドラゴン」
「ジャッキー・チェン/新・怒りの鉄拳」
原題:新精武門/精武拳
英題:New Fist of Fury
製作:1976年

●ハリウッドに君臨する唯一無二の功夫スター、成龍(ジャッキー・チェン)。今も『ダブルミッション』『ベスト・キッド』等で活躍を続け、役者としても様々な境地に挑戦し続けており、その勢いは止まるところを知らない。だが、ジャッキーはその地位に至るまで、様々な挫折と失敗を繰り返してきた…そこで今回の特集では、成功の影に隠れたジャッキーの"失敗"を追っていきたいと思います。

 『廣東小老虎』で主演デビューを果たし、ゴールデンハーベストの『少林門』でメジャー作品にも顔を出したジャッキーは、程なくして羅維(ロー・ウェイ)という男と出会った。
彼は香港映画最大手のショウブラザーズに在籍していた映画監督であり、のちにゴールデンハーベストの立ち上げに呼応して移籍し、そこで李小龍(ブルース・リー)の主演作を手掛けた男である。台湾で独立を果たした後もその時の栄光が忘れられなかった羅維は、しばしば自身の作品で『怒りの鉄拳』を模した作品を撮り続けていくのだが、そんな彼が目をつけたのがジャッキーだった。
 突然の大抜擢を受け、李小龍の後釜として担ぎ出されたジャッキーであったが、ここで彼は最初の失敗に遭遇する。当時、まだ自分のスタイルを確立できていなかったジャッキーは、本作で十分に個性を発揮することができなかった(劇中の演技も「状況に流されるだけのお調子者」にしか見えない)。功夫シーンについても同様で、韓英傑(ハン・インチェ)の指導した殺陣は良く出来ているものの、印象としては少々地味だ。無闇に李小龍の物真似をしないで、実際に霍元甲が得意としていた迷踪拳を持ってくる辺りはセンスの良さを感じるんだけど、これはちょっと惜しいなぁ…。

 ただ、これらの失敗はジャッキーが引き起こしたものではなく、あくまで周囲の状況がそうさせた結果であるため、ジャッキー1人を責めるべき事例ではない。むしろ疑問に思うのは、本作で脚本まで担当した羅維その人に対してである。
本作は『怒りの鉄拳』の続編というだけあって、苗可秀(ノラ・ミャオ)を登場させるなどして体裁を取り繕っているが、作品そのものの出来は喜ばしいものではない。そもそも『怒りの鉄拳』とは李小龍の最高傑作であり、日本人の横暴に怒りを燃やした主人公が中国人の力を見せつけ、最後には儚く散っていくというストレートかつダイナミックな物語が魅力の1つであった。しかし、本作にはそういった勢いが圧倒的に欠けており、ストーリーに漂う陰惨さを払拭してしまうほどのパワーを持つ主人公すら存在しないのだ。
また、本作では精武門の看板が日本人に破壊され、側で見ていたジャッキーが立ち上がるという展開になるのだが、どうもこのへんの「立ち上がる動機」という部分が弱い気がする。なにしろ、ジャッキー自身は日本人に加担する中国人に叩きのめされた事はあるが、日本人そのものに対して迫害を受けた経験は1度しか無いのだ(それどころか中盤までは自ら功夫を習おうともしない)。一番活躍しなければいけない主人公に、十分な「立ち上がる動機」を与えてやれなかった時点で、本作の失敗は確定したようなものである。
 結局、前作からのスケールダウンが著しく、興行的にも惨敗を喫してしまった本作であるが、さすがに羅維もこれには懲りたようで、以後はジャッキーに李小龍の真似をさせるような事は控えるようになった(ただし別のスターで試そうとしたケースは何度かある)。羅維のプロダクションに在籍してからはヒット作にも恵まれず、ジャッキーにとって不遇の時代が続いていくわけだが、同時にそれは自分のスタイルを確立させるための充電期間であったとも言えるのではないだろうか?(次項に続く)

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4 コメント

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Unknown (Z)
2010-08-05 23:48:41
韓英傑や陳星等が良かっただけに惜しい出来でした。
個人的には「精武門」の続編という括りなら何宗道の「精武門続集」の方が面白かったと思います。
返信!(2) (龍争こ門)
2010-08-10 00:49:57
Zさんこんばんは、お待たせしました。

>韓英傑や陳星等が良かっただけに惜しい出来でした。
 面子だけなら豪華な顔ぶれだったんですが、いかんせん生かし切れていない感がありましたね。三節棍を持ち出して李小龍と差別化を図ったりするなど、ある程度の工夫は見られたのですが…。
一方、何宗道主演作の傑作として名高い『精武門続集』ですが、こちらは今のところ未見です。田豊ら前作のキャストを揃え、羅烈や高飛といった強者を配しているそうですが、いずれは視聴したいと思っています。
Unknown (Z)
2010-08-10 20:19:51
「精武門続集」は鹿村や南宮勲まで出てて、まさに「大盤振る舞い」な作品でした。

その前に観た「新死亡遊戯」があまりにも手抜き映画だったので落差に愕然としましたね。
返信! (龍争こ門)
2010-08-14 23:58:23
Zさん今晩は。返信が遅れてしまい、大変お待たせ致しました。

>「精武門続集」は鹿村や南宮勲まで出てて、まさに「大盤振る舞い」な作品でした。
>その前に観た「新死亡遊戯」があまりにも手抜き映画だったので落差に愕然としましたね。
 『精武門続集』、なかなか期待できそうな顔ぶれですね。一方、『新死亡遊戯』は本家『死亡遊戯』の公開前に急造された作品だけあってか、何宗道の主演作の中でも屈指のダメダメ度を誇っています(笑
龍飛らジミー先生一家の面々も、割りと動ける方なので普通に撮っていれば良かったかも知れませんが…便乗作品でバッタもん作品で詐欺作品ならダメダメなのも仕方ありません(爆

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