功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

Once Upon a Time(2)物語の軌跡・前編

2017-05-20 23:48:35 | 李連杰(ジェット・リー)
 まず最初に映し出されるのは、「天地乱れ腐敗し切った、この時代に<正義>を貫く一人の男が立ち向かう その名は「黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)」実在の英雄である…」という紹介文。そこから画面は暗転し、提灯で暗がりを照らす少女が現れる。
その小さな姿は異様な集団の中に消え、怪しげな儀式と共に西洋人の排斥が声高に訴えられていく。焼き尽くされる外国製の家財道具や動物、それを見て不気味な薄ら笑いを浮かべる先程の少女…。
しかし、こうした一連の禍々しさを払拭するかのように、勇壮な楽曲とタイトルが画面に叩き付けられる―――“黄飛鴻之二 男兒當自強”と。

 というわけで、少々間が空いてしまいましたが、今回は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』のストーリーをダイジェスト的に紹介しつつ、ぼちぼち考察も絡めながら振り返っていきましょう。
本作は大ヒットを記録した『ワンチャイ/天地黎明』の続編にあたり、黄飛鴻を演じた李連杰(リー・リンチェイ)、十三姨に扮する關之琳(ロザムンド・クワン)はそのまま続投。梁寛は元彪(ユン・ピョウ)から莫少聰(マックス・モク)に交代しています。
監督の徐克(ツィ・ハーク)、武術指導の袁和平(ユエン・ウーピン)といった豪華な面々が名を連ねるオープニングが終わると、広州に移動する機関車の中で黄飛鴻一行による微笑ましいやりとりが始まります。

 医学会のために広州へ到着した彼らは、そこで暗躍する白蓮教と接触。いきなり大立ち回りを演じますが、ここで白蓮教を応援していたはずの群衆がいつの間にか黄飛鴻を支持し、戦いの後に教えを請おうとさえするのです。
初見の際は「調子がいい人たちだなぁ」と思っていましたが、彼らの置かれた状況を読み解くと、これは当然の反応だったことが解ってきます。
 まず広州が映し出された際、最初に描かれたのは到着した黄飛鴻一行ではなく、そこで暮らす住民たちでした。下関条約に反対してデモを行う人もいれば、台湾がどこにあるのか知らず、それよりも日々の暮らしの方が大事な人など、その姿はさまざまです。
この様子から、住民たちの全てが政治に関心を持っているわけではない、という事が解ります。しかし、そうした意識の違う人々の間で一貫していたのが、外国人を優遇する政府に対する不信感でした。

 だからこそ彼らは白蓮教を応援しているのですが、決して全面的に支持していた訳ではありません。劇中、黄飛鴻を泊めた宿屋の主人は白蓮教とトラブルになる事を恐れ、外国語学校の子供を保護するのに反対していました。
また、その子供たちを探す姜大衛(デビッド・チャン)演じる陸皓東に「俺たち面倒な事は御免なんだ」と告げる人もおり、人々にとって白蓮教は不満を代弁してくれる存在であるとともに、近寄りがたい集団であったことが伺えます。
一方、黄飛鴻は中国を代表する高名な武術家で、そのネームバリューは白蓮教よりもはるかに上。先の一戦で黄飛鴻と白蓮教が戦い始めた時、人々が前者の応援をしたのは無理からぬ事だったのです。

 その頃、広州では革命の気運が高まり、甄子丹(ドニー・イェン)扮する納蘭元述提督が孫文の逮捕に乗り出します(この甄子丹に関してもいろいろ考察したい点がありますが、こちらは次回に譲りたいと思います)。
黄飛鴻一行は治安の悪い広州から発とうとするも、白蓮教の襲撃によって焼け出された外国語学校の子供たちを保護。納蘭提督に助けを求めますが、紆余曲折を経てイギリス領事館に身を寄せます。
このあたりから物語は白蓮教と黄飛鴻の全面対決に発展し、アクション的な見所が一気に多くなるのですが、ここで保護された子供たちの存在が重要になってきます。

 作中、白蓮教の襲撃によって傷ついた西洋人を救うべく、再会した孫文・陸皓東・黄飛鴻は懸命の治療に当たります。それを子供たちが見つめるというシーンがあるんですが、このカットがなんとも象徴的で感慨深いものとなっていました。
1人は近代中国の礎を作った人物、もう1人はその活躍を支えた革命家、そして最後の1人は天下に轟く伝説の武術家。そんな中国を象徴する人々の献身を見守るのは、次の世代を担っていく子供たち…。
前作の『天地黎明』では、流れゆく時代の変化を「拳法で銃には勝てない」という言葉で表現していました。その一方で、本作は時代の中で継承される思いを描いており、前作とはまた違ったメッセージを打ち出しているのです。

 やがて白蓮教によって領事館が襲われ、その混乱に乗じて納蘭提督が侵入。子供たちは革命派である陸皓東と別れざるを得なくなり、ここでさよならを言いたくても言えないという、実に切ない別離が描かれています。
その後、この子供たちがどうなったかは解りません。保護を約束した納蘭提督はのちに死ぬため、彼らは混乱した時代の中に放り出されてしまったと思われます。しかし、きっと彼らは陸皓東たちの意思を継ぎ、新たな時代を背負うために生き抜いた事でしょう。

 陸皓東とともに領事館を脱出した黄飛鴻は、ついに白蓮教との決戦に挑みます。ここからのバトルは効果的なワイヤーワークと目まぐるしい殺陣の数々、そして李連杰の堂々たる存在感によって、最高のアクションシーンとなっていました。
一時は物量に押されかけるも、神を盲信する連中には効果てきめんのハッタリでこれを退け、大師である熊欣欣(チョン・シンシン)を引きずり出します。ここでは机や布の祭壇を舞台に、重力無視の壮絶な接戦が展開。こちらも素晴らしい勝負です。
特に李連杰が決める無影脚の凄まじさたるや、ワイヤー古装片の中でも随一の名場面といっても過言ではありません。決着の付け方についても、まるで御仏の手によって罰されたかのような表現となっており、どこか幻想的ですらあります。

 が、本当のクライマックスはここから。なんとか白蓮教を下した黄飛鴻たちは、市場に隠された革命派の名簿を確保しようとしますが、そこに納蘭提督が立ちはだかるのです。
陸皓東は凶弾に倒れ、最後まで革命と孫文の身を案じながら死亡。託された思いを守ろうとする黄飛鴻と、恐るべき武術を秘めた納蘭提督との死力を尽くした戦いが、いま幕を開けます。
まさに本作最大の見どころとなるラストバトルですが、残念ながら今回はここまで。次回は終幕までのストーリーと今回拾えなかった細々としたネタ、そして大幅に割愛してしまった甄子丹演じる納蘭提督についてジックリと迫ります!