私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ダニエル・エルズバーグの笑顔(1)

2021-05-02 14:15:13 | 日記・エッセイ・コラム

 ベトナム戦争時代を経験した世代の人々にはダニエル・エルズバーグの名は記憶の中に鮮烈に生きている筈です。NHKの「BS世界のドキュメンタリー」のプログラムでも、米国で2009年に作成された「The Most Dangerous Man in America」というドキュメンタリーを、2010年春に前編後編二つに分けて放映されました。「アメリカで最も危険な男」というタイトルは、ニクソン政権の国務長官であったヘンリー・キッシンジャーがエルズバーグをこう呼んだことから来ています。

https://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=100301

https://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=10030

このドキュメンタリーに付いているNHKの解説記事を以下に転載させてもらいます:

「アメリカの軍事シンクタンクの研究員だったダニエル・エルズバーグは、1964年、国防総省の軍事アナリストに抜擢される。当時ジョンソン大統領は、密かにベトナム戦争拡大の準備を進めていた。エルズバーグは北爆には反対だったが、マクナマラ国防長官の命に従い、ベトナム兵士のアメリカ人に対する残虐行為を見つけ出して報告し、結果として空爆の開始に加担してしまう。戦場の視察に行ったエルズバーグは、敵の攻撃が危険なためアメリカ軍が夜間パトロールにも出られない様子を目の当たりにし、本国で伝えられる楽観的な戦況の報告は全くのウソだと知る。マクナマラ長官も戦争の泥沼化を予測し、戦争推進派のジョンソン大統領に北爆の停止を進言するが退けられる。
なぜアメリカがこれほど愚かな戦争に乗り出したのか、記録に留める必要に駆られたマクナマラ長官は、1967年、ベトナム介入までの全ての経緯を記した報告書を秘密裏に作成するよう命じる。この頃、ニクソン大統領の補佐官だったキッシンジャーに対し、「この戦争に勝つ道はない」と告げていたエルズバーグも編纂に加わることになった。いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれるこの最高機密文書の冒頭部分を、1969年に初めて目にしたエルズバーグは、ジョンソン以前のケネディや、アイゼンハワー、トルーマンといった歴代の大統領も皆、アメリカ国民を欺いてきたという事実に愕然とする。そして戦争が、ベトナムのためではなく、アメリカの私欲にまみれた犯罪にも等しいものだと知り、自分が今就いている仕事に失望と懐疑の念を抱くようになっていく。やがて反戦活動家たちの勇気ある行動に胸を打たれたエルズバーグは、国家の最高機密であるペンタゴン・ペーパーズを公表し、戦争の正当性を問うことを決意する。7千ページに及ぶ国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」のコピーを終えたエルズバーグは、まず、当時戦争に異を唱えていた議員たちの元に持ち込んだ。しかし、国家の裏切り者呼ばわりされたり、愛国心がないとそしられたりするのを恐れ、内容を公表して政府の横暴を正そうという勇気ある政治家はいなかった。そこで1971年3月、エルズバーグはニューヨーク・タイムズに文書をリークする。この頃、彼はノーム・チョムスキーらとともに反戦活動に取り組んでいた。NYタイムズでは、機密文書の内容掲載がスパイ法に抵触しないかどうか、慎重な審議が行われていた。そして3ヶ月後、ようやく記事は発表される。直ちに政府から記事の差し止め請求が出され、エルズバーグはFBIとメディアの両方から追われるようになる。
 しかし、NYタイムズ、ワシントン・ポストに続き新聞各紙が記事を掲載、テレビや上院議員も加勢する。エルズバーグはスパイ法違反で起訴されるが、保証金を支払い保釈。最高裁判所も、NYタイムズとワシントン・ポストに記事掲載を認め、国家の安全保障のためと叫ぶだけでは報道の事前検閲を正当化できないという、「表現の自由」に関する歴史的な判決を下した。」

 このエルズバーグの勇気ある行動がベトナム戦争終結に大きな役割を果たした事は確かな歴史的事実です。平和運動家として名声を確立したエルズバーグは、その後、核兵器廃絶のために真摯な運動を続けています。功成り名遂げたこの有名人士は1931年4月7日の生まれ、目出度く90歳を迎えました。

 彼については多数の記録映画や書籍が発表されていますが、ここではデモクラシー・ナウのサイトで観ることができる関係動画を3つ挙げておきます:

https://www.democracynow.org/2007/7/2/how_the_pentagon_papers_came_to

https://www.democracynow.org/2009/9/16/the_most_dangerous_man_in_america

https://www.democracynow.org/2019/11/25/daniel_ellsberg_on_pardoning_war_criminals

 さて、ダニエル・エルズバーグの紹介が長くなってしまいましたが、今回のこのブログ記事『ダニエル・エルズバーグの笑顔』の主題は、実は、別のところにあります。私はこの人の美しい笑顔について語りたいのです。その笑顔は次の動画で見ることが出来ます。エルズバーグの90歳の誕生日を祝ってのインタビューです:

https://zcomm.org/znetarticle/daniel-ellsberg-at-90-its-still-possible-to-save-humanity/

この動画の英語は聞きやすく、しかも完全なトランスクリプト(内容の英文)が付いていますから,ぜひご覧ください。ただし、YouTube に移ると、内容文が読めなくなることがあるので、参照しながら動画をみたい方は、画面の真ん中の大きな矢印をクリックして下さい。対話者のPaul Jayさんは私の信頼するジャーナリストの一人です。導入部の半分ほどを訳出します:

「Ninety years ago, Daniel Ellsberg was born and he has lived a life of meaning, many of us strive to change the world, but few have the opportunity and the courage to change the course of history. Dan’s release of the Pentagon Papers at great personal risk helped end the Vietnam War. His book, The Doomsday Machine Confessions of a Nuclear War Planner, reveals the institutional madness of American nuclear war strategy. Dan continues to fight for truth and to awaken people to the existential danger of nuclear weapons. (90年前、ダニエル・エルズバーグは生まれ、これまで意義ある人生を送ってきました、我々の多くは世界を変えようと努力しますが、歴史のコースを変える機会と勇気を持ち合わせる者はほんの僅かです。ダンさんが大きな身の危険を顧みずペンダゴン文書を公開発表した事はベトナム戦争の終結を助けました。彼の著書『世界人類破滅の機械-核戦争企画者の告白』は、アメリカの核戦争戦略の制度的狂気を明らかにしています。ダンさんは真実を求めて戦い、核兵器の実存的危険性に人々を目覚めさせることを続けています。)」

 このインタビューの長さは31分、その主題は核戦争の阻止です。これは人類にとって、今、最も喫緊の課題です。この主題についての語りの中で、23分あたりから「この地上での天国」の話が出てきます:

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Paul Jay

Denial of the threat of nuclear war is very comforting. Facing up to it. It’s very disturbing. You are the least in denial of anyone I know. Yet you maintain a sense of joy. You always have a twinkle in your eye. You laugh and you smile easily. Most people when I start talking about this, they say ah this is too depressing. How do you keep your sense of joy throughout all of this?

Daniel Elllsberg

Well, here my wife of 50 years here now being married and being with her, lying with her at night is heaven on earth. So, I know what heaven is, and the other side of that is that. Hell, it’s possible on this earth, as a matter of fact, all the people doing these things, I think hardly any of them do not convince themselves that they are making things less bad than they otherwise would be if other people were running it, that they have good intentions, but they are the kind of intentions that pave the road to hell.

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ダニエル・エルズバーグの

「Well, here my wife of 50 years here now being married and being with her, lying with her at night is heaven on earth.」

という言葉を聞いて、私の想いは少し別の方向に飛びました。どんな人間でもこの地上で天国を知ることができるという事実から、今の世界でない別の世界を実現する可能性があるという想いを強めたのです。話が長くなりすぎたので、私のこの想いの説明は次回に行います。

 

藤永茂(2021年5月2日)

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