刑場まであと少しの所で男が言った。「すまんけど、目隠しを……」。「きつかったかい」と尋ねる係官に「いいえ。一度はずしてください」。しばり直すわずかの間に天を仰ぎ、つぶやいた。「……広い空ですね」。名古屋刑務所の刑務官だった板津秀雄さんの『死刑囚のうた』(素朴社)の一節だ。
その日は今日か明日かとおびえ、あるいは、従容として刑場に向かう。いくつもの「死刑の現場」に立ち会った人の証言は重い。後に死刑廃止運動に加わり、98年に亡くなった。
法務省が、4人の死刑囚の刑を執行したと発表した。1年余ぶりの執行で、一度に4人は97年以来だ。背景には、死刑確定囚が100人を超えることへの法務省の懸念があるともいうが、ことは数の多少で左右されるものだろうか。
昨日は名古屋高裁で、死刑囚の再審請求についての決定があった。61年に三重県で起きた「名張毒ブドウ酒事件」で、同じ高裁が昨年認めた再審開始の決定を取り消した。
事件がむごたらしいことや、裁判官によって判断が異なりうることは分かる。しかし、長い歳月、冤罪を訴えつつ死と隣り合わせになってきた身も思われた。
刑法学界の重鎮の団藤重光さんは、東大教授を経て最高裁判事になった。実際に死刑事件を扱う立場に立ってから、取り返しのつかない誤判の恐ろしさを心底理解したという。「いまさらながら事実認定の重さに打ちひしがれる思いでした」(『死刑廃止論』有斐閣)。09年に裁判員制度が始まれば、誰もがその重さを背負う可能性が出てくる。
その日は今日か明日かとおびえ、あるいは、従容として刑場に向かう。いくつもの「死刑の現場」に立ち会った人の証言は重い。後に死刑廃止運動に加わり、98年に亡くなった。
法務省が、4人の死刑囚の刑を執行したと発表した。1年余ぶりの執行で、一度に4人は97年以来だ。背景には、死刑確定囚が100人を超えることへの法務省の懸念があるともいうが、ことは数の多少で左右されるものだろうか。
昨日は名古屋高裁で、死刑囚の再審請求についての決定があった。61年に三重県で起きた「名張毒ブドウ酒事件」で、同じ高裁が昨年認めた再審開始の決定を取り消した。
事件がむごたらしいことや、裁判官によって判断が異なりうることは分かる。しかし、長い歳月、冤罪を訴えつつ死と隣り合わせになってきた身も思われた。
刑法学界の重鎮の団藤重光さんは、東大教授を経て最高裁判事になった。実際に死刑事件を扱う立場に立ってから、取り返しのつかない誤判の恐ろしさを心底理解したという。「いまさらながら事実認定の重さに打ちひしがれる思いでした」(『死刑廃止論』有斐閣)。09年に裁判員制度が始まれば、誰もがその重さを背負う可能性が出てくる。