日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

弟の元カノ

2006年12月07日 | その他の日々
この前の月曜日の話になるけれど、
数年ぶりに弟から電話があった(会うのは、今夏、しているけれど)。

USJに行った時、姪っ子ふたりに、
スヌーピーのぬいぐるみをお土産に買って、
実家の両親に、
彼らが遊びに来たら渡してと頼んでいたのだが、
それをもらったというお礼だった。

「ねーちゃんがそんなことするなんて、めずらしいなぁ」と、
言われ、
「めずらしかったかなぁ……」と、
心の中で思っていたら、
電話を切った後、変な記憶に、リンクしていった。

弟の元カノからの電話の記憶に。

     ★

弟の元カノは、多分関東の人だ。
彼が高校卒業間近の時期に行った、
スキー旅行で知り合ったようだった(うろ覚えだが)。

その遠距離を、
ケータイもメールもない時代、
どうやって埋めていたのかは知らない。

あ、一度だけ、
ふたりの距離のあいだをとって、
静岡県の浜名湖へ、
取立ての免許と父親の車を走らせて、
日帰りデートに行ったと聞いて、
驚いたことがあった。

結局、実際には、
どのくらい連絡のやり取りをし、
どのくらいの時期から、
連絡のやり取りが消えたのかは知らない。

いつの間にか、彼が愛用していた、
彼女からのもらい物は破棄されていた。

     ★

その電話が鳴ったのは、
阪神大震災の年で、
まだ夏になる前だと思う。

思い出す景色が、
その年の7月に引っ越した、
新しい実家の台所ではなく、
前の実家の台所だから。

父は単身赴任中で、
母は仕事に出かけてて、
私は社会から出戻りの大学院生で。

私だけが家でごろごろしていた時間帯に、
一本の電話が鳴った。

名前を名乗ったような気がするが、
その名前は思い出せない。
はっきり覚えているのは、
「○○さん(←弟の名前)いらっしゃるでしょうか」
という言葉の声の張り。

え?知らないの?という、
勘の働いていない素朴な感情が、
最初に私を支配したので、

「ご存じないんですか?」と声に出して言ったのも、
覚えている。

水を打ったような一瞬の後に、

「弟はもう結婚して、この家にはいないんですよ」

と、言った。

その後も、勘の働いていない私は、
弟の新しい電話番号を教えましょうか、とか、
何か伝えておきましょうか、とか、
ひつこくひつこく、
いらない親切心を表した。

電話の向こう側の女性は、
ひたすら断り続けて電話を切った。

弟はその年の2月か3月に結婚して、
奥さんの実家の近所に住まいを構えていた。

電話をきってから、
「……前の彼女としか思えないよな」と、気がついて、
気がつかなかったことを、少し悔やんだ。

     ★

そんな電話があったことを、
私は多分弟には言っていない。

もしかしたら、その日の晩御飯で、
母には言ったかもしれないが、
きっともう忘れているだろう。

彼女の勇気を振り絞った声と、
真実を聞く前の一瞬の間を
聞いたわけじゃないから。

何もかも忘れているけれど、
私の中で焼きつくかたちで残っていた記憶。

彼女にしてみれば、なかったことにしたい電話となっただろう。

10年以上経って遠いうつろな記憶となっているだろうか。
なっていてほしい。

明るく元気に今を生きている女性でいてほしい。

思い出したついでで悪いけど、
強く強く願った。

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