私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

オサマ・ビン・ラディンの死

2011-05-11 13:58:34 | 日記・エッセイ・コラム
 オサマ・ビン・ラディンが「ジェロニモ作戦」と名付けられたCIA主導の殺害作戦によって殺されたというニューズで、アメリカ全土に歓声が沸き上がりました。ホワイトハウスの前とニューヨークのタイムズスクェアで無数の若者たちが“USA! USA! USA!” と叫んで熱狂する様子に目を凝らしながら、アメリカという国の恐ろしさに肝が凍てつく思いがしました。さらに、オバマ大統領の声明(長さ約9分)を聞き、その全原文を読んだのですが、アメリカこそが地上最大のTERRORであることを確認せざるを得ませんでした。アメリカ好きの日本人には二つの種類があると思います。第一のグループは、自分の利害とアメリカの利害とが一致していて、それを意識している人たち、第二のグループは、個人的利害とは関係なく、ただ何とはなしにアメリカに親しみを持つ、あるいはアメリカが格好よく見える人たちです。個人的に親しい良きアメリカ人がいる場合も多いでしょう。第一のグループの人たちは、いわば確信犯ですから、どうしようもありません。しかし、第二のグループの人たちには、個人的なレベルではなく、今や絶対的な強大さを誇るアメリカという国家、人間集団としてのアメリカ人をしっかりと見据えて頂きたいと思います。私たちはアメリカの歴史を余りにも知らなさ過ぎます。
 まずオバマ大統領の声明の最後のところを読んでみましょう。

#America can do whatever we set our mind to. That is the story of our history, whether it’s the pursuit of prosperity for our people, or the struggle for equality for all our citizens; our commitment to stand up for our values abroad, and our sacrifices to make the world a safer place. Let us remember that we can do these things not just because of wealth or power, but because of who we are: one nation, under God, indivisible, with liberty and justice for all.#
<翻訳>アメリカはやろうと心に決めたことはそれが何であろうと必ず成し遂げる。これこそが我が歴史のストーリー、それが我が国民のための繁栄の追求であれ、我が全市民の平等のための闘争であれ,ストーリーは同じだ。国外でも、我々が掲げる価値のために献身的に立ち上がり、世界をより安全な場所とするために犠牲を払う。よく覚えておくようにしよう、これらのことを実行することが出来るのは、ただ我々の富と力の故ではなく、我々が、神のもと、すべての人間の自由と公平を求める不可分一体の国家を成しているからなのだ。(終り)

 これは、2012年を意識した、実に,実に見事な選挙演説です。嘘だと思ったら、ぜひ講演の全文を読んで下さい。例のオバマ節に充ち満ちています。ブッシュ政権の戦争一本槍の政策に反対していた筈のオバマ大統領候補は、今回のビン・ラディン殺害声明の中ほどで、大統領就任直後に、CIA長官にビン・ラディンを殺害または逮捕するよう指令したと自慢しています。実は、2007年7月、すでに大統領の座に照準を合わせた彼がビン・ラディンについて次のような発言をしているのです。:

# The first thing I’d support is his capture, which is something this administration has proved incapable of achieving. I would then, as president, order a trial that observed international standards of due process. At that point, do I think that somebody who killed 3,000 Americans qualifies as someone who has perpetrated heinous crime, and would qualify for the death penalty.#
<翻訳>まず第一に事を進めたいのは彼の逮捕であり、これがブッシュ政権には出来ないことがはっきりしてしまった。次にやることは、私が大統領なら、然るべき手順の国際的基準に従った裁判を命令することだ。それに就いて、私は、三千人のアメリカ人を殺した者は極悪非道の罪を犯した人間として死刑に値するものと確かに考える。(終り)

 今回の殺害事件の詳細な真相は永久に闇の中に没したままでしょう。しかし、オサマ・ビン・ラディンとその妻が銃器を携えていなかったことは確かと思われます。逮捕は可能であった筈ですが、今さら稀代のコンマン大統領の前言をとやかく言っても何の意味もありますまい。しかし、声明の始めからすぐの所にある、いかにもオバマらしい「お涙頂戴」の科白だけは、どうしても許すことは出来ません。:

#And yet we know that the worst images are those that were unseen to the world. The empty seat at the dinner table. Children who were forced to grow up without their mother or their father. Parents who would never know the feeling of their child’s embrace. Nearly 3,000 citizens taken from us, leaving a gaping hole in our hearts.#
<翻訳>だがしかし、9/11にまつわる最悪のイメージは、世界の誰の目にも見えなかったものだ。夕餉の食卓の空いた席。母も父もなく育つことを強いられた子供たち。子供たちから抱きしめられる情感を決して知ることのない親たち。我々から奪い去られた三千人に近い市民たち、それは我々の胸にぽっかりと大きな穴を残している。(終り)

 アメリカ歴代の大統領の誰一人として、このような科白を口にするのを許される者はいません。9/11以後に限るとしても、何万,何十万の家族が、アメリカの不法軍事侵略行為によって、無残に殺戮破壊されています。田舎の婚礼式場が遠隔操縦による無人の暗殺ロボット機の空からのミサイル攻撃の標的になり、老若男女数十人が犠牲になったこともありました。その中にタリバンが居たか居なかったか、そんな事は最早問題ではありません。無人の暗殺ロボット機の使用は“アメリカン・ボーイズ”の命を失わないためにオバマ大統領が特に力を入れている政策です。
 はじめに引用したオバマ大統領の言葉に戻ります。「アメリカがやると決めたことは必ずやる」とあります。この豪語を真に受けることにすると、アメリカの歴史に照らせば、独立宣言や憲法で唱い上げた“liberty and justice for all”の約束は、もともと、やる気のなかった嘘の約束であったと結論せざるをえません。米国史上最高の名演説として知られるマーチン・ルーサー・キング牧師の『私には夢がある』の本当のメッセージを大多数のアメリカ人も日本人も弁えていません。あの講演の本旨は“I have a dream”の名文句が登場する後半部にあるのではなく、自由と平等についてアメリカが200年間も約束に違反していることを抗議した前半にあるのです。キング牧師のあの講演から、また50年が経ちました。アメリカは未だにその約束を果たしていません。この歴史的事実は、もともと、やる気がなかったことをはっきりと示しています。医療保険制度の欠陥の故に、一日二百数十人の貧乏な人たちが亡くなっている国(米国看護士協会の正式の数字です)で、何が“liberty and justice for all”でしょう。
 オサマ・ビン・ラディンの殺害はオペレーション・ジェロニモの下、アパッチ・ヘリコプターによる襲撃で達成されました。全米が歓喜に沸き立つ中、アメリカ先住民たちはこれに激しい抗議の声を挙げました。何故だかお分かりですか?

藤永 茂 (2011年5月11日)


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いつも真実を見る見方を教えて頂き、本当に感謝し... (柳原三男)
2011-05-11 18:48:26
いつも真実を見る見方を教えて頂き、本当に感謝しています。今回の件で思い出したことがあります。私が20代のころ(1972~3年)、新聞記事で「インディアン・ゾーン」という言葉を見つけました。動くもの(人)は何でも撃ってよいとベトナムのアメリカ軍が決めている地域のことです。まさにアメリカ軍は歴史上ずっと世界中で「インディアン戦争」を戦っているのだと思いました。ジェロニモ、アパッチ、トマホークなどの言葉を自らの侵略戦争に使ういつもながらの厚顔無恥にも本当にあきれます。アメリカの正体に日本人はいつになったら気づくのでしょうか。
藤永先生の書かれた通りアメリカは、今では、世界... (佐々木恭治)
2011-05-12 04:37:04
藤永先生の書かれた通りアメリカは、今では、世界一残虐なテロ国家であることは間違いないと言うことです。
自国及び自国民になんら害を及ぼしていない遠い国リビヤを人権がどうしたこうしたと屁理屈にもならない理由をこじつけて爆撃する権利がどこにあるのか?
そんな理屈が通るならば、ウイグル人やチベット人を大量にいじめ殺している北京を何故爆撃しないのか、北朝鮮の惨めな人民が飢餓状態にされているのを見かねていると認めていながらなぜ平壌を爆撃しないのか、ロシア人に翻弄されているチチェン人のとため何故モスクワに水爆を落とさないのか[E:sign03]
アメリカ建国以来自分勝手な屁理屈ばかり並び立てて先住民を皆殺しし、領土拡大ばかりずっと行ったアメリカという国に正義の片鱗さえ見つけることは難しい。
正義と見なされるものはすべて白人アメリカの都合ばかりであります。
多民族、キリスト教やユダヤ教以外の宗教者には、殆ど慈悲の気持ちで摂してないのがワスプの国アメリカの実体であるのです。
コロンブスが西インド・アメリカ大陸を侵略して絶え間なくズーッと侵略戦争をしてきたのがユナイテッド・ステート・オブ・アメリカであると断じてよくテロ国家そのものと言えます。
バラク・オバマは白人と言うより呈のよいユダの飼い犬・使い走りであることは、藤永先生がこのところずっと指摘なされたことです。
読者の皆さんには、アメリカの歴史をキチンと追ってゆくことをお薦めします。
刃物関係のフォーラムを頻繁に尋ねていますが (blank)
2011-05-15 15:49:30
刃物関係のフォーラムを頻繁に尋ねていますが
この一件に関してもスレッドが立てられていました。

むろん狂喜する人ばかりではありませんでしたが
以下のような恐ろしいコメントも随所に寄せられており
実用性に関する実践精神に感心することが日頃多いだけに
何ともいえない気分にさせられたものです。

"He's seafood now. I'm ok with that."
"Fishfood. . .and no martyr's shrine to visit."
"And you dont have to play by the rules with a dead man."
"Thank you goes to our troops for helping "another one bite the dust"!!!"
ウサマ・ビンラディンを殺害するように指示を出し... (名無しのコン太)
2011-07-03 16:51:51
ウサマ・ビンラディンを殺害するように指示を出しました。
この経緯については、小説仕立てにして記述しました。
”原作「エシュロンキラー」”という小説で、
アルファポリス(http://www.alphapolis.co.jp/
の第4回ミステリー小説大賞(2011年7月1日
~31日)にエントリーしいます。
宜しかったら、アルファポリスに市民登録して、
”原作「エシュロンキラー」”を読んでください。
そして、”原作「エシュロンキラー」”に投票してください。

直リンクは、http://www.geocities.jp/internetshow2000/index.htmlです。

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オサマ・ビン・ラディンの好都合な死 (マスコミに載らない海外記事)
Paul Craig Roberts 2011年5月3日 Information Clearing House アメリカは必ず勝つという勝利主義の匂いがプンプンするプロパガンダ記事で、AP通信の、というよりは、ホワイト・ハウス真実省の、二人の記者とされ