私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命は死んでいない(3)

2018-08-10 21:46:50 | 日記・エッセイ・コラム
 米国政府はクルドの軍事勢力YPG/YPJ(クルド人民防衛隊)を主力とするSDF(シリア民主軍)とその政治的翼であるMSD(シリア民主評議会)を対シリア政策の最重要のカードとして使っているのが現状ですが、私が最も知りたいのはロジャバ革命を推進しているクルド人たちが米国とのこの関係をどう考えているかということです。
 SDF/MSDは米国がクルド人民防衛隊を事実上の傭兵地上軍として使うことを決めた2015年10月に結成されましたが、ロジャバ革命全般の推進を目指すTEV-DEM(民主的社会運動)という諸派連合体組織は2011年年末という早い時期に結成されました。結成当初から今日までTEV-DEMを代表する人物はサレフ・ムスリム・モハメド(Salih Muslim Muhammad)、普通、英語表現でSalih Muslimとされています。シリア政府によって数回投獄された経験もあり、トルコ政府は、最近、訪欧中のムスリム氏を逮捕してトルコに送還させようとしたほどの“危険人物”です。この人物の過去の発言で、私の脳裏に焼き付いている発言があります。2013年8月21日、シリアの首都ダマスカスの近くの反政府軍の支配地区に対してロケットによる化学兵器(サリン毒ガス)攻撃が行なわれ、多数の一般市民が殺されました。死者数は初め約1300人だとマスメディアは報じました。これについては、事件当初、このブログで二回取り上げました:

『もう二度と幼い命は尊いと言うな』(2013年8月30日)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/c5df1fe276fd37c2c6ac057af2b17ad8
『8月21日にサリンを使ったのは』(2013年9月23日)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/29ab3b8c1be60e92767852c02f545eae

9月23日付の記事の冒頭で、私は
「8月21日、シリアの首都ダマスカスの郊外で、サリンを使って千人以上の一般市民を殺したのは、政府側か、反政府側か。日本を含めて世界の主要メディアは政府側を示唆する口ぶりですが、私は反政府側だと確信しています。その判断は9月20日付けのロバート・フィスクの報道記事(ガーティアン紙)で、私としては、決定的なものになりました。」
と書きました。このフィスクの記事中に反政府側が使ったという決定的証拠が示されていたのではなかったのに、「やったのは反政府側だ」と私が判断を下した理由については、上掲の記事を読んでください。ところで、上に「この人物(ムスリム氏)の過去の発言で、私の脳裏に焼き付いている発言があります」と書いたのは、時と所のメモを失ってしまいましたが、「サリンを使ったのはアサドだ」という宣伝を米国側(反政府側)が猛烈に展開している最中に、このサレフ・ムスリム氏は「サリンを使ったのは反政府側だ」と発言したのです。ごく短い発言でしたが、私の記憶に突き刺さって、今に至っています。反政府勢力側の人間であるのに、この発言を敢えてする人物は只者ではないと思ったのです。その彼が、イルハーム・アフマドのシリア民主評議会とアサド政府とのダマスカスでの会合の4日後に、ANFNEWSのインタビューで、会合について大いに語っています:

https://anfenglish.com/features/muslim-we-want-to-expand-the-democratic-system-to-all-of-syria-28611

サレフ・ムスリムはシリア紛争には平和的、民主的解決が重要であることを強調して「我々はすでに将来のモデルとなるべき生活共同体とそれを守る正当な防衛兵力を持っている。これが、政府側が我々に耳を傾けざるを得ない理由だ。どれだけシリアとその政権が変化するかは、我々の側のプロセスに依存する。‘我々は24時間のうちに、あるいは一年のうちにこれこれをします’とは言わない。そんな状況ではないのだ。もし話会いが始まるとすれば、諸々の委員会がロードマップを作ることから始まるだろう」と語っています。以下に、ANFの質問とサレフ・ムスリムの回答から重要なポイントを取り出します:
 ロジャバのクルド人勢力はシリア紛争で形式的には確かに反政府側に属し、その性格は、米国軍との連携が強くなった2015年後半から、より鮮明になりました(例えばその勢力圏内に多数の米軍軍事基地が建設された)が、SDF(シリア民主軍)とシリア国軍との直接戦闘は殆ど生じていません。サレフ・ムスリムは、この点について、「我々はアサド政権を打倒してシリアを分割するために戦っているのではなく、シリアの国土を保全しながら、その中で革命を推進して、シリア全体を変えてしまいたいのだ」と答えています:「The forces that call themselves opposition have no intention of change and only fight for power. Our fight is not like that. We represent a real revolution on both a mental and a social level. We are a part of Syria. We have never gone beyond Syria's unity, we have always thought of Syria as a whole. But we have our model. We have seen that this model works and it is the best choice and want to spread it.」
ここでサレフ・ムスリムのいうモデルとは、ロジャバ地域(アフリン、コバニ、ジジーラの三つのカントン)で、過去6年間に成長実現したコミュナリズム的社会を意味します。この地域はもともと4百万人前後のクルド人が集中的に住む地域ですが、現在は、米国の支援を得て、ISテロ勢力の排除という名目のもとに、SDF/MSDの支配地域は、クルド人が少数派であるシリアのユーフラテス河東部に拡大されて、その総面積はシリア全土の約23%を占めています。ロジャバ革命勢力はクルド人が多数派でない新しい支配地域でも、革命の理念に基づいたモデル社会の設立拡大の努力を、シリアの将来を見据えながら、懸命に続けていることがサレフ・ムスリムの言葉から読み取れます。
 「アサド政府との接触について米国の了解を得ているか?」というANFの質問に対してサレフ・ムスリムは「我々の政治的意志は何者にも属しない」と答えます:「The Americans are here. But we have never tied our political will to anyone. Our political will lies in our hands. We have not lent anyone our political will, the will of the peoples and the structures we represent. When we have talks, we do that out of our own will. Be it the Russians, be it the Americans, if the international forces really want, then they will know what we have done and what we are trying to achieve.」
 私が信頼するベテラン・ジャーナリスト、ロバート・フィスクは、シリア北西部のトルコ国境に近いイドリブがシリア紛争の終焉を画する戦場になると論じています:

https://zcomm.org/znetarticle/are-we-about-to-see-the-final-battle-of-syria/

過去3年間、ロシア空軍の強力な援護で力付いたシリア政府軍は、主に首都ダマスカスの東部と南部で、米国、イスラエル、NATO諸国、トルコに支持された反政府勢力を次々に制圧し、降伏して武装解除に応じるか、さもなければ、シリア北部の反政府勢力の拠点として残っているイドリブへ移動せよ、という選択肢を与えたので、その結果、イドリブは、フィスクの言葉では、‘the dumping ground for all of Syria’s retreating Islamist militias’ になったのです。アサド政府とクルドのロジャバ革命勢力にとって、イドリブとそのすぐ西のアフリンを占領している反政府勢力はあくまで排除殲滅すべきテロリスト勢力であり、特にロジャバ革命勢力にとっては、不倶戴天の敵ですから、アサド軍とクルド軍の軍事的共闘の可能性の問題があります。実際、この秋に予想されるアサド政府軍のイドリブ総攻撃にSDF側から共闘の申し出が行われているという報道が流れていますし、サレフ・ムスリムもそれを否定していません:

https://southfront.org/kurdish-forces-will-support-syrian-military-attack-in-idlib-if-it-helps-them-retake-afrin/

http://syrianobserver.com/EN/News/34557/SDF_Official_Reveals_Content_Meeting_With_Regime

ロジャバ革命の成功を願う私としては、国外から支持されているテロリスト勢力に対するプラグマティックな軍事協力から始めて、水道、電力、通信、など市民生活のためのインフラ整備などの分野で、双方の協調関係が広められて、やがて、シリア全土について政治的な妥協点が見出されることに大きな望みをかけています。
 しかし、このプロセスがやすやすと進行するとは思われません。7月26日のダマスカス会合について、クルド人側からは数多の公式報道や論説が発表されていますが、アサド政権側は、今までのところ、ほとんど沈黙の状態です。アサド政府は、単独でイドリブの最終決戦に勝利を収めることに自信を持っていて、ここで不必要な借りを作るのは得策でないと踏んでいるのでしょう。
 一方、ロシア政府もアサド政府とロジャバ革命勢力との協力関係の進展を重視して、各種のクルド人政治団体との接触を開始しているようです:

https://southfront.org/russia-intensifies-contacts-with-kurdish-groups-amid-rapprochement-between-damascus-and-ypg/

 アサド政府とロジャバ革命勢力の関係の今後について、著名なシリア人ジャーナリスト、Ibrahim Hamidi、による否定的なシニカルな見解も発表されています:

http://syrianobserver.com/EN/Commentary/34587/Damascus_the_Kurds_Mutual_Delusions

イブラヒム・ハミディはアサド政府によって投獄された経験を持っています。この練達の士に言わせれば、ロジャバ革命に託す私の夢のような話は、儚いデリュージョン(妄想、思い違い、勘違い)に過ぎないかもしれません。しかし、今、ユーフラテス河の東に広がる、シリア国土の4分の一を占める、地域の少なくとも百万人のオーダーの住民がオジャラン/ブクチンの革命思想を奉じて日々の生活に励んでいるという事実に、私は興奮を禁じ得ません。パリ・コミューンのバリケードに立てこもった人々、ジョージ・オーウェルが讃歌を捧げたアラゴン高原につどった人々の数はせいぜい数万人、それを思えば、今シリア北西部で起こっている事態は、誠に画期的な、真に革命的な事態なのです。シリアという舞台で繰り広げられている諸国間の権謀術数のドラマにはもう飽き飽きです。

藤永茂(2018年8月10日)
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