ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

風の向くまま、気の向くままに……

WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.23)

2007-09-30 07:25:14 | 共同海損事件
 これまでのところで、共同海損の基本原則、その歴史的な背景、それを国際的に規制するヨーク・アントワープ規則等を踏まえて、「荷主も共同海損事件において、到達地価額を基準にして、平等原則に立った一定の責任分担が必要」であることが理解されたと考える。
 では、その分担責任を担保するために、どのような手続が行われていくことになるかについて、このVOL.23以降で言及していくこととする。

 その点を言及していくに当たり、貿易条件との関係で、海上保険の付保について貿易条件類型により、買い手受荷主が手配したり、売り手出荷主が手配することがあることについて、これまでのところで触れた。
 しかし、国際貿易取引において、全ての取引について海上保険が付保されているとは限らない。つまり、無保険貨物もあるということになる。
 このような、無保険貨物の場合と、海上保険が付保されている場合で、その取扱が基本的に異なる。

●無保険貨物の場合

 共同海損精算人は、すべての積荷貨物について、共同海損精算が終了後、しかるべき分担額をそれぞれの当事者に求めることになるが、精算手続きに長期間必要とされる場合もあり、精算手続き終了後に請求しても応じてもらえない可能性が大きくなる。
 その結果、回収不能等による回収損失が発生すると、精算手続自体の公平性が失われることになる。
 その公平性を保つために、無保険貨物についてどう扱うか、ということになる。
 精算手続きに長期を要する場合が多いことから、無保険貨物荷主の場合、企業が倒産している場合もあり、それに伴い回収損失が発生しないよう、分担額概算に沿い、現金を徴収してそれを担保資産とすることになる。

 前回VOL.22で、共同海損宣言状(General Average Declaration Letter)の中に、共同海損分担率を明記すること、及び、救助が関係する共同海損事件の場合には、救助費用に係わる分担率を明記すること、について触れた。
 この明記された分担率に沿い、次のように、必要な現金供託額が計算されるのが一般的である。

    (A)C&F価額×共同海損分担率=共同海損に伴う現金供託額
    (B)C&F価額×救助料分担率=救助に関わる現金供託額  
     合計:  共同海損及び救助に関わる現金供託額合計
     (*)ただし、(B)については救助が必要に事例に限定される。

 今回の"WAN HAI 307"号と"ALPHA ACTION"号の衝突事件に伴う共同海損については、既に触れたように、株式会社日本サルベージサービスが救助作業を成功裏に完了し、成功報酬込みの救助料がロンドンでの仲裁裁定を通じて決定され、それが決定された後に、同じくRichards Hogg Lindley Hong Kongによって、分担精算が進められていくことになる。
 ただし、この無保険貨物の場合も、次に掲げる共同海損盟約書(Average Bond)及び商業送り状(Commercial Invoice)、C&F価額を算出するのに必要な資料の提示等が求められることになる。

●海上保険が付保されている貨物の場合

 積荷貨物に海上保険が付保されている場合、その海上保険の条件に「共同海損に伴う分担金について保険でカバーする」条項があり、荷主を代理して、貨物保険会社が共同海損の分担保証を行なうことになる。
 また、救助が関係する共同海損事案についても、同様に、貨物保険会社が救助料の分担保証を行なうことになる。
 必要とされる手続は下記の通りである。

〇共同海損盟約書(Average Bond)

 共同海損盟約書とは、荷主から船主もしくは船会社宛提出される「共同海損分担額支払の誓約書」である。
 つまり、荷主として、共同海損、救助費、特別費用の分担額支払、積荷価額を証明する書類の提出、および、分担額の内払等を約束する文言になっており、荷主の署名、サインが必要である。
 共同海損盟約書は、通常、ロイズ書式(Lloyd's Form)が使用されている。

 共同海損債権の保全手段としては、船荷証券(B/L)裏面に"LIEN(留置権)"を規定しており、留置権、先取特権などの権利保全の手段があるが、この共同海損盟約書と上記で触れた現金供託や、この後で触れられる担保の提供を受けて、速やか荷貨物の引渡しを行なっているのが実情である。

 共同海損分担義務は共同海損行為のあった時点から存在し、共同海損盟約書の提出とは無関係である。他方、この提示により、いかなる共同海損精算の結果にも従うことを約束するものではない。
 従って、正当な共同海損でない場合には応じる必要がない、ということになる。

 これまでで、共同海損(General Average)手続の中の共同海損盟約書(Average Bond)の部分について、取り上げたが、その他の手続書類、また、手続についてVOL.24の中で、説明を加えていくこととする。 
 Written by Tatsuro Satoh on 30th Sept., 2007

最新の画像もっと見る