こうの史代の漫画『この世界の片隅に』は、戦争、原爆を
今までにない視点で描き、「文化庁メディア芸術祭の
マンガ部門・優秀賞」を受賞した。驚きである。
広島から20kmほど南の軍港町、呉に住む主人公すずと
家族、周囲の人々の、日常の生活を克明に描き、ストー
リーはゆっくりと進行していく。そして、やがて呉には
空爆が、広島には原爆が投下されるが、悲惨な情景や
エキセントリックな描写は無く、淡々と日常を描きながら、
主人公の心が崩れて行く内面をえぐり出しているのだ。
NHK「ラジオ深夜便」で、こうの史代はこう語っていた。
毎日のように図書館に通い、当時の雑誌や新聞を漁り、
各地の「昭和記念館」に出向いて、当時の日常生活が
どのようなものだったのか。町の風景、家の中の様子、
看板、電信柱のポスター、日々の事件など、徹底的に
資料を集めた。食べものが無くなって、どんなものを
食べていたのか、それと同じものを作って食べてみて、
味や口当たりを体感した」と。その努力があらばこその
彼女の漫画は徹底したリアリズムなのだ。
我々庶民は“世界の片隅”に、たくましく生きている。
そして“世界の片隅”では、今も戦争が起きている。
それを知らされても、対岸の火事ほどにも思っていない。
いつの日か、その火の粉が降りかかってくることに 気
づこうともしない。
そして気づいた時は、もう取り返しのつかない事態に
陥っている。それが「原爆」だったのだ。そうした描き
方で、恐ろしさをより強く、深く感じるのだ。
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