春浅し
沈黙の冬は去れリ。しかも春なほ甚だ浅し。
霜はとく消えて、表面のみかさかさと乾ける地面より、早くも水仙・ヒヤシンスの芽の出でたるを見る。
其のみずみずしき緑よ。ばら・楓等の芽も、少しく紅の色を増せり。
空はなほ冬と異ならず。さえたる青空に、小さく断続せる白雲、おもむろに西より東に向かひて移動す。風寒く、天地清明にして静か也。時に、大工の振るふ槌の音の遠く響くを聞く。
梅は未だ咲かず。蕾おしなべて固し。されど、南を受けたる崖下など、たまたま白梅の数輪咲きそめたるを見る。
冬の衰へはすでにあとを絶てり。新鮮の気天地に潜む。
朝夕立ちこむるうすもやに、うたゝ春のかすみを思ふこと切なり。
沈黙の冬は去れリ。しかも春なほ甚だ浅し。
霜はとく消えて、表面のみかさかさと乾ける地面より、早くも水仙・ヒヤシンスの芽の出でたるを見る。
其のみずみずしき緑よ。ばら・楓等の芽も、少しく紅の色を増せり。
空はなほ冬と異ならず。さえたる青空に、小さく断続せる白雲、おもむろに西より東に向かひて移動す。風寒く、天地清明にして静か也。時に、大工の振るふ槌の音の遠く響くを聞く。
梅は未だ咲かず。蕾おしなべて固し。されど、南を受けたる崖下など、たまたま白梅の数輪咲きそめたるを見る。
冬の衰へはすでにあとを絶てり。新鮮の気天地に潜む。
朝夕立ちこむるうすもやに、うたゝ春のかすみを思ふこと切なり。