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大谷嘉兵衛(その二)

2009年10月26日 | 水屋神報

                     大谷嘉兵衛「欧米漫遊日誌」より

水屋神報 第七二号 S46.5.10 

                         伊勢飯南郡飯高町赤桶 水屋神社宮司 久保良任編集

郷土の生んだ輸出の先覚者 茶の大谷嘉兵衛(その二) 

               ー伊勢の山奥からとび出た藤吉さんが貴族院議員にー

5.大谷嘉兵衛、米大統領マッキンレーに直談判し茶関税を廃止させる……嘉兵衛は明治の中頃になっても茶の輸出が依然外商の手に握られていることを遺憾とし遂に明治二十七年直輸出会社を設けて輸出に着手した。これ以降、直輸出がしだいに盛んとなっていった。

 しかし嘉兵衛一生のハイライトといえば、明治三十一年夏に新設されたアメリカの茶に対する関税撤廃運動だった。この関税は米西戦争の財源として企画されたものであったが一ポンド二十銭で、当時の輸出茶の原価に相当する重税であった。アメリカを最大の得意客とする日本の茶業界にとっては死活にかかわる問題であった。業界では日本政府を通じて撤廃を要望したが効果なく、遂に明治三十二年全国茶業者大会を開いて廃税の運動委員として嘉兵衛を選んだのであった。

 嘉兵衛はフィラデルフィアで開かれる万国商業大会に日本代表として渡米。サンフランシスコから日本へ海底電線を敷設すること、茶関税を廃止することを主張。また裏面では小村寿太郎駐米公使と連絡しアメリカの財務長官や農務長官を訪問し要請した。最初は二人の長官も厳しい態度であったが、コーヒーに無税、茶に重税とは不合理であり、日米間の貿易発展のためと説得し、遂には大統領マッキンレーにまで会見し陳情した。その努力はしだいに功を奏し明治三十五年遂に茶関税は廃止された。輸出はふたたび伸びた。

 嘉兵衛は前年の明治三十一年五十五歳で台湾及び南部中国へ視察旅行に出かけている。これは茶だけでなく中国向けの海産物輸出である。三十二年にはヨーロッパへも渡っている。彼は中国大陸には二回、ヨーロッパに一回とその足跡は海外に及んだ。d

 嘉兵衛は明治三十年以降十八年もの間横浜の商業会議所会頭の職にあったことによってもその力量と信頼が推察できるのである。

6.あらゆる栄職と栄誉を受ける……彼は生存中、第七十四国立銀行、横浜銀行の取締役、あるいは頭取を歴任し製茶貿易の振興と共に時の農林大臣から功労賞を受け、また明治二十二年、四十四才の時、防海事業に功績があったとして銀製の黄綬章を受け、明治四十年、その社会的功績を買われ多額納税議員として貴族院議員に選ばれた。この時、「海外商工事情の調査報告」を任務とする商務官の海外派遣を建議。明治四十三年以降これも実現をみた。また個人としても若くして巨富を積み、全国の茶産地その功績を顕彰された。金融の面でも、台湾旅行、興行銀行、朝鮮銀行などと関係が深く、金融面でも中央とのつながりが深かった。嘉兵衛は昭和八年(一九三三年)九十才の天寿を全うしたのである。正五位勲三等。

7.今に郷土に架かる大谷橋……本町の富永から宮本に架橋された大谷橋は翁が生前郷里の為に架けた橋である。残念ながら昭和三十四年の伊勢湾台風で流出したが元の所へ一メートル高く現在の大谷橋が郷土の利便と翁の徳を永遠に伝えている。

 最近赤桶の荒滝不動開発の恩人・浜田猶三翁(八十四歳)<横浜市南区堀ノ内町一ー九ー六在住>のたよりの中に『(前文略当横浜市にも郷土出身吾々の大先輩 故 大谷嘉兵衛翁が市民から忘れ去られて行く事は遺憾の極みであります。翁は当横浜の草分けの一人であり、戦前までは野毛の伊勢山大神宮の庭前に銅像が建立されていましたが、戦争のなかばに鋼鉄の不足で回収せられ長らく台石のみが残って居りました。所が昭和二十年頃 前市長半井清氏の奔走で高さ五メータ位の顕彰燈籠が建てられましたが、神宮所では神前結婚式を行う為め今では自動車の駐車場同然で誠に嘆かわしき次第です。以下略)』

とあります。御子孫も横浜におみえのようで大谷通りという地名もあるやに聞きます。

 大谷翁(号・南湖)は生前の処世訓に「修養は怠るなかれ」「信用は人生の花」「人は平等、金は共通」「用心は処世の要道」というのがあってその人がらを示し興味深い。

 東大教授 中村隆英氏は「大谷嘉兵衛翁のような個人プレー型の実業家は時代と共にしだいに姿を消してゆく。明治の生んだ成功者の一つの型といい、特に愛国と営利を矛盾なく両立させた明治の時代の特色的実業家の一人」といっている。何はともあれ我が郷土の生んだ誇り高き先覚者である。

(日本経済新聞 四五・一〇・五 あの時この人 東大教授 中村隆英氏の寄稿に依る処多し)

 

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