私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ベネズエラについての報道

2019-06-04 22:44:23 | 日記・エッセイ・コラム
 朝日新聞6月3日朝刊にベネズエラのことが大々的に報道されました。第1面には「200万都市 電気も水もない」、第2面には「政権が食い物にした石油大国」、第4面には「大停電「施設の管理不足」」という見出しで、現在、ベネズエラが直面している危機情況が前大統領チャベスとその後継者である現大統領マドゥロの失政の結果であると強調されています。
 第1面には「世界最大の原油埋蔵量があるベネズエラは、かつて南米屈指の豊かさを誇っていた。だが、石油価格の下落と国家運営の失敗で経済が破綻し、庶民が食料、医療品、燃料を入手できない人道危機に陥っている。」第2面には「外貨獲得の柱である石油産業の現場を歩くと、優秀な技術者は去り、設備投資もされず、事故や故障が頻発していた。国営石油会社はチャベス、マドゥロ両政権に食い物にされ、立て直す道のりは険しい。」とあります。こうした断定的視角から、食糧難に追い詰められる貧民層の人々の悲惨な生活状況を写真付きで詳述し、特に、第1面には、停電中の部屋のベッドに、ミイラのように痩せこけた93歳の老人が横たわる eye-catching な写真が掲載されています。しかし、米国がマドゥロ政権を打倒する目的でベネズエラに課している大掛かりで極端に厳しい経済制裁、貿易封鎖措置については、第1面、第2面の記事を通して、一言の言及もありません。
 第4面は朝日新聞の中南米特派員によるベネズエラの元電力相エクトル・ナバロ氏のインタビューに基づく記事で、これで鬼の首が取れたと思ったのでしょう。ナバロ氏は、経済の危機的な状況について「米国による経済制裁のはるか以前から生じている」と指摘したとあり、記事の最後は次のように結ばれています:
「ナバロ氏は「チャベス氏は物事を実行するために権力を行使したが、マドゥロ氏は権力(維持)のために権力を行使している」と述べ、「私は社会主義者で、革命は必要だと信じている。だが、マドゥロ氏が革命を、そしてチャベス氏を政治的に殺してしまった」と批判した。」 
 ベネズエラについての上の記事を読んで、私(藤永)は、当然、前回の桜井元さんの寄稿を思いました。その最終節を再録します:
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いまの日本では、ご高齢の方々を狙った詐欺がはびこるひどい状況となり、マスコミ各社は「詐欺集団のこうしたウソにだまされないで!」と啓発活動を盛んに展開しています。その同じマスコミが、米国の懲りない戦争をめぐるウソについては、ウソの発信者の情報をそのままに大々的に垂れ流し、日々の報道と解説を通して視聴者に刷り込み続けています。大いなる矛盾を感じます。戦争の口実となるウソ、戦争を煽るウソ、終戦を遠のかせるウソにより、どれだけ多くの人的・物的被害が出てきたことか、どれだけ多くの人たちが悲しみ苦しんできたことか、そして、国際の平和と経済の安定とに対してどれほどの危機を招いていることか、その自覚はあるのでしょうか。シリアの国民と政府に対して、日本の視聴者に対して、すみやかにそして真摯に、事実に反した過去の報道と解説を訂正し、謝罪し、正しい報道と解説に切り替えることはもちろんのこと、こうした同じ過ちを二度と繰り返さないよう、徹底した各社ごとの検証とマスコミ界全体での検証が必要でしょう。くわえて、マスコミからお呼びがかかり毎回ウソの解説をしてきたコメンテーターや有識者たちも、同様に真摯な身の処し方が必要でしょう。戦争をめぐるウソは、誠実な人間であれば重い自責の念から職を辞すくらいの罪深いウソです。
********************
 今回のベネズエラの記事を本社に送信した中南米特派員は記事に書いたことをご自分でも本当にその真実性を確信しているのかもしれません。本社でこの記事の大々的な掲載を決定した編集員たちも、同じ意見であるのかもしれません。しかし、今のベネズエラの惨状がチャベスとマドゥロの失政の結果であると断定して、米国による経済制裁と貿易封鎖については全く沈黙を守り、ベネズエラ国内で生起している大停電については第4面の記事の見出し通り、「大停電は施設の管理不足による」と断定を下すのは、あまりに軽率であり、ジャーナリスティックにも基本的な誤りを犯していると、私には思われます。エクトル・ナバロ氏の「私は社会主義者で、革命は必要だと信じている」という言葉が最後に付け加えてあるにしても、この記事全体が「報道」として一般読者に与える影響は、米国のプロパガンダ・システムが世界中の人心に与えたいと試みているウソのベネズエラ像のそれにぴったりです。まさか日本の大新聞がボルトンやポンペオのような war-mongers の願いを忖度するようなことはありますまいが。けれども、もし、今回の報道の内容が多くの虚偽を含むことがはっきりした場合には、櫻井元さんの要請に従って、公に前非を認めて謝罪し、行いを改めてもらわなければなりません。

藤永茂(2019年6月4日)
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8つの緊急政策とMM理論(MMT)そしてベネズエラに関する報道について (箒川 兵庫助)
2019-06-10 20:02:18
財務省のデフレ政策30年間。民間の需要が減り貧困層が増えました。消費増税と新自由主義の実施導入がそれに輪をかけました。貧富の差の増大に連れて,収入が減り新聞購読者数が減ったのでしょう。銀行利子も0.165%なのに消費税は8%です。東北復興税も2年間は庶民同様法人は払っていましたが,それが免除されました。
 新聞購読者数が減ったのは高齢化だけではないでしょう。若者が職を求めて都会に出て親のすねをしゃぶり,しかしそれでも貧困から抜け出られず,20代の貯蓄率0円は60%を超えているからでもありましょう。寿司トモで朝日新聞や放送関係者の幹部級がいくら安倍総理と会食しても購読者数は増えません。ワーキング・プアの若者が手軽に買える値段でないからばかりでなく,フェイクニューズだらけだからです。
 ところで丸山真男の弟子,早野透氏は朝日新聞政治部の元記者。『永田町フーウン録』(YouTubeで視聴可能)を主宰していますが今回のベネズエラの朝日記事を書いたのは政治部記者ではなくて,経済部記者(粗筋は赤坂CIAが用意)で,山田厚史朝日新聞編集委員(経済担当)の後継だと推測しています。
 前者の早野氏は社内に「早野学校」を開いたようです。後継を育てたのでしょう。後者の山田氏が「山田学校」を開いたという話は耳にしません。
 さてベネズエラの報道に話を戻しますと,今年2月1日,セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使は記者クラブで講演をして本国の経済状況を説明し質問を受けました。その中に山田氏があり,イシカワ大使に質問しております。小生が聞いた限りではべネスエラの歴史・経済状況を良く理解した上での質問であると思いました。
 また2月27日の映像(YouTube)で,ラテン・アメリカ専門の共同通信特派員伊高浩昭氏がベネズエラの状況を詳しく説明されていました。大いに勉強になりました。イシカワ大使も伊高氏もべネスエラ政府の経済政策が一部誤りだったことを認めています。しかしチャペス元大統領が米政府とCIAにより逮捕され,ある島に幽閉されたところを2,3日もせずにベネズエラ軍とその人民(強力な軍民協力)が救い出したというのです。アメリカ合州国政府の経済制裁と脅しはその頃から激しくなったようです。
 さて早野学校の後継がこの記事を書いたのか,山田氏の後輩が書いたのか。やむに已まれず書かされたのか。小生にはわかりません。しかしこの時期にこの記事が出たことの背景を考えてみたいと思います。
➊背景その1・・・参院選が7月にあります。山本太郎氏の新組織「れいわ新選組」が寄付金をすでに約1.7億円集めました。全国的に彼の唱える「8つの緊急政策」が貧しい人々の心を捉えて離しません。後で述べるMM理論は小生のような庶民にも容易ではないですが分かるように説明しているのが「れいわ新選組」の山本氏の街宣演説です。消費税0%や奨学金徳政令や一律1500円最低賃金など8つの政策を唱えているのです。海外では「れいわ」は紹介されているのでしょうか。
 ところが朝日は「れいわ」を取り上げたのです。「れいわ」を取り上げた唯一の新聞なのです。れいわの「8つの緊急政策」は,日本財務省緊縮財政に反旗を翻しオカシオ・コルテスやB.サンダースが経済政策の基盤とするMMT(現代貨幣理論)を援用した政策です。それを朝日が取り上げたのでびっくりした論者も多いのです。山本れいわを応援か!!?デフレ下でビッグな新規国債大量発行で財政出動し,景気を良くするMM理論支持か?!
 そして藤永先生がご心配の,ベネズエラに関する今回の朝日の記事です。MM理論への反論とも読めるのです。一般理論を否定するには反例を一つ上げれば十分である。
 山田氏をはじめ主流経済学・財務省はMM理論を否定して緊縮財政に固執しています。しかし旗色はMM理論に有利なのです。自民党議員も15,6名がこの理論に賛成のようです。野党では山本議員だけです。経済学の分野では内閣参与の藤井京大大学院教授は内閣参与を辞しMM理論に基づいて公共事業の必要性を説いています。しかし少数派です。
 以上のことをまとめれば,MM理論に根拠を置く「れいわ」の「8つの緊急政策」対,MM理論が言うように国債を無限に発行し続ければ財政放漫になりベネスエラのように超インフレになるよという警告記事
という構図です。
➋背景その2。参院選対策としてアベノミクスの失敗を隠すため,朝日紙面を大幅に割き,山本太郎氏の唱える消費税0%政策の効果を減じるためです。安倍内閣府が,太郎氏の集めた1.7億円に恐れをなしだしたのです。
 現に今,株価が上がりだしました。これからますます上げるでしょう。緊縮財政下でも株価は上がり景気は良くなるよ,という自民・創価学会政権の作戦です。しかしさらに,現政権は消費税減税5%を公約に掲げて衆参同日選挙に打って出る可能性が高くなってきたのです。その結果,消費税0%は一気には無理だろうかという事で自民・創価学会に票を入れるかという人々も,浮動票も出てくるわけです。
 しかしながら野党統一候補は,消費税増税反対を唱えるだけで消費税減税を言いません。8%現状容認。したがって与党が突然解散し,消費税5%を公約に掲げれば,与党圧勝なのです。  
 もちろん,突然といっても通常国会が終わる6月26日です。GDP第二次改定値が突然「マイナス」になるのです。速報値でGDP値は予想に反して「プラス2.1」だったのです。統計のマジック?輸入が少なかったのでプラスになったと政府は説明していましたが,第二次改定値でやっぱりマイナスでした。しかも大幅なマイナスの数値でしたと釈明し,MM理論に基づいて財政出動し消費税5%つまり3%減税財源として新規国債発行を認めるのです。

➌背景その3。➊と➋は穿った見方で,単純に朝日内部の派閥争いの記事。反山田派が,太郎氏のれいわ新選組の「8つの緊急政策」を持ち上げ新規国債発行で経済が蘇るだろうという記事を書いたので,山田派が,政府がこれからも新規国債を発行すると日本もベネズエラのように超インフレになり財政破綻しますよという記事を書いたまで。
 小生は上の➊~➌のどれでもいいのですが,べネスエラに関する朝日記者の低水準の理解を不思議に思っています。つまり赤坂CIAの指示でべネスエラ経済破綻を強調して日本国民を煽っている,とも考えられます(➍)。米軍によるべネスエラ侵攻は遠くなった気がします。
 但し,MM理論によれば,10年以上も10%以上のインフレが続いているという見本国=超インフレになるべネスエラというのですから,立派なMM理論紹介記事であるとも考えられるのです。
 中南米は行きたしと思へど遠し。ただただ小生は正しい理解に基づいて記事を書いてほしいと願って已みません。

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