首都マニラ封鎖の衝撃 ロックダウンが直撃した邦人社会のいま
3/31(火) 6:00配信
文春オンライン
首都マニラ封鎖の衝撃 ロックダウンが直撃した邦人社会のいま
人通りや車の往来がなくなり、静まり返ったマニラ首都圏の幹線道路
「この3日間家から出ていません。引きこもりの状態が続いています。みんな基本、ずっと家にいるだけ。本当に何もできないです。友達の家に行くことすらできない」
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LINE通話でこう語るのは、フィリピンの首都マニラに住む日本人女性、ミサキさん(24歳、仮名)。新型コロナウイルスの世界的な拡大で、マニラが3月半ばに封鎖(ロックダウン)された2週間後のことだ。ミサキさんから送ってもらった街の写真を見ると、幹線道路にはジプニー(乗り合いタクシー)やバスがまったく走っておらず、道行く人々の姿が消えたゴーストタウンと化していた。
「こんなマニラの風景は二度と見られないと思います」(ミサキさん)
強権体制のドゥテルテ政権が打ち出したウイルス対策
封鎖にともない、飲食店やホテル、娯楽施設は次々と営業を停止し、公共交通機関も止まってしまった。各自治体は午後8時から午前5時までの夜間外出禁止令を出した。1970年代のマルコス独裁政権の戒厳令下でも、夜間外出禁止は午前0時から翌朝までだった。当時を上回る厳しい措置だ。
アジアで首都圏を封鎖したのは、フィリピンが初めてだろう。「麻薬撲滅戦争」にみられる強権体制のドゥテルテ政権が打ち出したウイルス封じ込め政策が徹底され、日を追うごとに規制が強まり、人々はがんじがらめの生活を送っている。
そんなマニラの現状を知って驚いたのは、私が日々、目の当たりにしている東京の日常風景とはあまりにも対照的だからだ。街に出れば大半の人々はマスクをしているものの、外出は自由で、電車やバスも通常ダイヤで運行している。
フィリピンの感染者数は3月30日午後4時時点で1546人、死者は78人で、同日正午に日本の厚労省が発表した感染者数1866人、死者54人と大差はない。
国民は黙って封じ込め作戦に従っている
フィリピンと日本は同じ島国で、人口も同規模。その両国の感染状況が似ているにもかかわらず、コロナ封じ込めに向けたフィリピンの本気度が日本に比べて段違いに伝わってきた。しかも封鎖はマニラだけにとどまらず、第2の都市があるセブ島にも波及している。日本は3月25日になってようやく、小池百合子東京都知事が週末の外出自粛要請を発表したばかりだ。
マニラ郊外で年金暮らしを続ける日本人男性(71歳)は、日本とフィリピンを比較しながらこう語った。
「ドゥテルテ大統領は徹底して封じ込め作戦をやっているし、国民もそれに黙って従っている。安倍首相のように、記者会見でさっさと帰るようなことはありません。こういう非常事態に、各国の元首がしっかりした人物かどうかが分かりますね」
フィリピンに暮らす日本人たちの声を拾い集めてみると、日本政府の危機意識の低さ、後手に回っている対応への批判が少なくなかった。
「日本は普通に人々が歩いている」
マニラ首都圏の封鎖にともない、住民がコンドミニアム(日本のマンションのような建物)や自宅から出る際、外出許可証の携行が義務付けられるようになった。発行されるのは1家族につき1枚に限定されているため、家族でどこかへ出掛けることはできない。街の飲食店は店内での飲食が禁じられ、テイクアウトのみ。自治体によっては飲酒も規制されている。娯楽施設も閉まっているため、在留邦人たちが足を運ぶ先はスーパーぐらいだという。
ミサキさんが買い出しの状況を説明する。
「食材の買い出しは1週間に1回程度で、基本自炊です。スーパーに入るのにも、1メートルの間隔を空けて並び、人数制限もありますので、1時間以上も待たされます」
食事は飲食店でのテイクアウトに加え、デリバリーサービスも利用できる。後者の場合、部屋までは届けてくれないため、コンドミニアムの入口まで取りに行かなければならない。
「封鎖以降は部屋の中でユーチューブを見たり、本を読んだり、映画を観たりするぐらいですね。みんながネットを使うからか、通信速度が遅いです。ケーキを作ったりして、おかげで自炊力が上がりました(笑)」
そんなミサキさんにとって最大の悩みは、収入が途絶えてしまったことだ。1年前からマニラの旅行代理店で働いてきたが、コロナの影響が観光業界を直撃し、仕事が減ってとうとう3カ月間の休暇を言い渡された。
「日本で仕事を探すか、フィリピンに留まって頑張るか。ただ、貯金もそんなにありませんので、生活コストの高い日本に帰っても……。日本の人々は普通に歩いているし、マニラのほうが対策は万全なので感染の心配もなさそう」
街では軍服姿の兵士が目を光らせている
街を見渡せば、至る所に検問所が設置され、軍服姿の兵士が目を光らせている。マニラの幹線道路は深刻な渋滞がまるで嘘だったかのように、静まり返っている。そんな光景が日常となった今、マニラの在留邦人から見える日本の対応には、やはり不安感が拭えなかった。
フィリピンの在留邦人は、直近の2018年10月現在、約1万6900人に上る。内訳は、大使館などの政府機関職員、日系企業の駐在員、現地採用、留学生、起業家、退職者などに大別される。
上記のミサキさんは現地法人に採用されて働いており、駐在員や政府機関の職員とは異なり、日本から派遣されているわけではない。このため、今回のような非常事態が発生しても、帰国を促されることはない。これに対して駐在員の場合は、マニラ封鎖前に本社から指示があり、日本へ帰国した家族も少なくない。
また、セブ島で語学留学中だった学生たち約1400人は、比政府による休校指示を受け、今月末までに臨時便で集団帰国した。
オンラインゲームやダンスをしながら
「私は息子の教育のことを考えて残ることにしました」
そう話すのは、マニラの商業都市、マカティ市に住む丸橋典子さん(48歳)。息子は高校3年生で、インターナショナルスクールに通っている。大学入学の準備があるため、日本に帰国して再入国できなくなる可能性を考え、フィリピンにとどまることを決めたという。
駐在員の夫は建築関係の日系企業に勤めている。しかし、製造業を中心に多くの日系企業が操業を中止したように、建設現場も稼働していないため、夫はパソコンを使った在宅勤務にシフトしている。丸橋さん自身は、テニスや合唱クラブなどに所属し、ほぼ毎日出掛けていたが、マニラ封鎖以降は自宅で過ごす時間が増え、オンラインゲームや「ズンバ」と呼ばれるダンスエクササイズなどをしながら過ごしている。
そんな丸橋さん一家は、運転手付きの車を保有しているため、公共交通機関の停止による影響はほとんど受けていない。それどころか、ジプニーの排気ガスがなくなって空気がきれいになり、夜空には星が輝いていると驚く。食材の買い出しは、住んでいるコンドミニアムから徒歩圏内のショッピングモールで済ませており、「最低限生きていく分には特に不便を感じていない」という。
フィリピンに残った日本人同士による情報交換も活発に行われ、そのLINEグループには400人以上が参加している。
「デリバリーをやっている飲食店や子供のミルクが売っている店などの情報を共有しています。大統領の会見など政府発表のタガログ語が分からない場合は、できる方が内容を訳してくれます。みんなで助け合っています」
もし自分や家族が感染したら……
だが、万一のことを考えるとおちおち過ごしてもいられない。マニラ首都圏でコロナ感染者の治療に当たってきた複数の病院が、病室や医療スタッフの不足から、新規の入院患者を受け入れることができなくなった。医師も9人がコロナ感染で死亡している。これ以上拡大すれば、医療崩壊につながりかねないと、丸橋さんは不安をのぞかせている。
「もし自分や家族が感染したら、フィリピンの病院は日本よりも患者を受け入れてもらえなそう。イタリアみたいな医療崩壊は懸念事項です」
このまま封鎖が続けば、収入が途絶えた運転手や飲食店の従業員など庶民の我慢もいつまで持つか分からない。生活が困難になれば、暴徒化の危険性もあるだろう。丸橋さんが言葉を継いだ。
「今のような締め付けが続けば、治安の悪化を招く可能性があります。庶民が暴徒化すれば、日本人はお金を持っているとして襲われるかもしれない」
マニラ封鎖はどこまで実効性をともなっているのか、今のところは未知数だ。期限は4月14日。ドゥテルテ政権の徹底ぶりとは裏腹に、今も尚、刻一刻と感染者は増え続けている。
水谷 竹秀
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ふっかけクン | 2日前
絶賛マニラ在住中ですが、記事にある通りの状況です。当初は4月半ばまでの予定でしたが、医療機関は崩壊寸前、感染者急増中と、なんとなく延長されそうな予感が漂っており、やや絶望的な状況になりつつあります。昨日スーパー行く道中、食べ物が街中からなくなって飢餓寸前の仔猫ちゃん見つけて、人間だけへの影響じゃないんだなぁってつくづく痛感しました。とりあえず買ったツナ缶あげときましたが、皆さんもこういう状況に陥る前に、きちんと外出自粛やらの要請を守って、お互い協力しながら感染拡大防止に努めましょう。。
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siz***** | 2日前
フィリピンのコロナ急増ぶりは今アジアで最悪。
問題点は沢山あるが、フィリピン人の多くが主要先進国に出稼ぎに行っており、感染しやすい接客業中心に就労して、感染したまま自分の田舎に持ち帰っているので、ロックダウンしても感染者の把握は出来ない。また国民の90%は貧困層で一つの部屋で一家全員が生活を共にするのが普通で民家が密集してるスラムや家庭内で蔓延してる恐れが高い。医療も最悪最低で金が無ければ病院は門前払い、患者自身の勝手な処方で薬局で買った市販薬で治そうとするし、実際の感染者、死者数は数倍いると思われる。
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kkpon | 2日前
フィリピン在住のものです。3月15日にマニラがLockdown(封鎖)されてから、ドテルテは、各自治体に判断を任せたのですが、フィリピン全域で右へならえで、市単位、それよりも小さい行政区単位で実質封鎖されています。
日銭で暮らしている人たちは食べるにも困っている状態です。基本的には自治体が支援しているはずですが、予算を使いこんだところもあり、格差感があります。
封鎖2週間で、病気の伝染はしていないはずなので、まだ、感染者のあぶり出しが行われている感じです。検査が遅かったり、医療従事者が感染したりで医療機関は大変なことになっています。
数字を見る限りでは、そろそろピークかなと思っています。もし、封鎖していなかったら、恐らく数十倍に膨れ上がっていたと思います。
夜間外出禁止も真っ先に行われ、今となっては、やはり夜の街で追跡不可能となったのが封鎖のトリガになったのかなとも思います。
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※※※ | 2日前
フィリピンも感染者の正確な人数は出ていないのが現状です。ロックダウンされる際の大移動でかなり広がったのは事実です。
昨日 報道番組でインタビューを受けた医師が
感染の疑いがある人数を入れたら数万人になると言っていました。中国からの検査キットに問題があると発表した後に やはり問題ないなど
と訂正したり、知人の医療関係者は医療崩壊に近い話もしてました。マニラ首都圏の主要病院では新規受け入できない状態です。
皆さんが仰るように日本を外から見ていると
本当に大丈夫なのか心配になります。
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sof***** | 2日前
私もマニラ在住ですが、この記事だと夜間の外出が禁止のように読めます。しかし基本的に24時間外出禁止です。外出は1家庭1人のみ、生活必需品の買い物か銀行などの用事のみ。老人と子どもは外出禁止です。うちの子達も2週間以上1歩も外に出ていません。テレビで報道されるのはアメリカやヨーロッパばかりでフィリピンは報道されないと思っていたところに、せっかくやっと報道してもらえたのに正しい内容ではなく残念です。
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ちょっと一言 | 2日前
ニョーボの実家が、マニラから数十kmの所だが、やはり外出は抑制されているそうだ。
買物なども、一人で行けと言われているそう。
義妹なんか、家から一歩も出ておらず、ちょうど良いから受験勉強しているとのこと。
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har***** | 2日前
いい 加減な記事。 封鎖はフィリピン全土の町でやってる。遠く離れたパラワンの都市もだ。
スーパーは短時間営業, すでに生鮮など商品は空っぽ。食べるのが難しくなってきた状態。
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taro-yahoo | 2日前
混沌の中にも秩序や礼儀作法があるのがフィリピン
いい加減そうでまじめな部分も多い
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h16***** | 2日前
完全封鎖はマニラの発生源とされてる地区だけと聞いてます。
ただ、全土にて外出などは書かれてる通りの1家族に買い物とか1人、ジプニーなども1メートル間隔で座るように指示わされてると、
バランガイにもポリスの巡回が1日に数度あるとも。
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kyv***** | 2日前
タイにいますが
マニラよりはマシですが
日本もマニラと同じように強制するのがいい。