私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ISの最後の謎が解けた(1)

2017-06-21 23:02:02 | 日記・エッセイ・コラム
 2年以上前の2015年4月15日付の記事『IS(イスラム国)問題』で、私は、結語として、
 「川上泰徳さんがおっしゃるように、本質的には、「イスラム国」の出現は、「アラブの春」で目覚めたサラフィー主義の若者たちの運動だと位置づけるべきなのでしょう。しかし、それはそれとして、いまの私の目に明らかなことは、米欧とアラブ世界の一部の国々(トルコを含む)にとって、これはいわゆる“外人部隊”なのであり、“外人部隊”として利用しているという事です。世界各国からの隊員のリクルートのやり方も“外人部隊”のそれなのだと私は見ています。“外人部隊”は雇われた兵隊です。この“外人部隊”にとっての現在の最重要のassignmentはシリアのアサド政権の打倒であって、それ以外はサイドショウです。シリア国土の不法爆撃はシリアのインフラ破壊が大きな目的です。」
と書きました。
 川上泰徳さんは元朝日新聞社の中東アフリカ総局長だったベテラン・ジャーナリストで、今も中東について盛んに発言をしておられます。川上さんの「イスラム國」についての結論的な文章を引用します:
#「イスラム国」の出現は、「アラブの春」で目覚めたサラフィー主義の若者たちの運動だと位置づけるべきである。「アラブの春」の後の混迷が「イスラム国」出現を後押ししたという要素もあるとしても、イスラムの教えに基づいて正義や公正を実現しようとするサラフィー青年の運動が、「イスラム国」という形をとった、と考えなければならないだろう。若者たちは純粋であるだけに、運動が過激化しやすいことも確かだ。「イスラム国」をテロ組織として軍事的に攻撃しても、なくなりはしないことは既に述べたが、逆に過激化させることになる。
 「イスラム国」についての問題の本質は、アラブ世界を動かす存在となっている若者たちが直面する問題をどのように解決するかということである。そろそろ、「対テロ戦争」で「イスラム国」を壊滅させれば問題は解決するという考え方から、脱却すべきだろう。世界が「イスラム国」を軍事的に敵視し、たたき続ける限り、現在の「イスラム国」が世界にとっての安全保障の脅威、つまり「テロの温床」になる。必要なのは、世界の方から「イスラム国」との間で軍事的ではない対応をさぐることである。
 「イスラム国」に対する最善の解決は、「イスラム国」に参加しているサラフィー主義の若者たちが、シリアやイラク、またはその出身国で、サラフィー主義者として政治勢力として活動できるような民主的な政治環境をつくることだろう。いまの中東の混乱を考えれば、理想的に過ぎると見えるかもしれないが、民主主義や人権、法の支配を回復する中で、「イスラム国」として突出したアラブの若者をも包含するという中東正常化の方向に向かわなければ、事態はさらに悲劇的な方向にむかうことになるだろう。#
 上掲のブログ記事『IS(イスラム国)問題』で、ただ一介の市井の老人としての身分をわきまえた上で、あえて、川上泰徳さんのご意見に異を唱えました。ISの発祥の原点が何であれ、ISの現実の役割が代理戦争遂行勢力、つまり、“傭兵”であることの認識が最も重要なポイントであるというのが、私の見解でありましたし、この見解が誤ったものでないことを、過去2年間の事態の展開は証明してくれていると私は考えます。
 この6月18日(日)シリア北部のラッカ周辺で米国空軍機がシリア國空軍機を撃墜しました。米国の支援のもとにイスラム國の首都ラッカ攻略の作戦を進めているSDF(Syrian Democratic Forces) に対して、シリア空軍機が爆撃を加えてきたので、その報復として、政府軍機を撃墜したと、米国側は発表しました。これに対してシリア政府は、爆撃はISに対して行われたもので、SDFに対しては行なっていないと言っています。どちらの言い分が正しいのか、私には分かりませんが、昨年9月にラッカの南東のデリゾール地方で起った米軍機による“誤爆”事件を思い出しました。この事件では、IS軍に対して優位に戦闘を進めていたシリア政府地上部隊に対して米軍機が猛爆を行って、シリア兵数十人が殺され、IS軍が救われる結果になりました。この時には、米国側は、申し訳ない“誤爆”だったと謝罪したのでしたが、IS軍が大打撃を免れたのは確かです。今回のSDFを含む米国側勢力が、ISの首都ラッカでIS国軍部隊を包囲殲滅すると称しながら、IS側と馴れ合いになって、ISの兵士たちを、ラッカの南方で、政府軍とIS軍が激闘している地域に移動させている、というニュースもしきりに流れています。
 「米国はシリアでISと懸命に闘っている」という巨大な嘘に対して、激烈な、そして、胸のすくような弾劾の文章を私の敬愛する論客Paul Craig Roberts が書いてくれました:

http://www.paulcraigroberts.org/2017/06/19/another-step-toward-devastating-war/

全文の翻訳が、これまた私が敬愛してやまない「マスコミに載らない海外記事」に、明日にでも、掲載されることを希望します。皆さんの食欲増進のため(to whet your appetite)、さしあたって、さわりの一つを原文で引用しておきましょう:
How many agreements with Russia does Washington have to break before the Russians finally understand that a signed agreement with Washington is meaningless? Will the Russians ever learn? The American Indians never did. There is a famous American T-shirt: “Sure you can trust the government: Just ask an Indian.”
 さて、タイトルに掲げた「ISの最後の謎」のことですが、「イスラム國」については、多数の専門家の方々の解説が世に溢れています。私もそのいくつかに目を通し、宗教的な面からの理解にも努力してきたつもりですが、私にとって最も深刻な謎として残っていたのは、イスラム國にリクルートされた若者たちが一貫して発揮する異様なまでに極端な残忍性です。ところが、つい最近、一つの論考を読んで、謎がストーンと解けた気持ちになりました。次回にその話をします。

藤永茂(2017年6月21日)
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5 コメント

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Unknown (一読者)
2017-06-22 16:05:01
ダーイシュの目的をイスラム法に基づく国家樹立と考える見方は、十字軍をキリスト教徒による聖地奪還運動と考えるくらい皮相的でナンセンスなことでしょうね。
テロリスト一人一人の顔が見えて来ない (グッキー)
2017-06-22 18:07:13
ISが何で残虐行為を行うのか?
以前、ISのカメラマンが成るべく残虐な写真を取れと言われたという話を聞いた。
つまりISをアピールしたい。米軍介入の為の布石かなとも思ったがこういう記事も有るhttps://news.yahoo.co.jp/byline/bradymikako/20151119-00051589/

分からないのはテロリストは傭兵だと考えている。傭兵が何で自爆攻撃をするのか分からない。
日本の特攻隊員なら数々の遺書を残している。
特攻を志願しなければ自分も家族も非国民と非難され居場所が無く成る。
島国の日本では逃げ場が無い。そんな心情が見えて来る。

では何で傭兵のテロリストが自爆攻撃を命令されて逃げて来たという話が無いのか?
どんな心情で自爆攻撃したのか?遺書も出て来ないのでまったく分からない。

麻薬を飲まされ強力な洗脳をされて居るのかと推測するが、情報が無いので真偽は分からない。
以前、サウジの王子がベイルート空港で2トンもの麻薬を自家用機で運ぼうとして居たという記事を見た。
2トン何て量は前代未聞、テロリスト軍隊にでも使うのではないかと思った。
真実がどんどん明らかに成って欲しい。
Unknown (グッキー)
2017-06-23 09:26:28
テロリストは強力な洗脳では無く、本当にサラフィー主義者以外、殺さなければ成らないと信じている狂信者ばかりなのか分かりません。
自爆テロ犯の遺書でも出てくれば分かると思うのですが、そういうものがまったく出て来ません。

藤永先生はどうお考えか、教えてもらえれば幸いです。
傭兵 ジハディストについて (Hitoshi Yokoo)
2017-06-25 23:10:20
イラク軍に包囲されたモスルは、陥落寸前のようです。外国から参加したイスラム国のゲリラ兵士たちは、髭を剃り一般市民に紛れ込んで脱出することもできず、最後の戦いを挑んでいるようです。彼らに残された武器は、既に小銃と自爆用の爆薬だけであり、「アラーアクバル!!」と外国訛りの最後の言葉を残して、次々に自爆を遂げているようです。
私の理解では、彼らは個人の意識レベルにおいて、紛れもなく崇高なイスラム聖戦兵士であり、イスラム国建国のために自爆して命を捧げることに躊躇していないようです。
私は、彼らが崇高なイスラム戦士になるために、麻薬等は必要ないと思っています。
けれども、私の理解では、その「崇高な精神」を見事に操っている「誰か」が存在します。
近年、イスラム教徒の増加は注目を集めました。それはイスラム教徒内部での人口増加に限らず、ヨーロッパの白人層の改宗によっても増加していたのです。
イスラム教徒の増加に最も危機感を抱いているのは、シオニスト達だと思います。シオニスト国家内でも、パレスチナ人の人口増加に危機感を募らせ、外国からのユダヤ人の移住を必死に奨めています。
シオニストが、自己の死活問題を賭け、如何にしてイスラム勢力を分断し衰退させるかという戦略を立て実践するのは、極めて当然のことです。
私は、Google+の「Free Palestine」というコミュニティーに参加して、毎日のようにシオニストトロールと罵倒合戦をしていますが、彼らの応答は、論点のすり替え、詭弁の多用など、病的であり、私はシオニストサイコパスと彼らのことを呼んでいます。
シオニストサイコパスの基本的主張は、イスラムは、イスラム教という教義の内にテロリズムを秘めた宗教に基づくカルト集団である、とのことです。16億人のカルト集団と言っても説得力はありませんが。
けれども、ここ20年来の動向は、表向きはシオニストサイコパスの主張に何らかの根拠を与えているように見えます。ISISの出現と彼らの活動内容は、シオニストサイコパスの主張に見事に当てはまり、イスラム教徒がシオニストサイコパスに抗うのが困難になっています。
アルカイダやISISは、イスラム圏をものの見事に切り崩しました。イスラム圏は、膨大な犠牲者と徹底的なインフラ破壊を被り、内部対立で、反シオニズムどころではない地獄の状況へと陥ってしまいました。そして、シオニスト国家は、何も失なうことなく、中東での相対的優位性をいっそう高め、違法な入植地拡大を着々と進めています。
以前、ある記事(たぶん、マスコミにのらない海外記事)を読んでいますと、ISISの真新しい作りたての黒い旗がイスラエル国内で見つかった、とのことでした。
シオニストが、イスラムの名誉を傷つけることにより成長するイスラム勢力を抑え、さらにはイスラム圏を破壊し自己の優位性を獲得するためにジハディストを操っていると、私はそのように理解してます。
Hitoshi Yokooさん (グッキー)
2017-06-26 10:16:55
有難うございました。
コメントを読んでだいぶ自爆テロリストの肖像がみえてきました。

欧米権力に抑圧され憎悪を持った、騙され易い純朴な聖戦士ということですね。
そんなに多数の人間が騙されるのかと疑問にも思いますが、人間が劣化した現代では有り得ないことも無いのかな~と。

テロリスト指導部が西側諜報機関と繋がって居るのは、チェイニー、ラムズフェルド、ブレア、イスラエルを攻撃しないことで明らかなように思います。
スノーデンの言うようにバクダティーはモサドの職員だったの知れません。

不思議に思うのはテロリストの心情を調べるくらい当然のことなのに、まったくそれがされて無いようだということです。
敵を知らず己を知らず百戦百敗を行っているようです。

テロリストが欧米権力による抑圧から発生して居るようなら希望を与えれば良いことだと思います。
自由で貧困も無い社会を具体的に創る方法を教えてやればテロになど走らないのでは無いかと思います。

しかし人間が劣化してしまったせいか、自由で貧困の無い社会など簡単に創れるのに、考えて見ることも出来ない人々ばかりに成ってしまいました。
感性麻痺ー思考停止社会、
感性が無いから疑問を持たない。疑問を持たないから考えない。
人間の劣化の象徴のように見えます。

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