狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

夜汽車

2007-02-07 13:59:12 | 

〔エッセー通信④〕
こんなA4版の印刷物が新聞切り抜きスクラップブックの中から出てきた。県内に住まいのM氏が、作者から送られてきた、この「エッセー通信」更にをコピーしてボクに送ってくださったものである。実名を記しても差し障りないかもしてないが、ここではKさんとしておこう。そしてエッセーには触れずに、Kさんが引用した『夜汽車』という詩をお借りする。

   夜汽車      大木実
 いつの旅であったろう
 となりあわせた女のひとが
 窓に向かって泣いていたのは
 その背なで安らかそうに幼児が眠っていたのは

 また いつの旅であったろう
 むかいあわせた老人が
 手紙をしめして行く先をたずね
 哀しい身のうえを語ったのは

 灯火(ともしび)も暗く すちいむも通わぬ
 田舎の小さな町から町へ行く終列車

 ああ あのひと達
 一時間ほどいっしょに過ごしただけなのに
 おそらく生涯 二度と会わないであろう
 何でもないあのひと達なのに――
            (昭和23年刊「路地の井戸」より)