ローンのお話は、朝イチに聞いて、
もう早速「この銀行で」と決め、
本申込をした。
あぁ、この約2時間のためだけに、
追悼歌会がパー……。
車に乗り込むと、夫は、
「今からドライブに行けへん?」という。
ドライブ……?そんな洒落た事を考える人ではない。
絶対、ウラがあるはずだ。
「どこらへんを?」と聞くと、
「交野市、神戸西区、尼崎、和泉府中」というので、
「……それは、目的地の選択肢?」と聞くと、
「違う。ルート。全部行く」と答える。
それは全て、夫の会社の営業所があるところ。
説明してもらっても、よくわからない話だったのだが、
3月も半ばを過ぎて、ようやく、
引越しのトラックの、ある許可書が発行されたので、
それを届けたいのだという。
3月も半ばを過ぎて、ようやく……というのは、
どうやら、夫の事務手続きの不備が原因なのらしい。
「そんなバラバラな場所……。
郵便屋さんに任せればいいんじゃないの?」と聞いてみると、
「効力がもう昨日から発生しているから、
一日でも早く、営業所に届けてあげたいねん」と言う。
この優しさというか、責任感というか……、が、
時々裏目に出て、夫自身を追い詰める。
後日、「あの時、明石での仕事並みに精神的にヤバかってん」と、
告白されたが、
確かに、あの晴れたお昼前の駐車場で、
ドライブなんて言葉で甘えようとした夫は、
『どんなかたちでもいいから、頼らせて』オーラが出ていた。
いや、見て見ぬ振りをしていたけど、
木曜夜あたりから出てはいたのだ。
『歌会より、僕を選んで』オーラが。
「いいよ。
でも、実印を持ってあっちこっちへ行くのは、
心臓に悪いから、一旦家に帰らせて。
それからならば、つきあうよ」
ちょっと、なんだかまるで、客観的には、
歌会をズル休みしているみたいだなぁ……しかも追悼歌会を……と、
よくわからない後ろめたい気持ちも湧いたけど、
実際はそうじゃないんだからいいじゃないか、と、
自分に多少言い訳をして。
家に帰って、夫を車に乗せたまま、
私は家に帰って、重要な荷物を置いて。
お隣さんのマクドでお昼ご飯を買って、ドライブ出発。
★
交野市……。大概遠かった……。
営業所の駐車場に車を止めて、
私は助手席に座ったまま待つ。
スケジュール帳に日記を書き終えても、
夫は車に戻ってこなかったので、少しウトウトし始めて、
気持ちよくなってきた~と思ってたところで、戻ってきた。
営業所には、所長さんしかいなくって、
電話がふたつみつとかかってきて、
対応してもうた、と、
待たせたことも謝らず、ちょっと得意げに夫は話す。
あぁこうやって、話すことで、
不安を解消したり、自信を取り戻したりしているんだな、
と、私はうなづいて聞く。
次は神戸……当たり前だが、交野市よりも、もっと遠い……。
神戸の西区の営業所は、
夫が以前勤めていたところ。
西区は明石市に隣接しているので、
家賃が安くなる明石の方に、住んだわけなのだが。
なので、夫の営業所周辺は、
よく連れて行ってもらったので、それなりの薄い思い出や記憶はある。
私はそれなりに思い出はあるが、
そんなに地元の人と濃く関わることもなかったので、
私に思い入れのある人が、この地に誰もいないというのは、
なんだか寂しいな、と思いながら、高速道路を降りていく。
街は少し変わったようにも思え、変わっていないようにも思えた。
夫は仕事で、
今でも車でも電車でも、こっちに来ることもあるらしく、
私ほど感慨深くもないようだったが。
ここの営業所では、書類を受け渡したら、
すぐに戻ってきてくれた。
時間は、夕方5時前後。太ももが痛い。
お腹がすいていたわけでもなく、喉も渇いていなかったけど、
スーパーに車を止めてもらって、
ペットボトルのジュースや菓子パンを買う。
とにかく、歩かなければ、エコノミー症候群になりそうだった。
気づかなかったが、
夫はどうやら、その時、
専門店街にあった、焼き鳥屋に心奪われたようだった。
尼崎の営業所へ行き、
書類を渡した頃には、7時を過ぎていて、
「もう、和泉府中は、郵便屋さんに任せるわ。
今から行っても、営業所に誰もおれへん時間に行くことになるし。
それよりも、なぁ、晩御飯、どうするの?」
どうやら、夫の仕事のストレスは、
作った出口から流出していったらしい。
そして、窮屈そうに小さくなってた、
彼の欲(食欲)が息を吹き返してきたようで。
「奥さんの手料理……は、めんどくさいなぁ」と、私がいうと、
「焼き鳥!焼き鳥!」と、
ここぞとばかりに、ワンワンと言う。
焼き鳥屋さんって、どこにある??
おいしい焼き鳥屋さん……ってわけじゃなく、
ただ、彼にとっては、焼き鳥屋さんであればよかったようで。
車の対向車線側に見つけて通り過ぎたり、
「ここはどう?」と思えたところには、
駐車場がなかったりで、
結局、自分んちの近所の、
学生がよく行くような、チープなチェーン店で妥協した頃には、
もう8時30分にはなっていた。
私は焼き鳥より、
久しぶりに飲むカクテルが嬉しく。
長々と一日中一緒にいたので、
話題が尽きたというのもあったけど、
私はポツポツと阿島さんといぶやんさんのことを、
話したりした。
焼き鳥屋でけじめをつけるのは、多少不謹慎かと思ったが。
彼らのことをまったく知らない夫は、
真面目に聞いているような、
聞いている振りをしながら、
別のことを考えているようなうなづき方をしつつ、
次から次へと来る焼き鳥を頬張っていた。
死の衝撃があっても、ストレスが溜まっても、
私も夫も生きている。
焼き鳥が食べたくもなれば、カクテルに酔いしれたくなったりする。
結果的には、お互いにそれぞれの抱えていたものを、
助け合ったわけなんだな、と思いつつ、
追悼歌会の別な夜を私は過ごしていたのでした。
もう早速「この銀行で」と決め、
本申込をした。
あぁ、この約2時間のためだけに、
追悼歌会がパー……。
車に乗り込むと、夫は、
「今からドライブに行けへん?」という。
ドライブ……?そんな洒落た事を考える人ではない。
絶対、ウラがあるはずだ。
「どこらへんを?」と聞くと、
「交野市、神戸西区、尼崎、和泉府中」というので、
「……それは、目的地の選択肢?」と聞くと、
「違う。ルート。全部行く」と答える。
それは全て、夫の会社の営業所があるところ。
説明してもらっても、よくわからない話だったのだが、
3月も半ばを過ぎて、ようやく、
引越しのトラックの、ある許可書が発行されたので、
それを届けたいのだという。
3月も半ばを過ぎて、ようやく……というのは、
どうやら、夫の事務手続きの不備が原因なのらしい。
「そんなバラバラな場所……。
郵便屋さんに任せればいいんじゃないの?」と聞いてみると、
「効力がもう昨日から発生しているから、
一日でも早く、営業所に届けてあげたいねん」と言う。
この優しさというか、責任感というか……、が、
時々裏目に出て、夫自身を追い詰める。
後日、「あの時、明石での仕事並みに精神的にヤバかってん」と、
告白されたが、
確かに、あの晴れたお昼前の駐車場で、
ドライブなんて言葉で甘えようとした夫は、
『どんなかたちでもいいから、頼らせて』オーラが出ていた。
いや、見て見ぬ振りをしていたけど、
木曜夜あたりから出てはいたのだ。
『歌会より、僕を選んで』オーラが。
「いいよ。
でも、実印を持ってあっちこっちへ行くのは、
心臓に悪いから、一旦家に帰らせて。
それからならば、つきあうよ」
ちょっと、なんだかまるで、客観的には、
歌会をズル休みしているみたいだなぁ……しかも追悼歌会を……と、
よくわからない後ろめたい気持ちも湧いたけど、
実際はそうじゃないんだからいいじゃないか、と、
自分に多少言い訳をして。
家に帰って、夫を車に乗せたまま、
私は家に帰って、重要な荷物を置いて。
お隣さんのマクドでお昼ご飯を買って、ドライブ出発。
★
交野市……。大概遠かった……。
営業所の駐車場に車を止めて、
私は助手席に座ったまま待つ。
スケジュール帳に日記を書き終えても、
夫は車に戻ってこなかったので、少しウトウトし始めて、
気持ちよくなってきた~と思ってたところで、戻ってきた。
営業所には、所長さんしかいなくって、
電話がふたつみつとかかってきて、
対応してもうた、と、
待たせたことも謝らず、ちょっと得意げに夫は話す。
あぁこうやって、話すことで、
不安を解消したり、自信を取り戻したりしているんだな、
と、私はうなづいて聞く。
次は神戸……当たり前だが、交野市よりも、もっと遠い……。
神戸の西区の営業所は、
夫が以前勤めていたところ。
西区は明石市に隣接しているので、
家賃が安くなる明石の方に、住んだわけなのだが。
なので、夫の営業所周辺は、
よく連れて行ってもらったので、それなりの薄い思い出や記憶はある。
私はそれなりに思い出はあるが、
そんなに地元の人と濃く関わることもなかったので、
私に思い入れのある人が、この地に誰もいないというのは、
なんだか寂しいな、と思いながら、高速道路を降りていく。
街は少し変わったようにも思え、変わっていないようにも思えた。
夫は仕事で、
今でも車でも電車でも、こっちに来ることもあるらしく、
私ほど感慨深くもないようだったが。
ここの営業所では、書類を受け渡したら、
すぐに戻ってきてくれた。
時間は、夕方5時前後。太ももが痛い。
お腹がすいていたわけでもなく、喉も渇いていなかったけど、
スーパーに車を止めてもらって、
ペットボトルのジュースや菓子パンを買う。
とにかく、歩かなければ、エコノミー症候群になりそうだった。
気づかなかったが、
夫はどうやら、その時、
専門店街にあった、焼き鳥屋に心奪われたようだった。
尼崎の営業所へ行き、
書類を渡した頃には、7時を過ぎていて、
「もう、和泉府中は、郵便屋さんに任せるわ。
今から行っても、営業所に誰もおれへん時間に行くことになるし。
それよりも、なぁ、晩御飯、どうするの?」
どうやら、夫の仕事のストレスは、
作った出口から流出していったらしい。
そして、窮屈そうに小さくなってた、
彼の欲(食欲)が息を吹き返してきたようで。
「奥さんの手料理……は、めんどくさいなぁ」と、私がいうと、
「焼き鳥!焼き鳥!」と、
ここぞとばかりに、ワンワンと言う。
焼き鳥屋さんって、どこにある??
おいしい焼き鳥屋さん……ってわけじゃなく、
ただ、彼にとっては、焼き鳥屋さんであればよかったようで。
車の対向車線側に見つけて通り過ぎたり、
「ここはどう?」と思えたところには、
駐車場がなかったりで、
結局、自分んちの近所の、
学生がよく行くような、チープなチェーン店で妥協した頃には、
もう8時30分にはなっていた。
私は焼き鳥より、
久しぶりに飲むカクテルが嬉しく。
長々と一日中一緒にいたので、
話題が尽きたというのもあったけど、
私はポツポツと阿島さんといぶやんさんのことを、
話したりした。
焼き鳥屋でけじめをつけるのは、多少不謹慎かと思ったが。
彼らのことをまったく知らない夫は、
真面目に聞いているような、
聞いている振りをしながら、
別のことを考えているようなうなづき方をしつつ、
次から次へと来る焼き鳥を頬張っていた。
死の衝撃があっても、ストレスが溜まっても、
私も夫も生きている。
焼き鳥が食べたくもなれば、カクテルに酔いしれたくなったりする。
結果的には、お互いにそれぞれの抱えていたものを、
助け合ったわけなんだな、と思いつつ、
追悼歌会の別な夜を私は過ごしていたのでした。