午後7時半、箱根明星ケ岳の「大」の字に点火された。同時に花火も上り、箱根全山の精霊の送り火を強羅公園内白雲洞の対字斎でみることができた。対字斎の名もここに由来するという
打上げの数時間前より白雲洞茶苑の各茶室で茶会が催された。その対字斎の床に掛けられたのは、秋艸道人の「おほらかにもろてのゆびをひらかせて おほきほとけはあまたらしたり」歌が東大寺の古き銅鐸の拓本に書かれている。送り火のこの日にふさわしい掛け物が「手に入りましたので」と席主が控えめながらご披露される
そして宋白磁水瓶にせきしょうの花と金水引が手向けられている。香合は薬師寺ゆかりの朱泥色の薬器がみほとけのひらかれた手のひらにのっているような、祈りの床荘りに感動!
風炉先も薬師寺薬師三尊台座の葡萄唐草を拓本にして風炉釜を囲む。置かれた水指は朝鮮の辰砂の発色の良い名品、席主のお話しに暑さも忘れる
朱の高杯に盛られたお菓子は、東日本大震災に被災した方々への供養と大船渡より届いたかもめの玉子を紫色にアレンジして出された。ここにも席主の祈りがこめられていた。そして茶碗は宋白磁、建窯、辰砂、見込みに辰砂のある天目、吉州窯、定窯などなど「夏らしく平茶碗にしてみました」と中国の古窯の茶碗は十碗をこえる
薄器は宋白磁蓮弁文様の小壷、まことに清々しい存在感のある壷に細作りの茶杓、白雲洞建設の主、益田鈍翁夫人タキさんが削った銘「羽衣」、女性の感性が細部にまでゆきわたった軽くて華奢な羽衣茶杓を席主は送り火とともに捧げられた
次に白雲洞茶室へ、「田舎家の席」の貴重な作例とか、いろりに縁なしのたたみという意匠で八畳敷きの茶室。茶道具の見立ての枠をはずした構成が合うこの席の壁床に「華厳」、東大寺206世別当上司海雲の雄渾な二文字が掛けられ、前には東大寺印の根来盆に古銅花入(水戸家伝来の古銅花入写し)に蓮の葉と花床(花中央の黄色部分)、蓮弁は盆の上に散らされて…
徐々に陰りをみせた田舎家の席に火が入れられ…その陰影の中、席主は丁寧に一人ひとりに抹茶を点てられる。それがおもてなしと言われるのが本当にありがたくうれしい
水指に注連縄が…、「ここ箱根の200mの地下水から汲み上げられた本物の名水です」と見込みに大きな魚が泳いでいる大水指から汲まれる。さて南方の焼物とうかがったが失念
そして三席目は緑に囲まれた一角の野点の席へ、一日に一花夕方より咲くぎぼしが汕頭窯(すわとう、広東省)?の花入に、ようやく涼しくなった席に冷たい抹茶を席主の楽しい話しとともにうかがっていると薄昏となって大文字焼の刻が迫っていく
翌日はポーラ美術館、湿性花園、ラリック美術館ではランチを、湿性花園では夏の名残の花、来る秋の花を堪能した
キツネノカミソリ 節黒仙翁 河原撫子
鬼百合 桔梗
箱根菊 釣船草