日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

追悼歌会の日にドライブ

2009年03月15日 | 夫との日々
ローンのお話は、朝イチに聞いて、
もう早速「この銀行で」と決め、
本申込をした。

あぁ、この約2時間のためだけに、
追悼歌会がパー……。

車に乗り込むと、夫は、
「今からドライブに行けへん?」という。

ドライブ……?そんな洒落た事を考える人ではない。
絶対、ウラがあるはずだ。

「どこらへんを?」と聞くと、
「交野市、神戸西区、尼崎、和泉府中」というので、
「……それは、目的地の選択肢?」と聞くと、
「違う。ルート。全部行く」と答える。

それは全て、夫の会社の営業所があるところ。

説明してもらっても、よくわからない話だったのだが、
3月も半ばを過ぎて、ようやく、
引越しのトラックの、ある許可書が発行されたので、
それを届けたいのだという。

3月も半ばを過ぎて、ようやく……というのは、
どうやら、夫の事務手続きの不備が原因なのらしい。

「そんなバラバラな場所……。
郵便屋さんに任せればいいんじゃないの?」と聞いてみると、
「効力がもう昨日から発生しているから、
一日でも早く、営業所に届けてあげたいねん」と言う。

この優しさというか、責任感というか……、が、
時々裏目に出て、夫自身を追い詰める。

後日、「あの時、明石での仕事並みに精神的にヤバかってん」と、
告白されたが、
確かに、あの晴れたお昼前の駐車場で、
ドライブなんて言葉で甘えようとした夫は、
『どんなかたちでもいいから、頼らせて』オーラが出ていた。

いや、見て見ぬ振りをしていたけど、
木曜夜あたりから出てはいたのだ。
『歌会より、僕を選んで』オーラが。

「いいよ。
でも、実印を持ってあっちこっちへ行くのは、
心臓に悪いから、一旦家に帰らせて。
それからならば、つきあうよ」

ちょっと、なんだかまるで、客観的には、
歌会をズル休みしているみたいだなぁ……しかも追悼歌会を……と、
よくわからない後ろめたい気持ちも湧いたけど、
実際はそうじゃないんだからいいじゃないか、と、
自分に多少言い訳をして。

家に帰って、夫を車に乗せたまま、
私は家に帰って、重要な荷物を置いて。

お隣さんのマクドでお昼ご飯を買って、ドライブ出発。

     ★

交野市……。大概遠かった……。

営業所の駐車場に車を止めて、
私は助手席に座ったまま待つ。

スケジュール帳に日記を書き終えても、
夫は車に戻ってこなかったので、少しウトウトし始めて、
気持ちよくなってきた~と思ってたところで、戻ってきた。

営業所には、所長さんしかいなくって、
電話がふたつみつとかかってきて、
対応してもうた、と、
待たせたことも謝らず、ちょっと得意げに夫は話す。

あぁこうやって、話すことで、
不安を解消したり、自信を取り戻したりしているんだな、
と、私はうなづいて聞く。

次は神戸……当たり前だが、交野市よりも、もっと遠い……。

神戸の西区の営業所は、
夫が以前勤めていたところ。
西区は明石市に隣接しているので、
家賃が安くなる明石の方に、住んだわけなのだが。

なので、夫の営業所周辺は、
よく連れて行ってもらったので、それなりの薄い思い出や記憶はある。

私はそれなりに思い出はあるが、
そんなに地元の人と濃く関わることもなかったので、
私に思い入れのある人が、この地に誰もいないというのは、
なんだか寂しいな、と思いながら、高速道路を降りていく。

街は少し変わったようにも思え、変わっていないようにも思えた。

夫は仕事で、
今でも車でも電車でも、こっちに来ることもあるらしく、
私ほど感慨深くもないようだったが。

ここの営業所では、書類を受け渡したら、
すぐに戻ってきてくれた。

時間は、夕方5時前後。太ももが痛い。

お腹がすいていたわけでもなく、喉も渇いていなかったけど、
スーパーに車を止めてもらって、
ペットボトルのジュースや菓子パンを買う。
とにかく、歩かなければ、エコノミー症候群になりそうだった。

気づかなかったが、
夫はどうやら、その時、
専門店街にあった、焼き鳥屋に心奪われたようだった。

尼崎の営業所へ行き、
書類を渡した頃には、7時を過ぎていて、

「もう、和泉府中は、郵便屋さんに任せるわ。
今から行っても、営業所に誰もおれへん時間に行くことになるし。
それよりも、なぁ、晩御飯、どうするの?」

どうやら、夫の仕事のストレスは、
作った出口から流出していったらしい。
そして、窮屈そうに小さくなってた、
彼の欲(食欲)が息を吹き返してきたようで。

「奥さんの手料理……は、めんどくさいなぁ」と、私がいうと、
「焼き鳥!焼き鳥!」と、
ここぞとばかりに、ワンワンと言う。

焼き鳥屋さんって、どこにある??

おいしい焼き鳥屋さん……ってわけじゃなく、
ただ、彼にとっては、焼き鳥屋さんであればよかったようで。

車の対向車線側に見つけて通り過ぎたり、
「ここはどう?」と思えたところには、
駐車場がなかったりで、
結局、自分んちの近所の、
学生がよく行くような、チープなチェーン店で妥協した頃には、
もう8時30分にはなっていた。

私は焼き鳥より、
久しぶりに飲むカクテルが嬉しく。

長々と一日中一緒にいたので、
話題が尽きたというのもあったけど、
私はポツポツと阿島さんといぶやんさんのことを、
話したりした。

焼き鳥屋でけじめをつけるのは、多少不謹慎かと思ったが。

彼らのことをまったく知らない夫は、
真面目に聞いているような、
聞いている振りをしながら、
別のことを考えているようなうなづき方をしつつ、
次から次へと来る焼き鳥を頬張っていた。

死の衝撃があっても、ストレスが溜まっても、
私も夫も生きている。
焼き鳥が食べたくもなれば、カクテルに酔いしれたくなったりする。

結果的には、お互いにそれぞれの抱えていたものを、
助け合ったわけなんだな、と思いつつ、
追悼歌会の別な夜を私は過ごしていたのでした。

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