苦悩や遠慮も…ALS患者の「生きる選択」支えるために必要なこと

2020年07月31日 | 病気 余命を考える 死を迎える準備
苦悩や遠慮も…ALS患者の「生きる選択」支えるために必要なこと
2020/7/27 6:00 (2020/7/28 17:12 更新)

西日本新聞 一面 斉藤 幸奈



欠かせない介護の充実

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性が薬物を投与されて殺害されたとされる事件は、同じ病に苦しむ患者や家族、支えてきた人々に重い衝撃を与えた。病状に絶望して死を望んだとされる女性の「選択」。現実には、呼吸ができなくなっても人工呼吸器を付けないと決め、死に至るALS患者が少なくない。家族の負担、日々進む病状に向き合う患者自身が「生きるという選択をしにくい状況になっているのでは」と懸念する声も上がる。

 「死にたいというのは純粋な彼女の意思なのか」。ALSなど神経難病患者専門の入居施設「ホスピタルホームあいあい曰佐(おさ)」(福岡市南区)運営会社の佐々木一成社長は事件報道に触れ、そう感じた。生きることで家族や周囲に迷惑をかけてしまうという遠慮も選択に影響したのではないかと案じている。

 約20人が暮らす施設には「家族を病気に巻き込みたくない」という思いでやって来る人が少なくない。最近、一人の入居者を見送った。人工呼吸器を装着すれば生きられたが、付けない決断をした。呼吸苦がひどくなっても揺るがなかった。施設ではこれまでも、数人を見送ってきたという。

 人工呼吸器を付けるのは患者の3割ほどとも言われる。「自分らしくいられないなら生きていたくない」「人にしてもらうことばかり増えるのが耐えられない」-。それぞれの患者の決断に寄り添ってきた佐々木社長は考える。「(人工呼吸器を)付けたら『もう十分生きた』と思っても外せないという恐怖があるのだと思う。本人の意思を丁寧に確認した上で、外すという選択も認められるならば、付ける人は増えるはず」

 ALS患者の訪問診療に取り組む福岡市の医師は「患者には治療を拒否する権利もある。ただ、一度付けた人工呼吸器を外す行為は患者の死につながるため、倫理面からも難しい」と説明する。医師が責任を問われる可能性も否定できない。その上で「外すための議論より、生き続けたいと思うための支援を考えたい」と話す。

   *    *

 8年前にALSの夫を亡くした女性(81)=大分市=は「本人は(人工呼吸器を)付けたくないと考えていたけど、私が付けてもらった」と振り返る。それでよかったのか、結局、本人の思いを聞けなかったことを今も悔いている。

 人工呼吸器を装着してから旅行にも行ったし、子どもの結婚式にも出席した。受話器越しに聞いた初孫の産声に2人で涙を流した。かけがえのない時間がそこにはあった。女性は「ALSとともに生きるには希望が必要だと思うんです。うちでは孫の成長を見守ることだった。事件の女性は希望が持てなかったのだろうか」と思いやる。

 生きるという選択を支えるには公的な介護サービスの充実も欠かせない。日本ALS協会鹿児島県支部の里中利恵事務局長は「住む地域によって受けられる介護の手厚さに差がある。どこにいても必要な介護を受けることができ、家族の人生も尊重しながら自宅で安心して生活できる環境を整えることが大事だ」と訴える。  (斉藤幸奈)



「痛くない体勢ない」ALS患者の日常

 「痛くない体勢がないというぐらいに、いつも体のどこかが痛い」。神経難病患者の入居施設「ホスピタルホームあいあい曰佐」で暮らすALS患者の50代男性は、時折せき込みながら日々の思いを話してくれた。

 ほとんどの時間をベッドの上でテレビを見て過ごしている。「ドラマを見るのが楽しみでね」。コロナ禍で休止されていたドラマの再開を喜ぶ。

 「もう食べるのがしんどくなってきてる。あとどれぐらい(口から)食べられるか」。だから食べられる今は、焼き肉やフレンチトーストなど大好きな物だけを食べている。

 耐え難いのは「かゆみ」。自分でかくことができないし、少しのかゆみで職員を呼ぶのも気が引ける。施設側も、室内に蚊が入らないように細心の注意を払っているそうだ。

 部屋の壁には自身が撮った水中写真が飾られている。光が降り注ぐ海面がきらきらと輝く。千葉から福岡のこの施設に来たのは2年近く前のこと。「自宅にいたら家族がおかしくなってしまうと思った」からだった。神経難病に特化した施設は全国でも珍しい。受け入れ可能だという高齢者施設にも行ってみたが、歌を一緒に歌う時間などがあって自分には合わないと感じたという。

 施設では自分より病状が進んだ人を目にすることになる。「自分の行く末を見ているようでね。それがつらいですね」と語った。











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