日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

秀歌集作品評⑥

2007年04月12日 | 五行歌な日々
またまた久しぶりに、
秀歌集作品評。

     ★


       「人生」という
       言葉を使う
       少年達の会話
       噴き出しながら
       胸がしんとなる     神部和子(p393)


「人生」という言葉の重みを思う。

少年たちには
少年たちの生きた時間での
「人生」という言葉の重み。
その少年たちの生きた時間以上の
「人生」を歩んできた作者の
「人生」という言葉の重み。

作者から見る
少年たちの会話の中での
「人生」という言葉は、
まだ真新しく、
まだ経験が深く刻まれていない分、
軽く口から出るのだろう。

彼らより経験を重ねた分
「人生」という言葉を
軽はずみでは使わなくなった作者は
噴き出す。

そして噴き出しながら、
「人生」という言葉を
軽くは使えなくなった具体的な出来事が、
胸の中に急に溢れて、静まる。

自分の中に耳を傾けたのだろう。

私までも、
胸の中がしんとして噛み締めてしまいました。



       「職安はどこですか」
       「ハローワークですね」
       「いや職安です」
       実直そうな紳士に
       そっとエールを送った   睦美(p420)

こういう紳士が職にあぶれてしまうということ。

そういう紳士を歌で照らしだし、
茶化しもせずに
エールを送った作者の純粋なお気持ち、
どうか届きますように。



       蒸気汽関車だからと
       あまり美化しないでくれ
       摂氏五十度の
       機関室で働き死んだ
       父のことも        三好香洋(p426)


美化の影で。

その嘆きは、
第三者の人たちは、まず声にしない嘆き。

このことを彼らが理解すれば
美化は一瞬にして沈黙する。

静か過ぎるくらいの沈黙になるだろう。

だから、誰でもない家族の人たちが、
声にすることを許される歌。

第三者の美化する声にも、沈黙にも、
かき消されないように、
好きなだけ歌って。

死んだお父さんに届くほどに、
どうか歌って。

     ★

あと2,3回はありますが、
いつになるかは気まぐれです。では。

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